ホワイトオークとバーボン業界の未来【後半/全2回】

チャーを施したホワイトオーク新樽は、バーボンづくりに欠かせない。伐採を減らしながらウイスキーの品質を守るため、さまざまな議論と試みが続いている。
文:マギー・キンバール
アメリカンホワイトオークは、バーボンだけでなくすべてのアメリカンウイスキーのアイデンティティにとって極めて重要な存在だ。だがその中でもっとも問題視されているのは、バーボンのアイデンティティの根幹でもある「チャーを施した新樽」という制約だ。最大の課題は、バーボン樽の樽材として使用されるのは大きく育ったオーク材であるということ。伐採できる樹齢に達するまで、70~80年もかかるから少し気が遠くなる。
ホワイトオークだけを植樹すると、単一作物農業に特有なリスクが高まってしまう。火災や洪水など、森林に対する自然の脅威が長期にわたって続くのだ。森林を農業のように管理する手法には限界がある。ホワイトオークは他の樹種や植物と共生し、適切な管理が行われている自然林の方がよく育つのだという。
バーボンは過去87 年間にわたって、アメリカンオーク新樽の使用が義務付けられてきた。長い伝統だと考える人もいるが、逆にたった87 年の歴史なのだから変えてもいいと考える人もいる。それでも現代のバーボン製造においては、変更不能の厳格なルールのように守られているのが実情だ。バーボン史研究家のマイケル・ヴィーチは語る。
「この規制が制定されたのは、 1938 年 3 月のこと。当時のアーカンソー州では、製樽業が大きな地場産業になっていました。雇用確保のための法案として、アーカンソー州出身の下院議員であるウィルバー・ミルズが、バーボンに新樽の使用を義務付ける法案を提出したという経緯があるんです」
この法案が可決されるに至った経緯も振り返らなければならないだろう。かつて19 世紀まで、バーボンは主に樽単位で販売されていた。つまりウイスキーの生産者が樽入りのバーボンを卸売業者に販売したら、その樽は二度と蒸溜所に返ってくることがないという時代だった。
だがその後、吹きガラス技法によってボトルを製造できるようになると状況は一変する。各蒸溜所が、自社内でウイスキーをボトリングして出荷できるようになったのだ。このような変化が20世紀初頭に起こると、樽の再利用が慣例となった。新樽を義務付ける規制もなかったので、古樽の使い回しがしばしば常態化していたのだとヴィーチは説明する。
「バーボンのメーカーは、一度熟成に使用した樽を別のウイスキーの熟成に再利用していました。それがあるとき、品質上の問題につながったことで再利用禁止の流れが生まれたのです」
当時の有力なバーボンメーカーの一人であったエドムンド・ヘインズ・テイラー・ジュニア(EHテイラー大佐)が、樽熟成したバーボンの味が悪いという苦情の手紙をオーガスタス・レオポルドに送っていたのだという。
「テイラー大佐がその樽を調べると、それが修復されて使い回された樽であることがわかりました。樽の中に、鋲が打ち付けられているのを見つけたんです。その鋲が錆びて、バーボンの味を損ねていたという結論になりました」
現在のバーボン蒸溜所では、バーボンの熟成に使用された新樽は別のウイスキーの熟成に再利用される。すなわちコーンウイスキーなどバーボン以外のウイスキーや、スコットランドやカナダに送られてより長期間にわたる熟成で重宝されるのだ。
このように樽の一部または全体が再利用される場合、ユダヤ教のコーシャー認証に支障が生じるという問題もある。たとえばワイン樽が再利用された場合、それまではコーシャに則った完全なパレベ食品であったウイスキーがコーシャから逸脱してしまうからだ。
品質を落とさずに環境負荷を減らす挑戦
ウッドフォードリザーブのブランド立ち上げと拡大に携わり、現在は新ブランドへのコンサルティング業務を提供するデイブ・シューリッヒはアメリカンウイスキー界のベテランだ。数年前にヴィーチに連絡を取り、樽の木材の一部を再利用するアイデアを提案したのだという。シューリッヒがその訴えについて説明する。
「樹齢の高い良質なオーク材は、常に不足しています。でも樽板の厚みが3cmくらいであることを考えると、表面を薄く削り取れば樽が再利用できるはずなのです。チャーを施した部分を取り除けば、ほぼ未使用の樽材に戻ります。樽がとても高価だったので、最初はコスト削減を目的とした思いつきでした。でも再利用が普及すれば、若い樹齢の木を伐採せずに済むようにもなるでしょう」
樽材を賢く再利用することが、ホワイトオークの需要を軽減する現実的な選択肢となるのだろうか。シェーリッヒは期待を抱きつつも、最終製品への影響を調査する必要があると述べている。
現在はウイスキーの需要がやや鈍化し、樽製造へのストレスは緩和されている状況だ。それでもホワイトオークの供給だけを見れば、ストレス要因は依然としてたくさんある。
第二次世界大戦後のアメリカで4大スピリッツメーカーの一角を担ってきたシェンリーも、アメリカ全土にホワイトオークを植樹するプロジェクトに取り組んでいる。ウイスキーの製造プロセスで、最も管理が難しいのが樽の調達だ。もう75年前から、スピリッツ業界はホワイトオークの保全が必要であることを強く認識していたようである。
第二次世界大戦中には、実際に木材を節約する措置が採用されたこともある。そのひとつが、樽のサイズを48ガロンから53ガロンに大きくすることだった。このサイズが採用されたのは、当時のケンタッキー州のリックハウス(貯蔵庫)の規格にぎりぎり収まる最大サイズだったからだ。
だが今では多くの蒸溜所が樽貯蔵のシステムをアップデートし、パレット式のリックハウスに移行している。つまり当時のようなサイズの制約も緩和され、樽のサイズを60~65ガロンにまで増やすことができるようになった。樽の規格変更によって、多くの木材を節約できる可能性をシェーリッヒは指摘している。
さらには使用済みの樽をそのまま再利用するのではなく、樽板や天板単位で再利用することで新しい木材の必要量も減らしていけるかもしれない。最終製品の香味を変えずに、このような樽材の置き換えや再利用はどこまで可能なのか。ヴィーチが答えて言う。
「ブラウンフォーマンが『アーリータイムズ』でそのような試みをしました。使用済みの樽と新樽を併用し、熟成原酒をブレンドしてケンタッキースタイルのアメリカンウイスキーに仕上げたのです。これは80プルーフ(度数40%)の製品としては十分な品質でした。しかし私の個人的な意見としては、最高品質のバーボンはやはり新樽のみで製造されるものだという印象も残りました」