動き始めたチャイニーズウイスキー【第2回/全3回】
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文:ジャンヌ・ペイシアン・チアオ
世界的な酒類メーカーであるディアジオは、2024年12月15日に雲南省徳宏タイ族自治州洱源県で「雲拓蒸溜所」を開業した。蒸溜所の建設に投じた資金は9421万ポンド(約180億円)だ。生産設備は最先端を誇り、中国独自のシングルモルトウイスキー製造というディアジオの野心を象徴する存在だ。
雲拓蒸溜所は、世界中のウイスキー愛好家の想像力をかき立てている。中国を世界のウイスキー市場における重要なプレイヤーとして確立させる存在にもなりそうだ。
蒸溜所の名称は、地理的な要素と先見性を反映したもの。「雲」は雲南省の高地の息をのむような美しさを想起させ、「拓」は、ウイスキー製造の限界に挑む決意を表している。
蒸溜所は海抜2,100メートルに位置し、4つの大型輸入ポットスチルを備えている。雲南を世界のウイスキー地図に載せ、ウイスキー熱が高まりつつある中国の消費者層にもアピールするのが目標だ。
中国伝統の白酒メーカーも参入
ペルノ・リカールやディアジオなどの大手グローバル企業と競い合いながら、中国ウイスキーの多様化を推進している国内メーカーもある。郎酒、怡園酒莊、熊猫精酿、青島啤酒といった白酒、ワイン、ビールの中国メーカーが中心だ。
こうしたパイオニアの中でも、上海巴克斯酒業(百潤グループ)が所有する崃州蒸溜所は、その野心的な生産能力とウイスキー製造における画期的なアプローチで際立っている。
四川省の瓊海市にある崃州蒸溜所は、中国白酒の50%を生産する巨大な生産拠点だ。この生産規模は、スコットランドにあるディアジオ傘下のローズアイル蒸溜所を彷彿とさせる。
広大な146,000平米の敷地には、さまざまなデザインのポットスチルが8基あり、合計334枚のコラムプレートを備えたコラムスチルが7基も設置されている。年間生産能力は純アルコール換算で3,010万リットルもあり、そのうち大麦原料のスピリッツは純アルコール換算で年間480万リットルだ。
崃州蒸溜所は、世界でも数少ないステンレススチールと伝統的な銅管式コンデンサーを併用したポットスチルのシステムを備えている。同様の設備があるのは、ローズアイル蒸溜所やレイクス蒸溜所などだ。さまざまなスピリッツが柔軟に生産できるため、崃州蒸溜所では幅広いスタイルのウイスキー製造を視野に入れている。
崃州蒸溜所による革新的なウイスキーづくりは、樽熟成にも特別な投資をおこなっている。蒸溜所では2023年末までに52種類のウイスキーを樽30万本分も生産した。いずれ樽の数は120万本にまで増加させる計画だ。蒸溜所のブランド大使は次のように説明している。
「崃州蒸溜所の目標は、すべてのウイスキー愛好家の好みに合うようにすることです」
叠川蒸溜所と同様に、崃州蒸溜所では樽熟成にミズナラ材を採用している。北京林業大学と提携して、ミズナラの植林プロジェクトを開始したところだ。崃州蒸溜所の革新的な樽熟成といえば、シェリー酒に似た特徴を持つ中国の「黄酒」でシーズニングした樽の使用だ。この樽で熟成すると、ウイスキーに独特の複雑な香りが加わる。
蒸溜所に併設された自前の樽工場では、ジム・スワン博士が考案したSTR樽(シェーブ、トースト、リチャー)の技術が用いられている。この樽はニューメイクスピリッツの角を取って、熟成年数が短めのウイスキーでも品質を高めてくれる。バーボン樽、ポート樽、シェリー樽、リオハ樽、黄酒樽を組み合わせることで、伝統と革新を融合させた「崃州」の個性が打ち出せる。
最初のボトリングシリーズが2024年冬に公式発売される前から、崃州は大きな話題を呼んでいた。原酒の先行販売は3回にわたって実施され、それぞれ樽で約1,000本ずつが売約済みになった。
最近の先行販売は2023年後半に実施され、シングルカスク100本分がわずか3分で完売した。このような実績を積み重ねている崃州は、中国国内および国際市場でも注目される準備ができていると見ていいだろう。
(つづく)