スコットランドの歴史に、新たな光を当てる大発見。ラガヴーリンの記念事業に支援されたアイラ島の発掘活動で、支配者たちの盛衰を物語る印鑑が大学生によって掘り当てられた。

文:ロブ・アランソン

 

アイラ島のラガヴーリン蒸溜所近郊でおこなわれたダニヴェイグ城の第1回遺跡発掘活動で、ある大学生が偶然掘り当てた遺物が空前の大発見として注目を集めている。

レディング大学で学ぶゾーイ・ヴィアチェックさんは、発見の瞬間をありありと憶えている。発掘中に瓦礫をどかしたら、封印用に使用される古い印鑑が見つかった。それが1615年にアイラ島の領主となった第3代コーダー公ジョン・キャンベル卿(1576〜1642年)のものだと判明したのである。

「見た瞬間に大発見ではないかと思いましたが、詳しい正体まではわかりません。すぐに発掘監督を呼んで引き上げてみると、付着していた土が落ちて銘の部分が見えたのです。全員が大喜びで興奮しました。このプロジェクトとアイラにとって重要な発見に関われたことを誇りに思っています」

発掘者のゾーイ・ヴィアチェックさんは、レディング大学の大学生。大発見となった印鑑は瓦礫の下に埋もれていた。

勅許状や法的文書の署名と封印に使用されていたとされる印鑑は、鉛製の円盤に「IOANNIS CAMPBELL DE CALDER」の文字が刻印されている(もともとのコーダーの綴りは現在の「Cawdor」ではなく「Calder」だった)。 印鑑にはコーダーの紋章の他にガレー船と牡鹿の図案も描かれており、持ち手の側には1593年の年号と「DM」の文字が刻まれている。

この発掘活動をおこなっていたのは、スコットランドの慈善団体であるアイラ・ヘリテージである。発掘費用は、ラガヴーリン200周年記念基金の一部から捻出された。

 

発掘物が歴史を語りだす

 

ダニヴェイグ城の発掘プロジェクトを指揮していたのは、アイラ・ヘリテージの代表を務めるスティーブン・ミセン教授である。今回の発見についても早速コメントを寄せた。

「発掘活動の終盤で、本当に画期的な発見が待っていました。チームが一丸となって頑張り、大量の芝土や瓦礫を掘り起こした後なので喜びもひとしおです。アイラの過去とスコットランドの歴史のかけらが見つかりました。2019年に再びおこなう予定の発掘活動が今から待ちきれません」

ミセン教授によると、この印鑑の発見によって建物がキャンベル氏族の所有するものであるとわかったという。

「建造されたのが、17世紀初頭であることもわかりました。どうやら印鑑は紛失してしまったか、壁の隙間などに隠され、そのまま忘れ去られて廃墟化したものと見られます。石の瓦礫の上にあった芝土の壁面も発見しました。瓦礫は印鑑が見つかった床の上に敷き詰められていたもので、城の海門を塞ぐ構造になっていたようです」

海の要塞だったダニヴェイグ城は、波と風雨と年月によって荒廃している。発掘の目的には、城の周辺環境を再生していくことも含まれている。


またミセン教授は、この城の内部で中世のウイスキーが見つかるのではないかと期待も寄せている。ビールの醸造とウイスキーの蒸溜は地域の重要な活動の一部であり、画期的な発見物があればラガヴーリンが世界最古の蒸溜所だと証明される可能性もあるのだ。

考古学のチームは、他にも新しい仮説を立てている。マクドナルド家の子孫であるアラスデア・マッコーラが、キャンベル家から1646年に奪還した時にこの原始的な防御壁を造り、父親のコーラ・キオタッハを住まわせたのではないかというのだ。ミセン教授の話は続く。

「マッコーラ家が城に攻め込んできたとき、キャンベル家の守備隊は慌てて城外に逃亡しました。その際に印鑑を落としたという可能性もあるでしょう。キャンベル家が支援する部隊は、すぐ1647年に城を再包囲しました。追い詰められたコーラ・キオタッハは降伏し、処刑されて城壁に吊るされています。こうしてキャンベル家が再びダニヴェイグ城を手に入れ、最後の城主となったのです」
(つづく)