アラン蒸溜所20周年を祝う

November 18, 2015


新興蒸溜所の代表格として注目されたのも今は昔。アラン蒸溜所の創立20周年を祝うため、熱烈な愛好家やサポーターたちが東京に集った。マネージングディレクターのユアン・ミッチェル氏と共に、ウイスキーの過去と未来を見つめた一夜のレポート。

文:WMJ

 

「今日は過去を振り返り、そして未来へ歩き出す日となります」
11月12日、パークホテル東京。1年ぶりに来日したアラン蒸溜所マネージングディレクターのユアン・ミッチェル氏が、壇上で力強くゲストたちに語りかける。限定100名で販売されたチケットは事前に完売。「アラン蒸溜所20周年パーティー」の会場は、この蒸溜所が歩んできた歳月と品質に対するあたたかな敬意に包まれていた。

「1995年に6月に蒸溜所が稼働した時点で、創設者であるハロルド・カリーはもう70歳でした。ハロルドは今年90歳で、蒸溜所は20歳。余談ですが来年は、僕が来日して20年になります。日本の友人たちとこの日を祝えることを嬉しく思います」

今でこそ多くの蒸溜所が新設されているが、1995年はむしろ蒸溜所が次々に閉鎖されていた時代。現在のウイスキーブームなど予測できない時期に、資金を募って蒸溜所を新設するのは容易ではなかったはずだ。アラン島が建設地に選ばれたのは、自然の美しさとウイスキーに適した水があり、非合法の生産も含めてウイスキーづくりが盛んだったからだとミッチェル氏は語る。だがその伝統は、当時で160年も途絶えたままだったのである。

ユアン・ミッチェル氏は、2003年にスプリングバンクからアランに移籍した。それはスコットランド最古の蒸溜所のひとつから、スコットランドでもっとも若い蒸溜所への転身だった。

「周囲の友人たちには心配されましたが、アランには何か特別なものがあると感じていました。素晴らしい同僚にも恵まれました。初代のマスターディスティラー、ゴードン・ミッチェル。僕もミッチェルですが、親戚ではありません。でもウイスキーの兄弟のような存在でした。2年前に亡くなりましたが、今日も天使たちとこの日を祝っているはずです」

乾杯の前に、アラン初の20年熟成となる「アラン1995 20周年アニバーサリーデキャンタ」が全員のグラスに注がれる。この一杯に、アランの歴史が凝縮されている。

アランを愛するウイスキーファンたちが、ユアン・ミッチェル氏を囲んで語り合う。このパーティーでは、アランの軌跡をたどるような現行品と共に、スマグラーシリーズの「イリシット・スティルズ」、「ザ・ボシー」(クォーターカスク)、「マクリームーア2015リリース」などの未入荷品や、一部の終売品もテイスティングメニューとして提供される機会となった。

 

100年先の遠い未来を目指して

 

この日、来場者のために特別なカクテルを用意してくれたのは、パークホテル東京の鈴木隆行氏である。

「アラン10年は、味、香り、スモーキーさのバランスが繊細で、大好きなウイスキーのひとつ。ウイスキーグラスと大ぶりなワイングラスに交互に注いでいると、たっぷりの日差しを浴びた南国のフルーツのような香りが隠れていることに気づきました。フレッシュなオレンジジュース、パッションフルーツのピューレ、アラン10年を入れてやさしくシェイクしています」

イチジクのドライフルーツとカットオレンジを口に入れながら、このカクテルを飲む。驚くほどにトロピカルなアランの風味が口いっぱいに広がった。

日本にアラン蒸溜所を紹介してきたウィスク・イーは、もともとアラン蒸溜所の東京インフォメーションセンターとして活動を開始した生粋のアランサポーターである。今年、ウイスキーマガジン(英国)主催「アイコンズ・オブ・ウイスキー」にてインポーター・オブ・ザ・イヤーを受賞した功績も、アラン蒸溜所の成功を抜きには語れないだろう。CEOのデービッド・クロール氏は席上で述べた。

「1995年にアラン蒸溜所が生まれた当時、私たちはウイスキーとは無縁の仕事をしていました。ある日シーバス・ブラザーズのマネージングディレクターだった旧知のハロルド・カリーから電話があり、アラン蒸溜所にわずかばかりの投資をして、東京にインフォメーションセンターを設立することになったのです。この20年、平穏な道のりではありませんでしたが、この日を迎えられて幸せです」

有望な新興蒸溜所というイメージはもう過去のものだ。今では堂々たるスコッチブランドに成長したアランの「華やか、フルーティ、リッチ」という特性を少しでも多くの人に届けるため、来年には新しい設備も導入される。ユアン・ミッチェル氏が未来の展望を語った。

「2016年には、現在のスチルとまったく同型の新しいポットスチルとスピリットスチルを増設して生産力を上げます。次は100周年をこの場所で祝えるように頑張りたい。たとえ私たちがここにいなくとも、その日のために今日という日もあるのですから」

 

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