ボトル1本に数千万円の値が付くことも珍しくないウイスキーオークション。スコッチウイスキーとアメリカンウイスキーの例を中心に、コレクターたちの動向を追う2回シリーズ。

文:ライザ・ワイスタック

 

ウイスキーオークションのニュースを追う感覚は、スポーツファンの心理にも似ている。最新のレポートをクリックしながら、ワクワクする気持ちを抑えられない。今日はどんな記録が塗り替えられたのだろう。これからどんな歴史が刻まれるのだろう。だがスポーツの試合と同じように、オークションでも大きな番狂わせは珍しい。おなじみのスター選手が、おなじみのパフォーマンスを繰り広げている世界だ。

そんな古き良きオークションの世界にも、変化の波は訪れている。最近ではさまざまなスコッチウイスキー、バーボンウイスキー、ジャパニーズウイスキーが数百万円から数千万円で落札される。特に「山崎55年」は、2022年のボーナムズで約6,750万円(445,944米ドル、350,200ポンド)、ザッキーズで約4,850万円(320,000米ドル、251,295ポンド)、サザビーズで約72,700万円(480,000米ドル、386,943ポンド)などと記録的な売れ行きを見せている。

ラリック社のクリスタルデキャンタに収まったマッカラン55年。発売と同時にコレクターの争奪戦が始まる高級スコッチウイスキーの代表だ。

ボトル入りウイスキーの史上最高額といえば、2019年にロンドンのサザビーズで約2億8,800万円(150万ポンド、190万米ドル)の落札価格が付いた「マッカラン ファイン&レア 1926」である。この歴代記録を眺めてみると、オークションの世界でマッカランの最大のライバルはマッカラン自身であることもわかる。

この「マッカラン ファイン&レア 1926」が記録を塗り替える前は、リヨン&ターンブルで落札されたダンカンテイラーの「マッカラン イントレピッド 1989」が世界一高額なウイスキーだった。これは32年熟成のウイスキーで、当時約1億6,000万円(120万米ドル)の値がついている。独立系ボトラーとして初めて年間落札額のトップになったボトルとしても有名だ。

このようなウイスキーは、値段や熟成年などの数字を通して驚くべき物語を伝えてくれる。だがもちろん、華々しく史上最高額の文字が見出しに踊るまでには、さまざまな出来事や長い時間の流れもある。ボトルをオークションにかけるまでのプロセスは劇的で、ハンマープライスはその最終幕に過ぎない。

名高いオークションハウスだけでなく、現在はオンラインなどでもさまざまなオークションサイトが高級なウイスキーを扱っている。このようなお宝が購入できる機会は増えているが、同時に「このウイスキーはいったいどこからやってきたのだろう?」と訝しむこともしばしばだ。

多くのオークション会社が乱立し、高級なウイスキーは以前より入手しやすくなっている。だが頻繁なオークションを毎回賑わせるのに十分な量のウイスキーは出回っているのだろうか。その答えは、求めているウイスキーの種類や、取り扱うオークションの方針によってもさまざまに異なってくる
 

高級ウイスキーの在庫は潤沢

 
サザビーズのスピリッツ部門でグローバルな取引を統括するジョニー・ファウルによると、各社蒸溜所の貯蔵庫には高級ウイスキーの余剰が溜まっている状態なのだという。特に潤沢なのは、シングルモルトスコッチウイスキーだ。これは1980年代以降にウイスキー市場が停滞した時期があり、その頃の原酒が使用されずに残っているためである。

だがそんなウイスキー不況の時代も終わり、シングルモルトの人気は徐々に高まってきた。その結果、貯蔵庫での管理も改善され、各社蒸溜所も貯蔵庫に眠っている金鉱の存在を意識するようになったのだとジョニー・ファウルは説明する。

ウイスキーオークショニアのジョー・ウィルソン。メーカーが発売するハイエンド商品だけでなく、世界各地で発掘されるさまざまなオールドボトルにも目を光らせている。メイン写真は、ウイスキーオークショニアで販売されたポートエレン12年。亡きエリザベス女王の来訪を記念した1980年のヴィンテージだ。

「現在は貯蔵庫での管理も非常に洗練されており、熟成年の長いウイスキーが頻繁にリリースされるようになってきました。このようなウイスキーの資産価値だけが注目され、積極的に飲まれない時代が続くと、ボトルは二次市場で流通し続けることになります」

お宝が出てくる場所は、蒸溜所の倉庫だけではない。ウイスキーの流行には周期があり、世界中のウイスキーがさまざまなルネッサンスを経験している。そう語るのは、オンラインのオークションサイト「ウイスキーオークショニア」でヘッドキュレーター兼スピリッツスペシャリストを務めるジョー・ウィルソンだ。

「スコッチウイスキーのコレクター市場は、1990年代後半から隆盛し始めました。そのような新しいトレンドが生まれた結果、この人気に便乗して模造品を売りさばこうとする悪徳業者も急増しています」

近年で特に面白いのは、1980年代にスコッチ最大の輸出市場だったイタリアの状況だとウィルソンは教えてくれた。

「当時のイタリアの個人宅では、ウイスキーをコレクションするのが流行っていました。そんなイタリアの自宅コレクションから、懐かしいシングルモルトのお宝が出回るようになっています。銘柄はマッカランが多いですね。イタリアの古い地下室から古いボトルが発掘され、英国に買い戻されるような現象が起こっているんです」
(つづく)