アイラらしさを極めたウイスキー「ポートシャーロット」新発売【後半/全2回】
文:WMJ
ブルックラディが生産するヘビリー・ピーテッドのシングルモルトウイスキー「ポートシャーロット」が、アイラのテロワールをさらに強く打ち出して新発売される。「ポートシャーロット 10年」と同様に注目なのが「ポートシャーロット アイラ・バーレイ 2011」だ。その名が示唆する通り、原材料のモルトは100%アイラ産である。
アイラ島は長らく大麦の栽培には適さないと考えられ、近年までウイスキー用の大麦栽培は完全に廃れていた。そんな状況にあえて抗ったのも、反骨精神旺盛なブルックラディ蒸溜所だった。近所で農業を営むレイモンド・スチュワートが、ブルックラディ蒸溜所のために初めて大麦を栽培してくれたのは2004年のこと。現在はパートナー農家も増え、17軒の農家(19人の農夫)がブルックラディ蒸溜所にウイスキー用の大麦を提供している。
ブルックラディでアジアパシフィック地域のブランドアンバサダーを務めるクロエ・ウッドが、現在の状況について説明してくれる。
「ブルックラディ蒸溜所で使用されている大麦のうち、アイラ島産は年間使用量の33%に達しています。アイラのテロワールを深く追求することはもちろんですが、地元の農業を振興するという大きな目的にも貢献していますよ」
新標品の「ポートシャーロット アイラ・バーレイ 2011」は、前述のレイモンド・スチュワート(サンダーランド農園)、ニール・マクレラン(キルヒアラン農場)、レイモンド・フレッチャー(ダンロシット農園)が提供したアイラ産大麦を100%使用している。樽の構成は、ファーストフィルのアメリカンオーク樽が75%、セカンドフィルのワイン樽(シラーとメルロー)が25%であるという。「ではさっそく味わってみましょう」と、クロエが黄金の液体をグラスに注いでくれた。
アイラらしさを極めた究極のウイスキー
軽やかなアロマの旋風が、グラスのなかで吹き荒れている。土っぽいタールを纏ったスモーキーなピート香。レモン、モモ、リンゴなどのフルーツ香はブルックラディらしいスピリッツの特性を現している。バニラやココナッツのような香りは、アメリカンオークの熟成感を反映したものだろう。
口に含むと塩気があり、アイラ島沿岸部の情景が目に浮かぶようだ。スモーク風味にはドライな印象がある。薬品っぽさよりも、タールや炭を連想させるスモーク感がポートシャーロットの特徴だ。
フィニッシュにかけて、一気に華やいでいくスモーク香。オークの甘味と麦の風味に完璧な調和を見せている。
「アイラで育った大麦は、ブルックラディ蒸溜所のスタイルであるモモやリンゴなどの風味を際立たせてくれます。蒸溜、熟成、ボトリングまですべてをアイラ島内でおこなうヘビリー・ピーテッドのウイスキーはポートシャーロットとキルホーマンのみ。 とりわけ『アイラ・バーレイ』は、原料もアイラ産のみを使用した純然たるアイラモルトです」
今年5月に開催されたアイラフェスティバルでは、このポートシャーロットの新商品が大好評を博したとクロエが振り返る。ブルックラディ蒸溜所は新しいポートシャーロットのブランドイメージに包まれ、あたかも「ポートシャーロット蒸溜所」のようになった。現在もポートシャーロットは、生粋のアイラらしさ を称えたハッシュタグ「# WE ARE ISLAY」(ウィー・アー・アイラ)をSNSで発信している。
「 アイラの多くのウイスキー蒸溜所は、産地を明確にしない麦を使用して、蒸溜だけ島内でおこなったニューメイクスピリッツを島外に運び出して熟成させています。ほんの数日しかアイラで過ごしていないスピリッツが、本当にアイラウイスキーと呼べるのかという問題提起でもあるのです」
島外のマーケティングチームが作り上げたストーリーではなく、アイラで働く蒸溜所スタッフから生まれた構想にブルックラディはこだわる。その構想から、実際の蒸留、熟成、ボトリングまでをアイラで行うことは、アイラのコミュニティにとって意味があるだけでなく、消費者に「産地の明らかな、造り手の見えるウイスキー」を届けるという目的も持つ。「# WE ARE ISLAY」というメッセージには、アイラの人々やテロワールを体現した「真の」アイラウイスキーであるという強い自負が込められているのだ。
妥協のない手づくりで最高品質を目指す
ポートシャーロットを生産するブルックラディ蒸溜所は、7月現在で93人の大所帯。今年中には100人を超える予定だ。アイラ最大の雇用を誇るウイスキーメーカーで、従業員のうち56人が40歳以下という若いチームでもある。契約農家や協力企業を加えたコミュニティの結束も、前ヘッド・ディスティラーのジム・マッキュワンが目指したアプローチなのだとクロエが説明する。
「昨年と同じものをつくり続けるのではなく、いつも可能な限りの最高品質を目指すのがブルックラディの特徴です。そのためには、前例にとらわれないクリエイティブな実験精神が大切。あらゆる情報がボトル1本ごとに明記されていて、隠し事がない透明性も私たちの誇りです」
あらゆる要素がユニークなブルックラディの哲学を説いてくれるクロエ・ウッドは、地元アイラ島の出身だ。蒸溜所にも近いオクトファド農場で育ち、実父はブルックラディに納入するアイラ産大麦の乾燥を手がけてきた。18歳で「ラディ・ショップ」のスタッフとしてブルックラディに入社し、 その後アカデミープログラムのリーダーに抜擢。世界中から訪れるプロやファンに、ブランドの魅力を伝道してきた。2017年11月からはアジアパシフィック地域のブランドアンバサダーとして日本市場も担当している。
「自分の生まれ育った島とウイスキーのお話をしながら、大好きな旅も経験できる仕事なので、やりがいを感じています。日本のみなさんはウイスキーへの関心が高く、生産プロセスなどについて本当に細かく尋ねてくださるのが印象的。そんな質問に答えるのも、大きな喜びのひとつです。何しろ私たちには、隠し事が一切ありませんから」
エレガントなへビリー・ピーテッドの「ポートシャーロット」など、手づくりのシングルモルトウイスキーにこだわるブルックラディの製品情報はこちらから。