廻天の時 -アナンデール蒸溜所【後半/全2回】
多額の費用と長い時間をかけ、アナンデールは蘇った。では、そこで生み出されるウイスキーはどのような個性を備えるのか? 注目のレポートの後半をお届けする。
【←前半】
アナンデール蒸溜所の再稼働にあたって、デイヴィッド・トムソン教授は「プロジェクト全体で予想の2倍の時間がかかり、コストも2倍です」と語る。
「この蒸溜所は斜面に入り込んで建てられているので、建物の内部に水が入らないようにするために非常に多くの時間と労力を費やさなければなりませんでした。
そしてもうひとつ難しかったのは、既存の石造りにマッチする砂岩を調達することでした。仕上げてからも時間を置かなければならなかったし、岩石学的にも正しい種類が必要だった。300トンの石を要し、手に入れるのが非常に困難だったばかりか、桁外れに高価でした」
最初のスピリッツ生産をわずか数週間後に控え、ビジター施設も年末前に設置されるが、一般客が本格的に押し寄せて75席のカフェ・レストランを埋めるのは2015年になるだろう。
修復されたアナンデールは、手動のバルブや、オペレーターが手動で行うスピリッツのカッティングなどを採用した、実に伝統的な蒸溜所だ。トムソン夫妻、スワン博士、レニーには、つくりたいウイスキーのタイプに関して明確な構想があり、大きなウォッシュスチル1基とスピリッツスチル2基という珍しい体制がその個性的な原酒を生む重要な部分になっている。
「銅との接触を多くしたかったので、大きなウォッシュスチルを選び、全てのスチルにボイルボールを付けて、高いネックと下向きに傾斜しているラインアームにしました」と蒸溜所マネージャーのマルコム・レニーは言う。
「スピリッツスチルはゆっくりめに稼働させるつもりです。素晴らしくクリーンでフルーティな、複雑なウイスキーを目指しています」
加えて、ノンピーテッドタイプをつくる際には、フルーティさを高めるために一定の割合でドライイーストを使用し、発酵時間も長くする。
この蒸溜所のウイスキーづくりの歴史を踏まえて、ピーテッドとアンピーテッド両方のスピリッツを蒸溜する予定だ。専用のスピリッツ・レシーバー2基が設置され、アンピーテッドとピーテッドの切替えもたやすい。レニーと3人の職人は、状況から判断した結果、生産の50%以上をアンピーテッドモルトで始めることにした。精麦業者のベアーズ・モルト社から調達するピーテッドモルトは、45ppmのヘビーピーテッドだ。レニーはだてにアイラ島の蒸溜所マネージャーをしていたわけじゃない!
アナンデールのピーテッドウイスキーはスモーキーで、ヨード香がなく、一部はシェリーカスク熟成になる。
しかしトムソンは基準として、樽の過度な影響を避けてスピリッツ自体に語らせたいと強く願っている。
「グレンモーレンジィをつくりたいのではありませんからね、ファーストフィルバーボンカスクの強すぎる影響は望みません。アンピーテッドとピーテッドのスピリッツ両方に主としてリフィルのバーボンカスクを使うつもりです。控えめなバーボンの香りがウイスキーの特徴の一部になるでしょう」
アナンデールのチームは25万lpa(WMJ註:Litres of pure alcohol、純アルコール換算)の生産から始めるが、生産スタッフが2倍になればこれを倍増できるだろう。現在は1日1シフトで週6日の体制だ。
トムソン教授には、ニューメイクスピリッツを発売する計画がある。
「私たちが何をしているのか、何をつくろうとしているのか、興味を持っている人たちが十分にいると思います。ですから、ニューメイクを少し販売して、その後さらにリリースすれば、今後の展開の予想に役立つでしょう。
今年はカスクも販売する予定で、限定数ですがプレミアム価格でリリースします。その後は、今後のために2014年の原酒をとっておきます。翌年はさらに多くのカスクを販売しますが、ニューメイクを試飲してその品質を確信するまでは、どのカスクも売るつもりはありません」
この壮大な計画に注ぎ込んだ時間とお金はそれだけの価値があったかと尋ねたところ、トムソン教授は力強く「はい」と断言した。そして「このプロジェクトを始めて後悔したことは一瞬たりともありません」と続けた。
「私たちの目標は、最高のウイスキーをつくる、スコットランドで最も魅力的な蒸溜所にすることですよ!」
蒸溜所インフォメーション
・モルト…アンピーテッドとピーテッド(45ppm)、コンチェルト種
・ マッシング… セミラウター式マッシュタン(2.5トンマッシュ) 週6回
・発酵… ダグラスファー6基(容量12,000L)、72時間以上の発酵
・蒸溜…ウォッシュスチル1基(12,000L)、スピリットスチル2基(4,000L)
・蒸溜所キャパシティ…250,000 lpa