ウイスキー用語集―AからZまで【M②】
ウイスキー用語を紹介するシリーズ、Mの2回目である今回は熟成(maturation)について考える。
樽についてのセミナーに参加したり、蒸溜所のツアーのハイライトは貯蔵庫の見学にあると考えたりする人は、ウイスキーにすっかり取りつかれたことを自覚しているだろう。
熟成こそが、ウイスキーを他の酒類―とりわけ、他の蒸溜酒と区別する主な要素のひとつだ。
熟成は長い間革新と発展に対する意欲を掻きたててきた。マガジン上で紹介したカスクストレングスのニューリリースのスコッチウイスキーが莫大な数にのぼること、アメリカで様々な樽材のものが試されていることから判断すれば、熟成の工程は今後もウイスキーにとって重要な役割を果たし続けるはずだ。
ウイスキーのフレーバーは70%まで樽由来だといえる。質の悪いスピリッツがオークの中で良いものに変化することは無理でも、熟成に使われる樽が一級品ならば、平均的あるいはまあまあ良いニューメイクが非常に優れたウイスキーに化けることはある。
ニューメイクをウイスキーにするには、オーク樽で一定の年数熟成する必要がある。ヨーロッパでは3年、アメリカでは2年だ。
法的にも味わいの意味でも、樽が貯蔵される場所は非常に重要だが、木材の原産地はあまり大きくは影響しないとされる。
スコッチはスコットランドで熟成されるものだが、樽はアメリカ産でも構わないし、実際に多くの場合ケンタッキー産だ。世間の思い込みや多くのウイスキー本の記述と異なり、バーボンがアメリカ産オークのみで熟成されなければならない理由はない。
スコットランドの場合、大抵の樽は既に1度以上使用されたものだ。樽に満たされたニューメイクは3つの点で樽に反応する。気候が比較的穏やかなスコットランドでも、液体は樽の中で動き、気温の上下に従って膨張と収縮をする。
すなわちスピリッツは膨張したとき樽に染みこみ、収縮すれば再び染み出してくることになる。この過程によって樽の色合いとフレーバーが引き出され、油脂分や不要な成分が取り除かれ、化学的な反応によって新しい風味が生まれる。
まったく同じ作用をする樽はふたつとしてないが、ある程度の均一化は可能だろう。
まずスコットランドの場合、樽の中身の2%は蒸発する運命にあり、その大半がアルコール分だ。つまり原酒のアルコール度数は毎年徐々に弱まっていくことになる。
またスピリッツの味や色合いに樽が及ぼす作用は年数が若いほど強く、やがて薄れていく。しかし樽の中で長い年月が経てば、樽のフレーバーそのものが強くなり、最後にはもともとあったスピリッツ本来のフレーバーを打ち負かし消滅させてしまうだろう。
というわけで、樽の管理は不可欠だ。特に規定の最低アルコール度数、40%を下回らないようにするためには。
ケンタッキーでは別のやり方で行なわれる。アメリカの法律はニュー・スピリッツを新品のオーク樽で熟成するよう定めている。スピリッツが注がれる前に、樽はトーストとチャーの加工をされる。
ケンタッキーの夏は猛烈に暑いので、貯蔵庫の中の温度もスコットランドよりはるかに高い。熱によって反応が早まるのは化学的な必然だ。加えて冬も非常に寒く、それはつまり熟成のプロセスが相当早いことを意味する。
スピリッツに及ぼす作用もだいぶ異なる。蒸発が起きることは起きるが、アルコールより水の蒸発が早いため、原酒は時間の経過につれてアルコール度数が強くなる—スコットランドの反対だ。
管理すべき樽は何千とあるので、すべてが最高の結果を生むよう目を配るには大変な技術が必要とされる。
つまり無関係な人にはただの木の容れ物に見えるものが、ウイスキーの愛好家にとっては魔法の小さな生産工場なのだ。