銅の効果【前半/全2回】

June 23, 2014

銅がウイスキーづくりにもたらすもの、そしてその背後にある科学的な理由を探る。

銅は何とも素晴らしい金属だ。可鍛性が高く、つくり手が求めるポットスチルの形がどれほど風変わりであっても、やすやすと応じてくれる。さらに優れた熱伝導特性により、スチルを急速に加熱できると。いうことは、省エネルギーにもつながるというわけだ。
だが何より重要なことは、銅はニューメイクスピリッツの個性にも大きな影響を及ぼすということ。この点を改めて掘り下げてみたい。

銅の影響が正確にどれほどなのかは、スチルの大きさや形、蒸溜所によって異なる蒸溜速度を含む様々な要素に応じて変わってくる。一般的に、銅の影響が大きいほど、生じるスピリッツは「エレガント」になるが、影響が少ないとフルボディの傾向が強くなる。

蒸溜中、もろみ(即ち、アルコール性の液体)は加熱されて蒸発し始める。蒸気がスチルのネック部を上昇すると、相対的に温度が低くなり、銅表面と接触した蒸気は凝縮する。
一方、このときに蒸気の熱も銅表面に移り、銅の温度が上昇する。その結果、文字通り瞬間的なプロセスで液体は再び蒸発する。すると銅表面から蒸気が上がってネック部を上昇し続け、温度が再び下がって、「凝縮、再蒸発」という過程が繰り返される。この過程は蒸気がネック部の一番上に達するまで何度も繰り返され、そこから液体に凝縮するため、蒸気はパイプを伝ってコンデンサーに導かれる。

蒸気が銅表面と接触するたびに様々な反応が起こり、これがスピリッツの個性に影響を及ぼす。しかし、これらの反応の詳細な全体像はまだ研究中である。

「一般的には、銅はエステル(フルーティな香り)を生じる触媒として作用すると考えられています。銅の表面が、蒸溜中の液体に存在する酸を含む様々な化合物と接する場となります。銅とこれらの化合物との反応がエステルの生成につながる、と私は考えています」とグレンモーレンジィ蒸溜所ビル・ラムズデン博士は語る。

また、銅には蒸気から強い刺激性の硫黄化合物を吸収する能力もある。

「科学的に正確なことは分かりませんが、『銅表面は硫黄化合物を保持するマトリックス(基質)』だと私たちは考えています。従って、銅の表面が保持できる硫黄化合物の量には限りがあり、この限界に達したら、銅の表面から硫黄化合物を除去して真新しい銅の表面を露出させる必要があります」とディアジオ社の技術マネージャー、ダグラス・マレイは言う。
「大変な作業だと思うでしょう? しかしそれは、スチルのドアを開けて空気を入れるだけです。普通は週に1回ほど、15〜20分で十分でしょう。これで付着した硫黄化合物が銅表面にできた薄い被膜と一緒に剥がれ、スチルの底に落ちますから、蒸溜後のスチルに残っている残留液と一緒に排出します」

硫黄化合物にはゴムのような、肉っぽくて野菜っぽい匂いがある。微量しか存在しなくても(10億分率で測定する)非常に強く、様々な他の特徴を覆い隠してしまう。従って、硫黄化合物の量を減らすと、エステル(フルーティさ)や、穀物の香りを含む甘さや豊かな個性など、華やかな香りが現れる。

しかし、銅がそのような作用を持っているとしても、蒸溜所の個性やバッチごとの違いなど、まだまだ謎は多い。つくり手はどのようにスピリッツに変化を与えているのだろう?

【後半に続く】

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