空前のウイスキーブームに沸くアメリカ(下)
前回に引き続き、アメリカのウイスキーバー事情をレポート。ワシントンDCやカンザスシティでも、マニアックな店が続々と生まれている。
【←前半】
文:ライザ・ワイスタック
ニューヨークのバー「ブランディーライブラリー」が開店当時から通いつめたトミー・ターディーは、2012年8月にマンハッタンで「フラットアイアンルーム」を開店した。当初はメニュー300種類以上が目標だったが、今では1,000種類を超えている。
「店が勝手に成長しています。これだけのコレクションを持つようになると、お客への責任もあって、一度ブルイックラディを全種類揃えたら在庫を切らすわけにいきません。とはいえお客さまは激レアなビンテージボトルを探しているわけではなく、グレンモーレンジィの新シリーズなどのニューボトルがいつも揃っていることを期待しています」
お客に「新しいマッカランのレアカスクはあるかい?」と聞かれて、ないと答えるわけにはいかないのだ。大きなコレクションは、大きな責任を伴う。店にはプライベートロッカーもあり、次回の来店のためにボトルキープもできる。
ワシントンDCには、2011年にオープンした名店「ジャックローズダイニングサルーン」がある。店主のビル・トーマスは、今年の4月だけで2,015本の新規ボトルを開封したと語る。
「驚くべきことに、未開封のまま売れ残るウイスキーはありません。安物のバーボンであれ、ブラックボウモア64年エディションであれ、必ず誰かが飲みにきます。セレクションは月に100ボトルほど変動しますが、その100本の新ボトルに大きく投資しない限りは、なるべく現状を維持するようにしています。職業柄、クライヌリッシュのボトルが6本空になっていることに気づくと、何としてでも6本を買い足してしまうタイプです。お客さんは一度来たら3杯は飲んでくれるので」
中西部のウイスキーブームを担う新興バー
巨大なセレクションを維持する人気バーは、目標を常に修正し続けなければならない。ある夜の人気銘柄が、数日後にも同じ人気を誇っているという保証はない。経営者は、まさにウイスキー探しに明け暮れる人生になる。
大都市のバー経営者は、誰もが卸業者、蒸溜所、店主、同業者への不満を口にする。これがアメリカ中西部の地方都市になると、バー経営者たちは別の種類の問題に直面しているようだ。2014年にカンザスシティでバー「ジュレップ」 を開店したボー·ウィリアムズに話を聞いた。
「小さな市場なので、特にアメリカンウイスキーには必ず入手可能量に制限があるのが辛い。みんな好奇心が旺盛で、日本のウイスキーの話を始めたと思ったら、次にはインドのアムルットやタスマニアのサリヴァンズコーヴを飲みたがります」
400種類のウイスキーを常備したジュレップは、開店当時から異質な存在だった。大規模なストックに慣れていなかった地方都市の人々を相手に、こんな店を経営する喜びは大きいとボーは言う。
「スタッフの意欲があれば、お客様もウイスキーの世界に飛び込んでくれます。クレムブリュレ、カラメル、バタースコッチがお好きですか? 1種類のウイスキーに、そのすべての味が入っているんですよ、なんてね。人々をウイスキーの世界に引き込むために、工夫を凝らすのが楽しみなんです」
一度ウイスキーの虜になった市場が、後戻りすることはない。アメリカのウイスキー市場は、都市部を中心にますます成熟していくことだろう。