生まれ変わるベンリアック・ファミリー【第3回/全3回】
ベンリアック・ファミリーのなかでも、「隠れた宝石」と称されるグレングラッサ。クラフトディスティラリーのような革新性と、超長期熟成原酒のストックを兼ね添えた稀有な存在だ。ブランドアンバサダーのクレイグ・ジョンストン氏がその魅力のすべてを明かす。
文:WMJ
「ハイランドで一番の秘密。グレングラッサ蒸溜所は、まさに秘蔵の宝石です」
ブランドアンバサダーのクレイグ・ジョンストン氏が熱く語る。グレングラッサ蒸溜所の創業は1875年と古い。1960年代に設備を拡張したが、ウイスキー業界の不振により1986年に生産休止。再開は絶望的と見られていたが、2008年に劇的な復活を遂げた。小規模少量生産でクラフトマンシップを貫いているが、休止期間の影響でシングルモルト製品をリリースできなかったため、これまではウイスキーファンもその存在を意識してこなかったのである。
「蒸溜所の所在地は、スコットランド屈指のロケーションと言っていいでしょう。ハイランド東岸のサンデンド湾に面していて、ハイランドとスペイサイドの境界をまたぐ唯一の蒸溜所です」
グレングラッサ蒸溜所のモットーは「Per Mare Per Terras」(海にあっても、大地にあっても)。たっぷり海風を浴びながらミネラル豊富な水にも恵まれ、海とハイランドとスペイサイドの3要素を併せ持つ独特の個性で知られている。
今回日本で発売されるウイスキーは、蒸溜所を再開した2008年から2009年にかけて蒸溜した原酒を使用している。ノンピートとピーテッドを共にメインスタイルとしているが、ジョンストン氏はまずピーテッドの「グレングラッサ トルファ」を手に取った。
「グレングラッサにとって、初めてのピーテッドタイプです。それでもワールド・ウイスキー・アワードで、いきなりベスト・ノンエイジステートメント・ハイランドウイスキーを受賞しました。バーボンバレルで熟成後、アルコール度数50%でボトリングしています」
グレングラッサはスチルの背が高いので、繊細なスタイルのスピリッツに仕上がるのだとジョンストン氏は説明する。このためピートのスモーク感は極めて繊細だ。
「香りからはスモークを感じないという人もいるくらい繊細なピート風味です。でもひとたび口に含めば、素晴らしくスモーキーな味わいが満ち溢れ、後味にもしっかりと残ります。トルファはブレンディングを指揮したレイチェル・バリー氏の影響がもっとも顕著に現れているウイスキーだと言ってもいいでしょう」
ユニークな樽熟成と海の香り
次にジョンストン氏が手に取ったのは、ノンピートの「エボリューション」だ。ファーストフィルのテネシーウイスキー樽で熟成した原酒を100%使用している。
「熟成に使用したテネシーウイスキー樽は、具体的にはジョージ・ディッケルの樽です。ブラウン・フォーマン傘下となった今後は、もちろんジャックダニエルの樽がふんだんに使用できるようになります。軽やかで甘みが強く、かすかに海岸の香りもあって、個人的に大好きなボトルです」
選りすぐった熟成樽のみをボトリングした少量生産のシングルモルト。熟した果実やキャラメルのような香りと、濃厚な味わいが調和している。
そして最後にジョンストン氏が紹介してくれたのが「グレングラッサ リバイバル」である。ヨーロピアンオーク赤ワイン樽と、アメリカンオークのバーボン樽で別途に熟成させた原酒を、改めてシェリー樽に移して再度後熟したウイスキー。色はコッパー色で、甘いキャラメルのような香りと、クリーミーな味わいが特長だ。「リバイバル」というネーミングは、2008年のグレングラッサ再興を実現したスチュアート・ニコルソンの命名によるものだという。
「グレングラッサにとってはエントリーモデルですが、非常に珍しいアプローチでつくられているのが特徴です。エボリューション同様のフレーバーとアロマを備えながら、赤ワイン樽で熟成した原酒に合わせて絶妙なバランスをとっています。キャラメルの風味やワイン樽由来のタンニンもあり、フィニッシュにかけてはシェリー樽熟成らしいスパイスも感じる贅沢な味わいです」
異質な樽熟成の風味が完璧なバランスで統合され、かすかな海の塩気も感じられる。これぞ「隠れた宝石」の名に相応しい見事な味わいだ。少量生産のため、グレングラッサの3アイテムは飲料店限定商品となる。
「この3つのウイスキーをつくるプロセスはエキサイティングでした。蒸溜所が再稼働して、それぞれの原酒が1年毎に成長していく様子をじっくりと観察できたからです」
万全のカスク戦略で着実に進化
グレングラッサの面白いところは、最近復興された新しい蒸溜所であると同時に、休止期間以前に蒸溜された古い原酒も保持している点だ。1960年代から70年代にかけての原酒なら、ウイスキー業界屈指の豊かなストックがあるというのである。
「もともとは熟成年12年以上のブレンド用にストックしていた原酒ですが、ブレンダーたちはこれほど貴重なモルト原酒を別ブランドに渡すのがもったいないと考えるようになりました。複雑な風味を持つ長期熟成原酒を、レイチェル・バリーはリフィル樽に移し替えています。これ以上オークの影響が出過ぎないよう、万全の体制を敷いているのです」
非常に高度な樽熟成のポリシーを実行に移すレイチェル・バリー氏。つまり現存するグレングラッサの原酒も、これまで以上に品質を上げていくことになる。今回発売される3種類のウイスキーの品質も、年を追うごとに高まっていくだろうとジョンストン氏は語る。
素晴らしいウイスキーを紹介してくれたクレイグ・ジョンストン氏は、2017年9月からブラウン・フォーマンのブランドアンバサダーを務めている。10代より故郷のグレンキンチーでツアーガイドの仕事を始め、若くしてザ・スコッチ・モルト・ウイスキー・ソサエティでテイスティングパネルの委員長を務めた。大学で物理を修め、卒業後に初めて得た仕事がカナダでのザ・マッカランとハイランドパークのブランドアンバサダーに就任。さらにスコットランドに帰って、ブルイックラディのビジネス開発マネジャーとブランドアンバサダーを兼任した。その後はドバイでディストリビューター向けに21種類のシングルモルトを管轄し、タスマニアのラーク蒸溜所でディスティラリーマネージャーも務めたという多彩な経歴の持ち主である。
「生産、物流、宣伝、販売と、あらゆる経験ができたのはとてもラッキーでした。ベンリアックは大好きな蒸溜所だったので、とても誇らしい気持ちです。グレングラッサの魅力を発見し、グレンドロナックの素晴らしさも再認識できました。今回は初来日ですが、この国でウイスキーに関わる人々のプロ意識にも驚嘆しています」
「グレンドロナック」「ベンリアック」「グレングラッサ」の8アイテムは、6月19日から全国で発売される。さらに大きく広がるスコッチシングルモルトウイスキーの魅力を満喫しよう。
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