ビル・ラムズデンの指名により、アードベッグの新しい定番商品をつくりあげたブレンダン・マキャロン。風味の科学を究めながら、ミスター・ウイスキーへの道を着実に歩んでいる。

文:ガヴィン・スミス

 

「アードベッグ19年」を委託される前、ブレンダン・マキャロンは「アードベッグ アン・オー」の商品化を任された。これがビル・ラムズデンによって指名された最初のプロジェクトであったという。大きなチャンスをもらい、同時に試練であると受け止めたブレンダン・マキャロンは、全身全霊を込めて風味の設計に取り組んだ。ビル・ラムズデンからの要望は、「アードベッグ10年よりもスモーキーで甘味の強いウイスキー」だったという。

「とても難しい課題でした。中身はアードベッグ10年と60%までは同じなのですが、15%をペドロヒメネスのシェリー樽原酒にして、新樽で後熟した原酒もたくさん使用しました。この新樽原酒が、ペドロヒメネス原酒の甘味とバランスをとっているのです」

新しく登場した「アードベッグ19年」について、ブレンダン・マキャロンはさらに背景を明かしてくれた。

「年数を表示できるウイスキーが必要だと思っていました。もちろん10年よりも大きな数字です。私たちは熟成年数の表示をいつも重視してきました。これはアードベッグ10年を発売して以来、初めて熟成年数を表示したウイスキー。そしてアードベッグ10年も、相変わらず私の大好きなウイスキーです」

そう語るブレンダン・マキャロンは、アードベッグの原酒ストックにまつわる驚くべき裏話を教えてくれた。

「古い原酒ストックの存在は、ずっと懸案事項でした。1980年代は生産が完全に止まっていた時期で、70年代の原酒もほとんど残っていません。そして1997年に生産を再開してから、2000年まではほんのわずかな原酒しか蒸溜していませんでした。そんな事情もあって、ディアジオは残されていた原酒を660万ポンドで買い取ったのですが、蒸溜所自体はわずか1ポンドで買収したのです。当時このウイスキーの潜在力には誰も気付いていなかったし、アードベッグ蒸溜所を存続できたこと自体が奇跡といっていいでしょう。だから再開後も、何か新しいことを始められるようになるまで、ひたすら原酒のストックを積み上げておくしかなかったのです」

 

アードベッグで5番目の通年商品を設計

 

「アードベッグ19年 トリーバン」は、アードベッグで5番目に発売された通年商品である。アードベッグ10年、ウーガダール、コリーヴレッカン、アン・オーに次ぐ新しい定番ということになる。現在の「アードベッグ19年」で使用されているのは、すべて2000年に蒸溜された原酒である。

気になる味わいについて、ブレンダン・マキャロンが説明してくれる。

「熟成年数が増すにつれて、スモーク香の強度は落ちていきます。エステル香が強まる一方で、スモーキーな感触が和らぐのです。原酒は熟成17年から25年の間に、大きな変化が起こります。アードベッグ19年は、85%がバーボン樽熟成原酒で、15%が樽材の組み換えをしたシェリー樽熟成原酒。この比率は、バッチや蒸溜年が異なっても、ほぼ一定に保たれる予定です」

アードベッグが満を持して発売した長期熟成の定番商品。設計したのは若きブレンダン・マキャロンだった。ディアジオがわずか1ポンドで購入した蒸溜所は、12世紀に入って想像を超えた進化を遂げた。

ちょうど時を同じくして、アードベッグ蒸溜所も大きな変化を迎えている。ブレンダン・マキャロンが語る。

「アードベッグ蒸溜所としては、実に203年ぶりとなる設備の拡張がおこなわれます。新しい蒸溜棟を建てて、そこに2基のポットスチルを新調する予定です。2020年の前半には、蒸気を通して稼働するでしょう。現在のアードベッグ蒸溜所は年間生産量が純アルコール換算で120万Lですが、今回の拡張で生産量がほぼ倍増します。発酵槽は5槽から8槽にまで増やし、アイラ島内での貯蔵庫も増やそうと計画しています」

ブレンダン・マキャロンは、アンバサダーとしての役割も多くなっている。アメリカとアジアは年に、数回のペースで訪れているようだ。

「プレゼンをしたり、みんなとおしゃべりをしたりするのは楽しい。でもラボに閉じ籠もってクリエイティブな実験を続けるのも大好き。機械の唸り声が響く蒸溜所の雰囲気も、ちょっと現場を離れただけで恋しくなりますね」

いずれにしても、ブレンダン・マキャロンはウイスキー界の誰もが知る顔役になりつつある。直属の上司であるビル・ラムズデンや、ホワイト&マッカイのリチャード・パターソンのような、世界中で「ミスター・ウイスキー」と呼ばれる存在だ。

本人をどこかで見つけたら、とってきの「猿をローストしたモルトマンの話」を聞かせてほしいとねだってみよう。さらに親しくなったら、ジェームズ・ボンドの映画のテーマを歌うアラン・パートリッジの物真似も披露してくれるかもしれない。若きスターの活躍に、これからも注目だ。