一般公開以来さまざまなメディアに取り上げられ、数々の賞を受賞してきたウイスキー体験。ジョニーウォーカーの大胆なアプローチは、ウイスキーの新しい消費者層を開拓する意欲に満ち溢れている。

文:クリスティアン・シェリー

 

ウイスキー・メーカーズ・セラーでウイスキーのテイスティングを始める直前に、エマ・ウォーカーを見つけて話しかけた。ジョニーウォーカーのマスターブレンダー。そんな肩書に相応しい威光を放っている。ジョニーウォーカー・プリンセスストリート・エクスペリエンスのために、ウォーカーをはじめスタッフ全員がそれぞれ特注のブレンドを調合してくれた。

「このセラーのスペースをどのように使えば、私たちブレンダーチームの仕事を紹介できるか話し合ってきました。さまざまな樽から原酒を集め、世の中の人たちが楽しんでくれそうなブレンドを考える。そんな日々のウイスキーづくりを表現したいと思っています」

マスターブレンダーのエマ・ウォーカー。11人の同僚と共に、ジョニーウォーカーのフレーバー表現を追求している。ツアーに組み込まれたテイスティングでは、その妙技の一端が味わえる。

そしてこのビジター体験では、日々の業務よりも創造的なブレンディングを実践できるのだという。

「私たちは自由な裁量を与えられて、白紙の状態からウイスキーの香味を組み上げられます。この環境が用意できたは、本当にエキサイティングなことでした」

ジョニーウォーカーの11人のブレンダーが、11種類のブレンドを調合する。それぞれの香味は、ブレンダーごとの来歴や哲学を反映したものだ。みな作りたい風味を決めて、明確に表現している。「ウイスキー・メーカーズ・セラー」訪問の締めくくりとして、グループごとの好みに合わせたブレンドを味わうことができるのだ。

フレーバーを第一に考えるウイスキー体験は、これまでに見てきたエクスペリエンスの内容とも完全に理念が合致している。イノベーションチームやリテールチームと議論しながら、原酒を選んでウイスキーをブレンドするのがウォーカーの仕事。役割は違っても、フレーバー至上主義はジョニーウォーカーの合言葉なのだと語る。

「どんなフレーバーポイントを設定するのか。メインのフレーバーは何にするのか。どんなスタイルにまとめあげて、どんな飲み方をおすすめするのか。役割はそれぞれ異なっていても、フレーバーを追求する心は同じなんです」

テイスティングをしようとセラーに降りると、予想を遥かに上回る種類のウイスキーが待っていた。ライ麦と大麦を原料にしたや、スパークリングワイン用の酵母株で熟成させたグレンエルギン。たくさんのモルトウイスキーとグレーンウイスキーが揃っている。ブレンダーがブレンドしたウイスキーを選ぶ前に、ゲストは見事なセレクションからウイスキーを選んでテイスティングできる。ホスト役のダーンも魅力的な人だった。

テイスティング体験が終わって、ショップに向かう。自分で季節のブレンドがボトリングできるコーナーもあれば、インスタ映えするネオンライト(「未来のハイボール」が特におすすめ)もある。明るく、革新的で、わかりやすい空間になっている。

モルトウイスキー専門コーナーには他ブランドの限定品なども置かれているが、それ以外はすべてジョニーウォーカーのブランドに染め上げられている。ウイスキーはもちろん、あらゆる種類のグッズを完備したショップなのだとスミスが語る。

「一般客も入れるショップは、とても人気があります。プリンセスストリートを歩いている人たちがふらりと立ち寄るだけでなく、ツアーに参加してすっかりジョニーウォーカーのファンになった人たちも感情移入してくれるんです」
 

ウイスキー観光から生まれる未来

 
ジョニーウォーカー・プリンセスストリート・エクスペリエンスは、スコットランドのウイスキー観光にどんな影響を与えたのだろうか。マネージングディレクターのバーバラ・スミスが、そんな問いに答える。

「このような施設ができることへの期待は、ずっと高かったのだと思います。実際にこの施設が登場したことで、本当に全体のレベルが上がりました。人々はユニークなエクスペリエンスを気に入って、さらに多くを求めるようになったのです」

エディンバラの新名所となった施設は、スコットランド全体の風土や伝統にもスポットを当てている。まさにナンバーワンブランドの矜持を感じさせるアトラクションだ。

この施設の成功を、他のウイスキーメーカーはどう思っているのだろう。

「ウイスキー界に革新と成長をもたらしたという点では、みな肯定的に受け止めているようです。私たちのアプローチがウイスキー業界全体にも利益をもたらすことがわかり、同様の投資に乗り出すところも出てきています」

さらに重要なポイントがある。施設がスポットライトを当てたのは、ジョニーウォーカーだけもなく、エディンバラだけでもない。特にスコットランドの四隅と呼ばれる他の蒸溜所にも光を当てるのが重要な目的だったのだとスミスは言う。

「各蒸溜所で働く人々や、その土地の環境、そして受け継がれた遺産や実績なども紹介したことが新鮮に受け止められたのでしょう。他のウイスキーブランドに、そのような機会や能力があるかどうかはよくわかりません。だからこそ、私たちの達成はとても意義のあることだと思っています」

この施設をオープンする巨額の投資は、それに見合った価値があったのだろうか。スミスは答えて言う。

「ウイスキー業界は競争の激しい世界ですが、互いに協力しあう伝統もあります。このようなスコッチ・ツーリズムへの投資も、そんな健全な競争を促してくれることでしょう。同業者もさまざまな投資に乗り出しています。でもここプリンセスストリートは、本当に際立っていますよね。私たちがいつも全体のレベルを上げているという自負もあります」

マンネリ化に陥らないように、今は新しいアイデアを次々と投入するときだ。新しく始まった「ドラムズ&ブリューズ」は、ウイスキーと水出しコーヒーをペアリングした斬新なイベント。そしてここエディンバラのコミュニティーとも関係を強化していかなければならない。そんな決意をスミスは口にする。

「ジョニーウォーカーというブランドを活動の中心に置きながら、文化的なハブになるのが私たちの目標です。だからこそジョニーウォーカー・プリンセスストリート・エクスペリエンスには、観光客だけでなく地元の人々にもぜひ訪れてもらいたいといつも願っています」

そろそろ結論を話そう。ジョニーウォーカー・プリンセスストリート・エクスペリエンスは、わざわざ訪れる価値があるのだろうか。答えは断然イエスだ。ツアーは工夫が凝らされ、情報量が多く、活気があり、そしてもちろん楽しい(光と音に敏感な方はご注意)。バーから眺めるエディンバラ城は見逃せないし、素晴らしいホスピタリティも体験してほしい。

ジョニーウォーカー・プリンセスストリート・エクスペリエンスは、ウイスキー愛好家にとっても知的好奇心を満足させる場所であり、ウイスキーについてまだ深く知らない人たちも温かく迎えてくれる。

この施設が目指したのは、ウイスキー体験の民主化ではないか。もしそうなら、その目的は十分に達成されている。