パンデミックと闘うバーボン業界【前半/全2回】
文:マギー・キンバール
米国でも厳しい状況は続いている。世界中どこへ行っても、人々は平等を求めて苦闘し、経済的な困難に向き合い、文字通り生き残りをかけて努力している。パンデミックによる経済への打撃は大きく、米国のスピリッツ業界もその例外ではない。
米国全体だけでなく、州ごとの状況もそれぞれに厳しい。ケンタッキー州のバーボン業界も、ここまで苦しい時期を過ごしてきた。だがこれまでの伝統にならって、可能な限り地域との連帯を重視しているようだ。ウイスキーマガジンは、ケンタッキー蒸溜酒業者協会の代表を務めるエリック・グレゴリーに話を聞いた。バーボンの故郷ケンタッキー州は、今どんな状況なのか。エリック・グレゴリーは、まず次のように語った。
「まずはいいニュースからご紹介しましょう。新しいEコマース法案が、立法議会を首尾よく通過しました。私たち全員にとって、最後の1ピースというべき重要法案です。ワインでは1970年代から同様の法案を可決し、すでに46州で施行されています。ウイスキーのEコマース法案も、これで12州に施行されたことになります」
新型コロナウイルス以前から、米国はすでにデリバリー主導の社会に変貌しつつあったとグレゴリーは語る。そこに予想外の新型コロナウイルスがやってきて、プロセスが加速されたのだ。
「ニューヨークやカリフォルニアなどの多くの州知事が強い指導力を発揮して、パンデミック中に州内での輸送に関する規制を緩和しました。私も各州の同業組合と話し合ってきましたが、みんなうまく法整備を進められたと実感しています。来年も立法議会がこの条件を維持して、各州間の輸送への適用を拡大してくれるように期待しています」
これまでバーボンの輸送は法的なリスクを背負った業務だったが、今回の規制緩和でかなり楽になったと語るグレゴリー。そして酒類業界は、他にも大きな法制の改善を勝ち取っているのだという。その一例が、蒸溜所のギフトショップでコラボ商品のビールが販売できるようになったこと。さまざまな地域の小規模なクラフトビールメーカーにとって、大きな前進になったとエリック・グレゴリーは喜んでいる。
社会に貢献しながら困難に立ち向かう
もうひとつの大きな勝利といえば、飲酒運転への対策だ。ケンタッキー蒸溜酒業者協会は、立法議員と協力しあいながら、イグニション・インターロック(アルコールをセンサーで感知してエンジンをロックするシステム)の義務化を進めた。
「ケンタッキー州は、バーボン生産において最高の模範となっています。だからこそ、飲酒問題への責任においても最高の模範とならなければなりません」
蒸溜所ツアーの際に、蒸留所内でカクテルも提供できる法制が通過したのは2016年のこと。おかげで多くの蒸溜所では、ビジター受け入れのビジネスが隆盛してきた。このような法改正の成功により、ウイスキー業界は不測の事態に直面しても柔軟な対応ができるようになっていた。それに加えて、新型コロナ感染症に対する迅速な対応によって、業界への影響を最小限に留めてきたようだ。
「感染拡大が続くなかでも、ウイスキーの生産は引き続き稼働させることができました。バーボンのスチルを簡単に停止することなどできないという事実を、知事にも念を押して理解していただきました。パンデミックのせいで、5年も6年もバーボンの原酒不足に喘ぐのは避けたいことですから」
(つづく)