酒齢が長く、数量の少ない「オールド&レア」にコレクターたちの注目が集まる。高級ウイスキーの条件をめぐる2回シリーズ。

文:グレッグ・ディロン

 

ウイスキーにはさまざまな種類があり、その特徴や価格もまちまちだ。いわゆる「高級ウイスキー」は、どのような基準で高級とされるのだろうか。基準は価格や熟成年数などの数字なのか。あるいは希少性や投資価値が図られるのか。品質だけでなく、人間の感情や社会のつながりにも関連があるのか。結局は上記すべての集合体なのか。

実際のところ、「高級」の定義は人によって微妙に異なってくるのだろう。アードベッグやビンバーのようなカルト的人気を誇る蒸溜所に注目し、そんな蒸溜所が数量限定でリリースする銘柄に価値を見出す人もいる。あくまでウイスキーの品質を追求し、熟成年数やスピリッツの特性を重視する人もいる。先行リリースによって絶大な影響力や地位を築いているブランドなら、熟成年数はあまり気にしないという人もいるだろう。

いずれにしても、ある種のウイスキーはさまざまな理由で高級と見なされる。その後、購入された高級ウイスキーの扱いも論点になるだろう。高級ウイスキーは、後世に伝えるために保管しておくべきなのか。いつか頃合いを見計らって売ればいいのか。あるいは子供たちに遺産として相続できたら成功なのか。それともいずれ勇気を振り絞って開封し、その味わいをみんなで体験するべきなのか。

ディアジオでグローバル・プライベート・クライアント・ディレクターを務めるジェームス・マッケイによると、ウイスキーメーカーとしてのディアジオはあくまでウイスキーの消費を望んでいる。

「特別なコレクションであろうとなかろうと、ディアジオのウイスキーはすべて消費され、その味わいを楽しんでいただく目的でつくられています。私は世界中でディアジオのプライベート・クライアントのコミュニティと交流しながら、誰もがそれぞれのウイスキーをテイスティングし、希少で特別なウイスキーへの情熱を仲間たちと分かち合う現場に立ち会ってきました。そのような交流を目にするたび、メーカーとしての喜びを感じています」

ウイスキーオークショニアを代表するジョー・ウィルソンは、オンラインオークション会社らしい視点からウイスキーにおけるラグジュアリーを定義している。高級ウイスキーは目新しい存在でもないが、現在はかつてないほどその価値観が業界に浸透している時代なのだと説明する。

「高級ウイスキーの市場をリードしているのはマッカラン。おそらくこの分野で最も早くから地位を確立してきたブランドです。シングルモルトのブランドがまだ認知されていない1980年代から、マッカランは富裕層の食後酒というポジションを具体的に狙っていました。高級なワインやコニャックを思わせるエレガントなラベルと木箱で包装し、アニバーサリーに合わせた数量限定のモルトウイスキーなどをリリースしていましたから」
 

飲むのが憚られるほどの特別感

 
ウィルソンによれば、このような高級ウイスキーはいずれも「飲むには華やかすぎる」と形容される高級感を打ち出している。ハイクラスなイメージで二次市場の基幹を形成してきたウイスキーは、飲むのを躊躇するタイプのウイスキーなのだ。

「高級ウイスキーへの注目は、近年になって爆発的に高まってきています。その流れで過去のボトルに対する関心も広がり、ウイスキーオークショニアのようなウェブサイトは理想的な情報源として認知されるようになりました。ウイスキーはこれまで以上に身近な存在です。二次市場で重要なのは、人々の値付けによってウイスキーの価値が決まるということ。そのほとんどはウイスキーの見せ方や肩書ではなく、ウイスキーそのものの品質によって決まるのです」

ブローラの「トリプティック」は、1983年の蒸溜所閉鎖前に蒸溜されたウイスキーの3本セット(300セット限定)。メイン写真は、ウイリアム・グラント&サンズの「ハウス・オブ・ヘーゼルウッド」。

高級なウイスキーの条件といえば、酒齢と希少性だ。つまりオールド&レアなウイスキーとして認知されうる原酒を選び、サンプリングの後にボトリングし、華麗なパッケージをまとってリリースする。

このような限定品を発売する際に、ブランドが考慮すべきことはたくさんある。贅沢なイメージの限定品は、その風味と価格が高級ウイスキーの名にふさわしいものでなければならない。そしてブランドの認知度をさらに高め、通年販売の商品にハロー効果を及ぼすような存在として機能させる必要もある。限定品がどんなに高額でも、最終的に販売量と収益の大半を担うのは通年販売の商品だ。

ウイリアム・グラント&サンズの高級ウイスキーシリーズ「ハウス・オブ・ヘーゼルウッド」のマーケティング・ディレクターを務めるジョナサン・ギブソンは、高級ブランドのリリース計画はいつも長期的な視野に立って判断すべきだと説明する。

「私たちのプロセスは長い時間を遡り、そこからじっくりと長い道のりを辿ります。使用する原酒の多くは、前世紀の中頃に初めて樽入れされたもの。しかも長期熟成を想定して保管しておくという特別な意図を持って寝かされた樽原酒ばかりです」

そんな原酒から生まれた企画の中には、「ブレンデッド・アット・バース」や「カスク・トライアルズ」のように実験的な意味合いを持つシリーズもある。また「ザ・ファースト・ドロップ」は、ガーヴァン蒸溜所のスチルから最初に流れ出たスピリッツを大切に貯蔵した原酒だ。ギブソンはそんな企画の内幕を明かす。

「熟成の途中で『スペイサイドの陽光』や『新鮮な空気の息吹』などと表現するに相応しい原酒を見つけることがあります。そのような傑出した風味の原酒を特別なウイスキーとして区別し、通年商品のラインから除外することも。単なる熟成年数だけでなく、マリッジ歴の長い原酒もありますよ。例えば、『ザ・ロング・マリッジ』は酒齢3歳でブレンドされた原酒を単一のシェリーバットでさらに53年間熟成したウイスキーです」
(つづく)