アイリッシュウイスキーのルネッサンスは、小規模で革新的な新しい蒸溜所の活躍に支えられてきた。第3回はクロリー、エクリンヴィル、クロナキルティの近況を紹介。

文:マーク・ジェニングス

 

クロリー蒸溜所

 
ドニゴール県のクロリー蒸溜所は、初めてピーテッドモルトを使用したポットスチルウイスキーとモルトウイスキーを直火式のスチルで蒸溜した。新たな領域に踏み込んだ創業者のコナー・マクメナミンは「当社史上最高のニューメイクスピリッツ」と評している。

クリエイティブな樽熟成で、さまざまな香味を生み出すクロリー蒸溜所。メイン写真もクロリー蒸溜所を創業したコナー・マクメナミン。

自慢の直火式スチルでつくった初めてのウイスキー「カスク2」は発売後すぐ完売し、ペドロヒメネスシェリー樽でフィニッシュした新作が11月に発売予定だ(700本限定、8月より予約受付開始)。

クロリー蒸溜所は、設備投資によって穀物処理をさらに自動化した。ビジター向けの体験プログラムは、オンライン予約の数が2024年10月以降300%も増加した。蒸溜所は人員を採用し、マーケティングと消費者直販への投資も増加させている。

コナー・マクメナミンは、ウイスキー業界が失速していることを健全な変化だと捉えている。

「大麦と籾殻を分離するように、注意深く調整していきます。そして長期的には、この時期の調整がアイリッシュウイスキーの評判をさらに強化することになるでしょう」
 

エクリンヴィル蒸溜所

 
エクリンヴィル蒸溜所にとって、2025年は大きな称賛と着実な成長を得られた年として記憶されそうだ。

エクリンヴィルが復活させたブランド「ダンヴィル」の特徴は、力強いシェリー樽熟成の香味だ。今年になって、その評判は確固たるものになっている。大手メーカーが優勢なアイリッシュウイスキー業界にあって、独自の存在感を示すにはインパクトが必要だ。経理部門とウイスキー製造を統括するジャーラス・ワトソンが、次のように語ってくれた。

独自のマッシュビルと樽熟成によって、伝統と革新を同時に追い求めるエクリンヴィル蒸溜所。数々のアワードが、その実力を証明している。

「ウイスキーに求められる品質の水準が、どんどん高まっています。アイリッシュウイスキー業界が長年グローバルな大手ブランドに支配されてきた事実を考慮すれば、エクリンヴィルのような小さい独立蒸溜所にとっては小さな評価も大きな成果になります」

新製品としては、コアラインナップで最高酒齢となる「ダンヴィル 23年 ペドロヒメネス樽フィニッシュ」と、免税店向けのパロコルタド樽で熟成した「ダンヴィル 13年」が登場した。米国では「カスクド・イン・ボンド」シリーズがデビューし、米国インディアナポリスの「ザ・スナッグ・バー」との共同開発によるピーチブランデー樽熟成のボトルが発売された。

ダンヴィルの他にも、2025年は復活した歴史的ブランド「オールドコンバー」の創業200周年を迎えることもあって、今年後半には記念ボトルの発売が予定されている。新たに始まったプライベート・カスク・プログラム「エアード・カスク・コレクティブ」では、伝統的なオールドコンバーのスタイルを含む3種類のマッシュビルを提供。すべての原酒生産は、穀物の栽培からボトリングまで、一貫してアーズ半島にある農場蒸溜所でおこなわれている。
 

キロウェン蒸溜所

 
キロウェン蒸溜所は、2025年も蒸溜所の規模を上回るような存在感を示してくれた。芸術、文化、地域の精神などを伝える個性的なウイスキーで、生産量とのバランスを保っている。統合によって生き残りを賭ける他社もあるなかで、キロウェンはみずからのアイデンティティでもある小規模生産に注力した。

今年のキロウェンは、神話と芸術とスピリッツの世界観を融合した野心的なウイスキーシリーズ『サガランド・バラントゥイル』を発表した。アイルランド神話のポッドキャスト番組とダブリン在住アーティストのフランシス・リーヴィー(ファブ・カウ)が共同開発に加わり、各ボトルにはビジュアルアートとポッドキャストが付属している。

小規模な蒸溜所らしい手づくりのウイスキーから、さまざまなテーマのウイスキーを繰り出すキロウェン蒸溜所。ボトルごとに芸術作品のような表現力が楽しめる。

第1弾『スレンの歌』は5年熟成のスピリッツ(混合マッシュビル)をピノノワール樽とライウイスキー樽でフィニッシュしたもの。第2弾『メイヘムの乙女たち』は、バロン・エドモン・ド・ロートシルトの赤ワイン樽をフィニッシュに使用している。各ボトルのQRコードから音声コンテンツへアクセスでき、ウイスキーを通じて口承物語がよみがえるという壮大なスケールの企画だ。

その後もさまざまなパートナーと手を組んだシングルカスク3種類が発売された。その第1弾が、ケルティック・ウイスキー・ショップ限定のペドロヒメネスシェリー樽でフィニッシュしたポットスチルウイスキー。次がグリーン・エーカーズ・ウェクスフォードとコラボしたピノノワール樽フィニッシュのウイスキー。最新リリースが、ダブリンのテンプルバーとコラボしたピートの香るペドロヒメネスシェリー樽フィニッシュのウイスキーだ。

いずれもの商品もキロウェン蒸溜所の風土に根ざした香味で、小ロットならではの革新を押し出している。新たなコアレンジ商品「キロウェン ピーテッドシングルモルト ラム&レーズン」も話題を呼んだ。こちらはデザートのように豊かな風味と優しいスモーク香を融合させた味わいだ。
 

ロイヤルオーク蒸溜所

 
新たなボトリングをリリースし、サステナブルなマイルストーンを達成し、国際市場でも着実な成長を見せたロイヤルオーク蒸溜所にとって、2025年はかつてないほどに重要な年となった。

日本では「バスカー」が爆発的人気を誇るロイヤルオーク蒸溜所。今年も缶ハイボールや富士山ラベルなどの企画で楽しませてくれた。

カーロー県にあるイルヴァ・サローノ傘下のロイヤルオーク蒸溜所は、コア市場だけでなくアジアを始めとする新興市場で「バスカー」の支持を大きく広げている。

主なハイライトには、新たなスモールバッチのシングルモルトと、日本市場向けに特別に用意された富士山ラベルのバスカーが含まれる。

また日本のローソン限定で「バスカーハイボール」も投入され、20万缶が完売した。地元アイルランドでは、空港免税店向けに開発されたシングルポットスチルが登場し、ラインナップのさらなる拡充を印象付けた。

またウイスキーづくりの独創性を強化するため、ギネスとブッシュミルズで活躍したデビッド・エルダーがマスターブレンダーとして加入した。世界の市場で人気が高まるロイヤルオークの今後に注目だ。
(つづく)