アイラ島で11番目の蒸溜所が来年開業する。噂のポートナーチュランは、いったいどんなウイスキーをつくるのか。驚きの方針が明かされる2回シリーズ。

文:フェリーペ・シュリーバーク

 

前回のアイラフェスティバルで、ぜひ訪ねて置きたい場所があった。それは、アイラ島南東部のポートエレン郊外にあるというポートナーチュラン蒸溜所の建設予定地。だが現地を訪ねようとしたら、少し道に迷ってしまった。まだ工事も始まっていないので、正式な案内などは何もない。うっかり見逃してしまいそうなほど小さな看板には、乱雑な文字でただ「WHISKY」とだけ書かれていた。

エリクサーディスティラーズ創業者兼オーナーのスキンダー・シン。食料品店からボトラーに転身し、ついにスピリッツ製造にも乗り出した。

その看板を目印にして未舗装の道路を進んでいくと、目的地の建設予定地に出るのだ。そこには将来の蒸溜所の展示室として再利用される輸送用コンテナが2つ置かれていた。そんなわかりにくい場所にも関わらず、好奇心旺盛なアイラフェスティバルの参加者たちが続々と現地にやってきた。

この日は、ポートナーチュラン蒸溜所の建設予定地が一般公開される初めての日。辿り着いた来場者は、エリクサーディスティラーズが用意したたくさんのウイスキーで出迎えられた。

その日に見た蒸溜所の敷地は、建設待ちの広大な平地に過ぎなかった。それでもコンテナの内部には、アイラ島で11番目の蒸溜所となる建物の設計図が掲げられていた。これが完成すれば、ポートエレンから東に向かう道路で真っ先に出会う蒸溜所となる(現在はラフロイグ蒸溜所がいちばん近い)。この道路はラガヴーリン蒸溜所とアードベッグ蒸溜所にも通じており、道中にはテキサ島を望む小さな湾を見下ろすことができる。

2024年の生産開始を目指すポートナーチュラン蒸溜所は、エリクサーディスティラーズによる新規事業である。創業者兼オーナーのスキンダー・シンと、彼の右腕でヘッドブレンダー兼ビジネスマネージャーを務めるオリバー・チルトンによる努力の結晶だ。

蒸溜所を新設するプロジェクトが生まれたのは、2013年にまで遡るのだという。シンとチルトンがウイスキーへの情熱を語り合っているうちに、やはり自分たちの蒸溜所を建設するしかないだろうという話になった。アイラ島に対する2人の愛はもちろん、これからウイスキーのストック調達が難しくなるという将来への見通しもあった。その日から、静かではあるが実現に向けて動き出していたのだと本人たちは語っている。
 

過去と未来をつなぐ夢

 
そもそも構想からすでに10年も待っているのだから、2人が蒸溜所の開業に向けて熱を帯びているのも無理はない。チルトンが現在の気持ちを語る。

「いずれは自分たちが、蒸溜所をぜひとも建設したい。いや、建設しなければならないということはわかっていました。私たちはオールドボトルの愛好家でもあるため、どちらかといえば伝統的なウイスキーづくりを志向しています。かつてのウイスキーがどのような味わいだったのか、どのようにつくられていたのかを改めて検証してみたいのです」

ヘッドブレンダー兼ビジネスマネージャーを務めるオリバー・チルトン。相棒スキンダー・シンと共に、聖地アイラ島で夢のような大事業に挑む。

チルトンとシンには、他の目標もある。それは、さまざまに異なったスタイルのウイスキーをできるだけ多くつくること。そうすることで、ウイスキーの複雑な香味を追求し続けたいのだという。蒸溜所内でのフロアモルティングや、直火式ポットスチルを使ったモルトウイスキーの蒸溜など、20世紀の大半を通じて典型的だったウイスキーづくりのスタイルを再興するのが大きなポイントだ。

完成後に蒸溜所長を務めるのは、ジョージー・クロフォードだ。かつてラガヴーリン初の女性蒸溜所長として活躍し、同じディアジオのポートエレンでも素晴らしキャリアを過ごしてきた。現在は、新しい蒸溜所でウイスキーづくりに使用する設備の構成に知恵を絞っている。

アイラフェスの担当日、クロフォードはVRヘッドセットの技術者となって来場者の案内役を務めた。完成後の施設を3Dで表現した仮想空間で、ゲストに散策してもらうのだ。

このバーチャルツアーでは、これから蒸溜所に配置される生産設備の詳細が明かされる。メインの蒸溜棟に設置されるウォッシュバック(発酵槽)は14槽(木製8槽、ステンレス製6槽)。いずれも発酵時の温度管理を向上させるために、冷却ジャケットを装備する予定だ。そして直火式のウォッシュスチル(初溜釜)とスピリッツスチル(再溜釜)が、それぞれ2基ずつで対をなす。

このような設備によって、蒸溜所は最終的に純アルコール換算で年間100万リットルのスピリッツを生産する予定だ。ただし最初の数カ月は生産能力の半分程度で操業され、チームが新しい環境に慣れながら設備の特性を把握する期間にあてるのだという。
(つづく)