銅の効果【後半/全2回】
ポットスチルの中で起こる化学変化だけでなく、冷却中にも銅はスピリッツに働きかけていた? ウイスキーと銅の関係性を探る連載の後半。
←前半
「硫黄化合物が減ることは、蒸溜の過程で銅がもたらす最大の作用です。そして、銅との接触の程度を制御するひとつの方法が蒸溜の速度です」とエドリントングループのブレンダー、カーステン・キャンベルは説明する。
スチルをゆっくり加熱すると蒸溜速度が遅くなるため、スチル内の温度は相対的に低くなり、ネック部を上昇する蒸気の密度も低下する。これで蒸気が銅表面で凝縮・蒸発するプロセスがより促され、銅の影響をさらに大きくすることができる。
スチルを強く加熱して温度を上げると、蒸溜速度が速くなり、ネック部を上昇する蒸気の密度も高くなる上、蒸気の一部はあまり銅と接触せずにコンデンサーに達する結果にもなる。
もうひとつの重要な要素はスチルの大きさと形だが、これは蒸溜所によって大幅に異なる。例えば、ネックが長く、幅広いと、短くて狭いネックより蒸気と相互作用する銅表面が広くなる。
「銅との接触の程度はニューメイクスピリッツの個性の基本的な要素ですから、各蒸溜所のモルトウイスキーを区別する要素ということになります」とウィリアム・グラント&サンズ社のダフタウン蒸溜所長、スチュアート・ワッツは言う。
銅との接触という過程はコンデンサーにも当てはまる。
一般的に、コンデンサーにはシェル&チューブ式が選択されている。これは数多くの銅管を入れた「チャンバ」で、銅管には冷水が流れている。スチルから送られた蒸気はこの銅管上で凝縮し、管全体を液体で包み込む。これが銅管をつたって下降して、底から排出される。銅は、蒸気と接した時ほど強くはないが、液体にも同様の作用をする。
別の方式はワーム式で、先細り型のコイル状の銅管(ワーム)を冷水が流れるワームタブに設置したものだ。銅管内で蒸気は先ず表面部分全体と接触して凝縮するが、凝縮後の液体は管の一部に沿った小さな流れになるので、一部の液体しか銅と接触しない。
従って、シェル&チューブ式コンデンサーは銅との接触の機会が多く、硫黄化合物を大きく減らす。
一般的にワーム式はフルボディの傾向が強いスピリッツになり、シェル&チューブ式では柔らかく軽いスピリッツができると言われている。
このようにウイスキーの製造工程で欠かせない「銅」の作用。これから蒸溜所見学に行った際には、ぜひその点にも注意して、スチルやコンデンサーを見ていただきたい。きっと新たな発見とともに、ウイスキーの味わいと香りの秘密を深く知ることができるだろう。