シガーとウイスキーの再会【後半/全2回】
文:ニック・ハモンド
アンガスダンディでマスターブレンダーを務めるイアン・フォーティースは、オロロソシェリー樽でフィニッシュしたウイスキーがシガーとのペアリングにぴったりだと語った。それでは他のスコッチウイスキーはどうだろう。
タムデューのオーク樽は、すべてスペインのシェリー樽を使用している。つまりシガーモルトの製造に完璧に適した蒸溜所のひとつだと考えていい。
タムデューのモルトウイスキーは、度数も高めのしっかりとした味わいだ。ナッツやジンジャーの風味に満ちていて、典型的な英国風クリスマスケーキを思い起こさせる香りがある。力強いシガーの香りと組み合わせても、しっかりと対峙できるだろう。
そんな話を始めると、イアン・マクロード・ディスティラーズのブランド開発マネージャーを務めるゴードン・ダンダスが慌てて会話をいったん遮る。大事な前提を確認しておくためだ。
「はっきり私たちの見解を言っておきましょう。まずシガーモルトを楽しむために、必ずしもシガーを吸う必要はありません。シガーモルトは、それ自体が極上のウイスキーですから」
これは単なる売り口上ではないのだとダンダスは言う。
「私たちは、シガーとウイスキーのペアリングに興味を持つ人が増えていることに気づいていました。最初のシガーモルトは完売し、在庫もなくなりました。最新のシガーモルトは2作目です。これが完売すれば、また次のボトリングが企画できるだろうと期待しています。タムデューのポートフォリオの中でも、シガーモルトは特に愛されて待ち望まれる存在になっていますから」
かつてウイスキーとシガーの組み合わせは、年配のウイスキーファンに特有の伝統と見られることも多かった。だが最近は若い顧客層が新たに登場し、新しいブランドや味わいのウイスキーでシガーとの相性を試したがっている。
ロンドンのメイフェアにあるマークス・クラブは、そんな同好の士が集まる場所。女性会員のエルナズ・アリア(30歳)は次のように語っている。
「私にとってシガーは、心身をリラックスさせるための儀式。ちょっと瞑想にも似た体験なんです」
ロンドンで最も格式の高いこのマークス・クラブでは、シガーとさまざまな蒸溜酒との珍しい組み合わせを試している。フレーバーの奥義を学ぶことに貪欲な若者たちが、常時よく集っているのだとアリアは説明する。
「個人的な嗜好を言えば、フローラルでクリーミー、そして甘いシガーが好みです。マッカランのアンバーウイスキーと一緒に楽しむことが多く、口直しと水分補給のために、いつも少量の水を添えて楽しんでいます」
若い世代がオンラインイベントでシガーの虜に
コロナ禍でロックダウンの期間が長くなったのをきっかけに、英国でもオンラインイベントが急速に普及した。リモートワークで時間と可処分所得に余裕ができた新しいオーディエンスが、新しい分野の存在に気づくことも起こった。その結果、革新的なペアリングの可能性がさらに広がるようになったのだという。
高級ウイスキー、シガー、喫煙具などを販売する「ロバート・グラハム 1874」は、スコットランドでアイコンズ・オブ・ウイスキーも受賞したことのあるユニークなショップだ。チケット制でシガーとウイスキーのペアリングを体験するオンラインイベントを定期的に開催している。
バーチャルイベントを敬遠する保守派もいるが、オンラインイベントは聴衆から多くの関心を獲得している。そう語るのは、「ロバート・グラハム 1874」のオーナーであるスティーブ・ジョンストンだ。
「これまで考えもしなかった方法で、ウィスキーとシガーの両方の世界から専門家のゲストを集めることができました」
ジョンストンが運営するオンラインイベントは、ライブの要素を含みつつも、テレビ番組的な構成になっている。イベントはライブ音楽で始まり、やがてゲストとの対面に移行する。
「たとえば蒸溜所と葉巻工場からゲストを一人ずつ招聘し、インターネットのマジックで共演してもらうんです。技術的な諸問題もありますが、文字通りスコットランドとニカラグアをライブでつなぐことができます。そして視聴するお客様は、自宅でくつろぎながらエキスパートたちと直接対話し、同時にペアリングを楽しめる。あまりに画期的なので、ロックダウンが解除された後も開催を続けています」
シガー愛好家も、ウイスキー愛好家も、シガーモルトの新しい潮流と新鮮なペアリングの機会を楽しんでいる。そもそも相性ぴったりの結婚なので、この分野の将来は明るいだろう。専門小売店「Cガーズ」のロン・モリソン会長は、何よりも教育が大切だと述べている。
「セントジェームズにある店舗では、シガーとシングルカスクの組み合わせに若い人たちが飽くことのない欲求を抱いています。スタラデューの新しいシングルカスク商品は毎月のようにリリースされ、スタッフはペアリングの知識も豊富です」
リバプールのラウンジ「パフィンルーム」では、デートで訪れた若いカップルがペアリングやテイスティングに興味を示している。そんな光景に、モリソンは確かな手応えを感じているのだという。
「私たちが一貫して続けているテイスティングイベントが、しっかりと実を結んできた証拠でもあります。楽しい知識と経験を提供しているうちに、さらなるペアリングの実験をしたいという意欲が喚起されているからでしょう」