自社だけではなく、ウイスキー業界全体の革新に寄与する蒸溜所。ポートナーチュランの思想は、聖地アイラからウイスキーの未来を変えていく。

文:フェリーペ・シュリーバーク

 

まったく白紙の段階から、ウイスキー製造の全権を考察する。ポートナーチュラン蒸溜所長となるジョージー・クロフォードは、そんな大役を光栄に感じた。これまでのキャリア集大成となるようなプロジェクトであることは間違いないだろう。クロフォード本人が、現在の計画について教えてくれた。

「ポートナーチュランでは、すべてピーテッドモルトを使います。まさしくこの島で生まれたアイラスタイルの王道を行く味わいになる予定です。それでも同時に、毎年4〜5種類の異なるスピリッツをポートフォリオに加えていきたい。色んな酵母を使ったり、蒸溜方法を変えてみたり、何でも自由に試してみようと思っています」

ラガヴーリンやポートエレンの生産部門を管轄してきたジョージー・クロフォード。ポートナーチュラン蒸溜所長として、アイラモルトの伝統を進化させるために知恵を絞っている。

新しい蒸溜所の設備は、そういったフレキシブルな原酒のつくり分けに対応できるように配慮されている。異なったスタイルのスピリッツを別々の生産シフトでコントロールしやすい環境なので、クロフォードも自由自在に実験を繰り返すことができるだろう。

「これから新たに建設する蒸溜所だからこそ、いろいろ便利に設計できたのは贅沢な状況だったともいえますね。通常の施設なら、例えばピーテッドとノンピートを切り替えるだけで大変な作業が待っています。フェイント(後溜液)をタンクに入れてどこかに保管したり、多くの手間をかけなければなりませんから。でもここでは、5種類のスピリッツを簡単に切り替えられるような設備が用意できるんです」

ここまで話を聞いただけでも、ポートナーチュランが極めて実験的な蒸溜所であることがわかっていただけると思う。だがそれをはるかに上回る斬新なアイデアが、「蒸溜所内の蒸溜所」の計画だ。ポーティントルーア蒸溜所の敷地内には、できるだけ多くの種類のウイスキー製造を目的とした年間生産量10万リットルのパイロット蒸溜所も併設される。

この施設には、さまざまな種類の穀物を処理できるハンマーミルをはじめ、ポットスチル2基、コラムスチル、レトルトスチルが整備されるのだという。あらゆる種類のモルトウイスキー、ライ麦を含むグレーンウイスキー、さらにはラム酒の生産も可能だというから驚きだ。

パイロット蒸溜所のユニークな機能は、ウイスキー業界全体の相互協力を可能にしてくれる。クロフォードにとっても、それは大いに期待できる環境なのだという。

「私たちは、ここで長期的視野に立ったコラボレーションを実現できると考えています。エリクサーディスティラーズのチームだけでなく、飲料業界全体のさまざまな人々が小規模な実験を試みてみたり、ちょっとしたアイデアを持ち込んだりすることもできるのです」

エリクサーディスティラーズは、ここにクラスルームやノージング用のラボも設置する。みんなが見学したり、勉強したりできる場所としても利用できるようになる予定なのだとクロフォードは明かした。
 

透明性を重視したイノベーション基地

 
そしてポートナーチュランは、酒類業界のインサイダーではない人々も受け入れる準備がある。つまりは一般のウイスキーファンや観光客向けのビジターセンターだ。アイラ島で生まれる他の新しい蒸溜所(「アイリーク」を生産するアードナホー蒸溜所を含む)と同様に、ポートナーチュラン蒸溜所も見学者のアクセスや教育を重視する。

ビジターに向けたサービスとしては、ウイスキー生産の透明性も優先させる方針だ。チルトンによると、製造中のマッシュやスピリッツの様子を見学者が見られるように、いくつかのエリアには透明な配管を設置する。クロフォードのチームの作業を妨げずに、ウォッシュバック内部の様子を簡単に見られる工夫も凝らすようだ。

通常の生産施設だけでなく、実験用のパイロット蒸溜所も敷地内に設置するポートナーチュラン蒸溜所。食料品店からスタートしたウイスキー事業が、この地から世界の酒類業界に影響を与えていく足がかりとなる。

アイラ島にポートナーチュラン蒸溜所を建設し、スペイサイドではトーモア蒸溜所を買収する。そんな大胆な投資を繰り出しながら、近年のエリクサーディスティラーズは素晴らしい歩みを続けてきた。

ポートナーチュラン蒸溜所が生産を開始する年は、食料品店を運営していた創業者兼オーナーのスキンダー・シンが1999年に初めてウイスキーの販売を始めてから(当時の屋号は「スペシャルティ・ドリンクス」)ちょうど25年になる。ヘッドブレンダー兼ビジネスマネージャーを務めるオリバー・チルトンは、スコッチウイスキーの歴史にエリクサーディスティラーズの成長をなぞらえて言う。

「200年ほど前、ちょうど我々と同じような発展を遂げたウイスキーメーカーがいくつもありました。食料品店から独立系のボトラーになり、さらには原酒を集めてブレンダーになり、さらには原酒の供給を確保するために蒸溜所を買い取って、最終的にスピリッツのメーカーになった企業をたくさんご存じでしょう。意図せずして、私たちもそんな200年前の先人たちと同じルートを辿ってしまったのです。そんな運命をなぞっている状況も、かなり気に入っているんです」

チルトンが言及しているアッシャー家やウォーカー家は、香味豊かなブレンデッドウイスキーを大量生産することで新境地を開拓した。現代のエリクサーディスティラーズは、ポートナーチュラン蒸溜所の建設によって新しいウイスキーづくりの流れを創始する。

急速に変化しているウイスキー業界において、このアイラの新しい蒸溜所には大きな期待が寄せられている。現代のパイオニアとして活躍する未来は、もはや疑いようもないだろう。