特別なウイスキーの演出には、さまざまなアプローチがある。だがもっとも重要なのは、コレクターや消費者を納得させるブランドの信頼だ。

文:グレッグ・ディロン

 

ハイランドのグレングラッサ蒸溜所では、他の蒸溜所とまったく異なる「高級品」のアプローチがとられている。グレングラッサといえば、姉妹蒸溜所はグレンドロナックとベンリアックだ。

この3つのブランドのコアレンジは、マスターブレンダーのレイチェル・バリーが管轄している。だがグローバル・ブランド・アンバサダーのスチュワート・ブキャナンによると、マスターブレンダーが個別の樽まで最終的に指示をすることはないのだという。

海沿いのニュアンスが持ち味のグレングラッサには、コアレンジとプレステージの商品ラインナップがある。ブキャナンによると、グレングラッサ蒸溜所は独立系のバイヤーと協力し、一般には決して出回らないオールド&レアなウイスキーも産出しているのだという。

「地域限定品やプライベートカスクの販売は、購入者がより積極的に自分の欲しい表現を手に入れられるチャンス。蒸溜所を訪れて樽出しの原酒を試飲したり、パッケージをカスタマイズしたり、蒸溜所と直接的な関係を築いたりするのも大切な接点になります。そのようなニーズのすべてが限定品でできること。消費者の動機はさまざまなので、購入したものを最終的にどうするかは持ち主にゆだねています」

ウイスキーオークショニアのジョー・ウィルソンウィルソンやウイリアム・グラント&サンズのジョナサン・ギブソンギブソンと同様に、ブキャナンもこのような限定品はあくまでウイスキーとして消費されるべきものだという考えを持っている。

「個々の原酒は、熟成のピークに達した状態でボトリングされます。つまり最高の香味が表現されたウイスキーなので、最終的にはいつか飲んで味わってほしいですね」

オールド&レアというカテゴリーのウイスキーを発売する上で、価格設定は非常にデリケート問題となる。価格設定を間違えれば、この先何十年も棚に埃をかぶったまま放置され、お高く止まった時代遅れのウイスキーという印象だけが残りかねない。だが価格を適切に設定すれば、販売のペースも速まり、次のリリースに向けて新たな期待も増してくるだろう。ブキャナンは言う。

「熟成年数、ボトル数、パッケージング、市場における蒸溜所の認知度などが、こうしたリリースの価格設定を決める重要な要素です。高級シングルモルトのバイヤーは世界中の市場に目を光らせているので、世界のどこでも一貫した価格設定で販売する必要もあります。透明性を保つことが、極めて重要なのです」
 

適正な価格の定め方

 
ウイリアム・グラント&サンズの高級ウイスキーシリーズ「ハウス・オブ・ヘーゼルウッド」のマーケティング・ディレクターを務めるジョナサン・ギブソンにとっては、限定品のプレミアム度と希少性の方が重要になる。使用するそれぞれの樽原酒が、創業家であるグラント家との深いつながりを語ってくれるからだ。

「限定品に使用されている原酒は、この種のウイスキーの中でも屈指の酒齢と希少性があります。かつては一族が所有し、個人的に消費するために保管されていたものだから。多くの場合、ウイスキーそのものに個人的なつながりがあり、それぞれのウイスキーが異なる時代の思い出に結びついています」

ウイスキーの価格設定にあたっては、そのウイスキーの希少性と産地を尊重し、正当な価格で市場に出すことを心がけているのだとギブソンは言う。その上で、ウイスキー愛好家やコレクターが納得し、コレクションを購入したくなるような配慮も必要だ。

ブラウン・フォーマン傘下のベンリアック、グレンドロナック、グレングラッサを統括するレイチェル・バリー(マスターブレンダー)。メイン写真は、シェリー樽熟成への高い評価を追い風にしたグレンドロナックの「グランデュワー」シリーズ。

「もともとは、創業家の個人的なコレクションだった熟成原酒。それを一般消費者のために開放するという背景を念頭に置きます。妥当な価格であると感じた消費者がボトルを購入したくなり、やがて時期が来たら開栓して中のウイスキーも楽しんでもらうのが私たちの望みです」

ディアジオでグローバル・プライベート・クライアント・ディレクターを務めるジェームス・マッケイも、価格設定に関しては同じような意見を持っている。最終的な価格設定のモデルには、さまざまな要素が組み合わされていると説明してくれた。

「品質は最低条件です。お客様が購入の前にテイスティングしますから。美味しさの基準は主観的ですが、コレクションの条件は卓越したウイスキーであること。その上で、産地の物語も重要になります。お客様は、特定の場所と時間で生産されたウイスキーを高く評価しています」

タリスカー、モートラック、ポートエレン、ブローラなど、特別な出自を感じさせるシングルモルトの評価が高い。ブレンデッドでは、ジョニーウォーカーが評価される傾向にあるとマッケイは言う。

「繰り返しますが、品質の判断は極めて主観的なもの。そして最後に重要なのは希少性です。世界に数本しか残っていないことが知られていれば、そのボトルを開けて分かち合う機会の特別さを意識しますから」

二次市場の趨勢を眺めていると、マッカラン、ダルモア、アードベッグなどが発売する特定の限定品が大きな影響力を持っている。このような特定の銘柄が人気を集めるのはなぜだろうか? ウィルソンは、銘柄によって答えが異なると考えている。

「マッカラン、ボウモア、ダルモアのような蒸溜所のモダンな商品は、手の込んだパッケージ、アーティスト、ファッションハウス、自動車メーカーなどとの注目度の高いコラボレーションによって高級品たる地位をますます高めています。一方で、スプリングバンク、ラフロイグ、アードベッグなど、歴史的にあまり派手なマーケティングを展開してこなかった銘柄も二次市場では高く評価されています」

これらの人気ブランドには、ブランドの歴史を通じて高品質なウイスキーを体現してきた遺産があるのだとウィルソンは言う。マッカランの「ファイン&レア」シリーズは、50種類以上のヴィンテージ商品から構成されたものだ。派手なパッケージングをあえて避け、シンプルで古典的な木箱入りのボトル路線で美的感覚を強調している。コレクターたちの関心は高く、平均価格がボトル1本8,000ポンド(2016年、約148万円)から14,000ポンド(2020年、約260万円)まで上昇したという。

他のブランドも、このエリートの仲間入りを果たしている。例えばグレンドロナックは「グランデュワー」シリーズの導入と50年熟成のウイスキーで高級カテゴリーに参入している。この現象について、ウィルソンは指摘する。

「人気の鍵を握るのは、毎年リリースされるシングルカスク商品の控えめな努力です。グレンドロナック蒸溜所は、シェリー樽熟成への揺るぎないこだわりが定着しました。ウイスキーオークショニアでは、シングルカスクシリーズの平均ロット価格が2016年から2020年にかけて500%以上も上昇したトップ10ブランドのひとつです」