チェリーを救え

June 19, 2013

 

完璧なマンハッタン、そして香しいサワーカクテル のために、ニール・リドリーからの提案。

私だけなのかもしれないが、カクテルが出される15秒ほど前、若干の不安に襲われることがある。神経質と言ってもいいし、あるいは心理学者に調べてもらう必要があるような、何らかの症候群の始まりなのかもしれない。しかしそれもこれも、見事なバランスのカクテルにひどいチェリーを飾って台無しにするバーが多すぎるからなのだ。

些細なことに聞こえるかもしれないが、マンハッタンやウイスキーサワーのようなクラシックな飲み物が流行り始めている昨今、カクテル界だけでなくウイスキー界でも、素晴らしいカクテル用チェリーの探求が少しばかり活発な動きをみせている。この勢いに乗って、バーテンダーや自宅でカクテルを楽しみたい愛好家は、こういった「不滅のカクテル」を完璧に再現するため、あるいは「究極のバージョン」を創り出すために道具や材料にかなりの金額を注ぎ込むものの、人工的な味付けのカクテルチェリーのおかげで最後の段階で失敗を強いられることになる。

そこで私は、今こそ自家製チェリーの製作に挑戦するときと思い立った。そして一流バーテンダー数人に相談にのってもらった。その結果は、大成功であったといって良いだろう。
「チェリーの季節であれば特に、オリジナルレシピを試してみる価値は十分にありますよ」と、傑出したバーテンダーであり、ロンドンの新しいバーではトップクラスと名高い「ザ・ウィストリング・ショップ」を最近まで経営していたライアン・チェティヤワルダナは指摘する。
「しかし、チェリーそのものの本来の味を台無しにしてしまったうえ、オリジナルレシピを試すという目的も果たせずに終わる可能性も十分にあります」。

私はライアンのアドバイスをもとにして、まず漬込み用の酒にはラフロイグ・カスクストレングスラガヴーリン16年が最もよいだろうと考えたが、これは失敗だった。しかし、ちょっとした変化球を想像してみると、タリスカー10年に小さじ2杯のグラニュー糖を加えて新鮮なラズベリー1ポンド(約450 g)を3週間漬け込めば、高級バニラアイスクリームに添えるにはおそらく究極の一品になる。
現実に戻ってチェリーだが、これは酸味の効いたモレロ種が最適だと分かった。幸運なことに今年の夏、自宅の庭のかなり若い桜桃の木からこれが大量に採れた。私は種を取るという厄介な作業を済ませ、スピリッツと甘味料のベストな組み合わせを模索する仕事に取りかかった。

シェリーの効いたスコッチ(グレンファークラス)、ジャパニーズウイスキー(山崎)、それにアイリッシュウイスキー(ジェムソン)を試した。すべて上手くいったが、私が求めていたほどの結果は得られなかったので、フルーティさに対してスパイシーな要素を加えるべく2種類のバーボンとライウイスキーの組み合わせに挑戦した。
イーグルレア17年 1/3パイント(約190 ml)とメーカーズマーク2/3パイント(約380 ml)にさらにライウイスキーのパイクスヴィルを75 mlを加えると、およそ50〜60個のチェリーを浸すことができた。2週間ほど漬け込んでチェリーがある程度ウイスキーを吸収したら、黒砂糖のシロップ45 mlを加えて軽く甘味を足す。そして、スパイシーな刺激を加えるためにフィーブラザーズ カスクエイジド・ビターズを少量加え、瓶に詰めてさらに漬込んだ。

エジンバラのバー&レストラン「ブランブル」の創業者ジェイソン・スコットのレシピも同じくらい風味豊かに仕上がる。チェリーをマラスキーノリキュールに入れてゆっくり加熱するというもので、このチェリーを添えればどのようなカクテルでもまるで正装したような姿と風味になる。
「ここのチェリーはすべて、リキュールに限らずこの方法が使われています」とジェイソンは言う。「最近では2つのカクテルバーで1年もつように、30 kgのチェリーを漬け込みましたよ! マラスキーノリキュールと一緒にシャルトリューズ、イエガーマイスター、スイートベルモット、バーボンも使います」

では、ここでその秘伝のつくり方をこっそりお教えする。この記事を読んでいる方はラッキーだ!

• 洗ったチェリーを滅菌した瓶に入れ、かぶる程度にマラスキーノリキュールを注ぐ。
  瓶は蒸気が逃げられるように軽く蓋をする程度にし、ワイヤーラックに瓶を並べて大きな鍋の底に置く。
• 鍋に冷水を入れ、温度計で測りながらおよそ55℃まで加熱して1時間以上保つ
  その後さらに30分間、74〜87℃で加熱する。
ここで重要なポイントは、急激に加熱すると果実の色が悪くなってしまうので気を付けることだ。

• この方法は他の果実にも応用できるが、くずれやすい果物の場合は必ず温度をもう少し低めにする。

さらに、私が少々バーボンに酔う余裕があるときにつくっているマンハッタンのレシピをご紹介しよう。
バーボンの価格を考えると贅沢に過ぎるように見えるかもしれないが、我々が知っている中で最も調和のとれた風味―端的に言って、極上の味わい。しかし、私が本当にガッカリするのは常にチェリーの段階なので、チェリーは自分で漬けたものが最高だ。
…抗いがたい誘惑? まさに!

材料
バーボン:「ジョージ・T・スタッグ」  40ml
ライウイスキー:「パイクスヴィル」 10ml
スイートベルモット:「アンティカ・フォーミュラ」 15ml
ドライベルモット:「ドリン」または「ガンチア・ビアンコ」 10ml
ビターズ:「ビタートゥルース ジェリートーマス オウンデキャンタ」 3ダッシュ
オレンジビター:「ビタートゥルース オレンジビターズ」 2ダッシュ
アマルフィ産ノーワックスレモンのピール と自家製カクテルチェリーを添える

 

《WMJ追記》

こちらの記事は英語版ウイスキーマガジン107号に掲載されたもの。そこでウイスキーマガジン・ジャパンでは、このマンハッタンを再現しようと試みた…が、日本未入荷のブランドもあり、断念。
しかしプレミアムバーボンやスモールバッチ・ライウイスキーを使用して、非常に コクのあるマンハッタンができた。画像でお分かりいただけるだろうか?チェリーは国産・佐藤錦を使用したWMJ特製だが、まだ漬け込みが浅かったようだ。このチェリーが出来上がる頃には、あらためてマンハッタンのレシピを模索してみたい。
ちなみに今回のカクテルに使用したグラスは、 英国のグラスメーカー「Urban Bar」のもので、独特のデザインと重厚感がポイント。
カクテルグラスのほかにもテイスティンググラス小ぶりで数種類のテイスティングにぴったりのグラスジャグなども揃っており、価格も手頃だ。ウイスキーマガジン・ジャパンショップで販売を開始したので、ご興味のある方は是非。いや、決して宣伝という訳ではないが…。

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