過去に学んで、未来に備える。そんなウイスキーづくりの基本をコロナ禍は思い出させてくれる。バッファーロートレースの現在を探るシリーズの第2回。

文:マギー・キンバール

 

1990年代後半からの人気回復で、バーボン業界には奇跡のような再ブームが到来した。バッファロートレース蒸溜所でも、嬉しい悲鳴が生まれたという。製品の人気があまりにも高まったため、在庫を維持しておくことができなくなったのだ。バーボンがゆっくりと人気を回復していくのにあわせ、最初は生産量もじりじりと上げていく方針だった。しかしやがて需要は生産量をはるかに超えるようになり、フル稼働でも需要に追いつかなくなった。

バーボンを市場へ送り出すには、6〜10年の熟成期間が必要になる。そのため急激な人気の上昇に対して、ケンタッキーの蒸溜所はほとんど打つ手がなかった。コモンウェルス社傘下の蒸溜所は、現在もできる限り短期間で生産体制を拡張すべく工事を急いでいる。もちろんバッファロートレースも例外ではなく、もう5〜6年にわたってノンストップで設備の拡張工事が続いている状況だ。

現在、バッファロートレースのマスターディスティラーを務めるハーレン・ウィートリーが説明する。

「設備の拡張工事は、段階的に進めています。今から25年前を思い出してみると、発酵は週にわずか数日間の部分発酵でした。だから生産設備の拡張も、とてもゆっくり進めてきたのです。拡張計画というものは、確実に継続していかなければなりません。でも過去5年間は、設備をどんどん追加して急激に成長させる必要がありました」

バッファロートレースが、特に小規模な蒸溜所だった訳ではない。これまでも潜在的な生産力は、実際に必要な量を常に上回っていた。だが3年前からついに需要が生産を追い越し、本格的な生産拡大工事が必要になってきたのだとハーレン・ウィートリーが語る。

「まずはボイラー設備の拡張を開始しました。この生産拡大プロジェクトを始めてから、工事の規模も上方修正を続けています。優先して加熱装置を強化することにしました。最初に蒸溜の量を倍増させるべく設備を追加して、副産物である湿気や水分を乾燥させる装置も倍にしました。拡張工事それ自体も進化していますが、それでもおのずと限界はあります。蒸溜所の敷地や建物のスペースには物理的な制約があるので、いずれはトラックが入れなくなったり、設備を置く場所がなくなったりするかもしれません」

シニアマーケティングディレクターを務めるクリス・コムストックも現在の状況を説明してくれた。

「もう拡張工事が始まって5〜6年になりますが、この計画が集結する予定はまだ見えていません。最終的には生産量を倍増させて、グレーン原料も倍の量を処理できるようになる予定です。でもアメリカを代表する歴史的な建物内での巨大プロジェクトとあって、まっさらな敷地に蒸溜所を新築するほど簡単な話ではありません。歴史遺産のような蒸溜所建築の中に、必要な設備を収めなければならないのですから」

それでも蒸溜所には譲れないこだわりもる。それは従来の設備でおこなってきた生産方式と同様のやり方で、ウイスキーがつくれる設備を導入することなのだとクリス・コムストックは言う。

「バッファロートレースはグレーンに圧力をかけてウイスキーをつくる特殊な方式を採用しているので、新しい設備も業界の標準とはまったく異なったものになります。しかもスケールは遥かに大きくなるのです。以前は12槽あったスチール製の巨大な発酵タンクが、今では24槽になりました。新品のボイラーも1基追加されています。既存のコラムスチルでは年間20万バレル以上のウイスキーがつくれるのですが、これからはもっと多くの量が必要になります。そこで今から2年以内に2基目のスチルを追加して、蒸溜棟での生産能力を倍増させる予定です」
 

ウイスキーの量も増やし、ビジター収容力も強化

 
生産力の増大だけでなく、バッファロートレースは貯蔵庫、ビジターセンター、ショップスペースの収容力も拡大している。現在は新型コロナウイルスの感染拡大でビジターツアーを休止しているが、バッファロートレースはこれをチャンスととらえ、ビジターセンターの建築計画をスピードアップしている。コロナ禍の前は、年間30万人のビジターが蒸溜所を訪れていた。生産量を増大させるだけでなく、ビジターの収容力も最大限にまで高めようとしているのだ。クリス・コムストックが語る。

「ビジターセンターの拡張工事によって、おそらく年間50万人のビジターを迎えられるようになるでしょう。ツアーの種類も豊富です。『オールドテイラー・ツアー』『バレル・ツアー』『ゴースト・ツアー』そして通常の『トレース・ツアー』『ハードハット・ツアー』をご用意しています。現状では1日1回しか催行しないツアーもあるので、ビジターセンターの拡張工事が終わったら、ツアーによっては1日あたりの回数を増やします。ウイスキー用の農場にまで行き先を広げたら、お見せできるツアーの内容もどんどん増えていく見込みです」

生産力、貯蔵量、来客用スペースなどを全面的に拡大中のバッファロートレース。コロナ禍をチャンスと捉え、需要増への対応を加速している。

現在が苦難の時期であることは間違いない。蒸溜所内で従業員を安全に保ち、濃厚接触者を追跡し、ツアー参加希望者に対処する日々の闘いは続いている。ツアーはやっていないが、現地に行けば何とかなるだろうと思って訪ねてくる人々も後をたたないのだ。

これまでも将来に役立ちそうな教訓はたくさん得られた。コロナ禍の中で、ビジターツアーを担当するチームはポストコロナにおける新しい安全基準やツアーでの対策などを検討し、ゲストと従業員の健康を守るためにざまざまなアイデアを実験する機会も生まれた。ビジターツアーで人気ガイドとして活躍するフレディー・ジョンソンが回想する。

「昨年は3月に蒸溜所ツアーをやめて、7月1日から再開しました。安全基準を満たしながらお客様にご満足いただける質の高いツアーを提供するため、何種類ものツアー構成を試してみました。お客様はもちろん、従業員やギフトショップ店員の安全も確保する必要があります。このような問題について自問自答しながら、7月1日の再開を迎えました」

既存のシステムをアップデートし、誰がどこに行ったのか遡って追跡できるようにした。消毒がいつなされたかを可視化し、人々の動きもモニタリングしているのだとジョンソンは説明する。

「以前ならツアーはもっと自由な感じで、参加者が行きたいところに自由に出入りできるような状況でした。そんな人たちが再訪して、色んな場所に行きたがることもあります。でも今はそのようなお客様への応対も訓練して、新しいルールに従っていただくようにしています。蒸溜所のような場所であっても、やはり世界は変わってしまったのですから」
(つづく)