アイラの歴史を掘り起こす【後半/全2回】
文:ロブ・アランソン
発掘活動の舞台となったダニヴェイグ城は、ロード・オブ・ジ・アイルズ(島々の君主)を守る最重要な海軍の要塞だったこともある。この城を巡って、キャンベル家とマクドナルド家が激しく争ったのは14~17世紀のことだ。アイラ・ヘリテージの代表を務めるスティーブン・ミセン教授は、この期間における城やアイラ島のさまざまな背景が今回の発見によって明らかになってくるのではないかと語る。
「ダニヴェイグ城は、単なる要塞以上の存在だったのではないかという有力な説もあります。交易、手工業、饗宴、歓楽の中心地であった可能性もあるでしょう。当時の城の生活や、支配者たちの様子については、まだほとんど詳しい情報が得られていません」
それでも発掘を指揮したミセン教授は、2018年の活動が幸先の良いスタートになったと断言する。
「城壁の外にあるさまざまな建造物が発見されたことで、これらの建物には職人が住んでいた可能性も見込まれます。敷地内で発見された遺物も、これから徐々に明らかになっていくでしょう。ここで見つかった陶器、ガラス製品、動物の骨、金属加工品などの修復も始まっており、マスケット銃や大砲の弾も整理されています」
現代と同様に、当時の人々にも貧富の差があった。支配者一族、職人、兵士、農夫などがいたアイラ島には、人間の生活も多様だったとミセン教授は説明する。
「ロード・オブ・ジ・アイルズは芸術を振興したので、ダニヴェイグ城には吟遊詩人、歌手、音楽家などの芸術家もいた可能性があります。加えて海上の移動は極めて重要であり、ときには多くの危険も伴ったことでしょう。当時は黒死病と呼ばれたペストがヨーロッパで猛威を奮った時期でもあります。ペストがスコットランドにまで到達したかどうかは、今もまだわかっていません」
このプロジェクトの主目的は、ダニヴェイグ城を中心とした周囲の環境を再建すること。過去の植生を調べるため、考古学者たちは堆積物に残された花粉の調査と分析を進めている。14〜17世紀は大きな気候変動があった時期でもあり、ミセン教授は人口密度が時代によって大きく変動しがちであった点も指摘している。
「寒さが厳しく嵐が続いた時期もあり、そんな時代には人口も減少しがちでした。牧草地で家畜がうまく育たなかったり、穀物の栽培が困難になったためです。このような時期は兵士による襲撃や戦争が相次いだ可能性もあります。このような考察を深めて解明していくことも私たちの仕事です」
この発掘活動は、今後4年間にわたって継続したいとミセン教授は望んでいる。
「来年もまた、この地で発掘できることを祈っています。そのためには城の所有者であるディアジオとラガヴーリンの他に、国指定の重要文化財であることからスコットランド歴史環境協会の許可も必要となります。十分な調査資金も確保しなければなりませんね」
ラガヴーリン200周年が契機となった考古学的偉業
今回の発掘プロジェクトは、40組の強力なチームが3週間にわたってアイラ島に滞在しておこなわれた。調査を率いたのは、フィールドワークを専門とする英国随一の考古学者、地球物理学者、考古科学者、中世の風景を再現する旧人類環境学者といった各界の専門家たちだ。この発掘活動を通して、30人の大学生が調査や発掘方法の実績を積んでいる。アイラ・ヘリテージは、2023年まで、少なくともあと4回の発掘活動を可能にする追加資金が調達できることを望んでいる。
ラガヴーリン200周年記念事業を率いた人物の一人が、ディアジオでウイスキー関連のアウトリーチ活動を率いるニック・モーガン博士だ。彼も今後の発掘活動を支援する重要人物である。
「アイラ島は、世界最高のウイスキーアイランドとして知られています。同時に、スコットランドでも最重要の歴史遺産を抱える地域でもあります。ラガヴーリンの200周年記念事業によって、アイラ・ヘリテージを支援することができました。この島が考古学的にも注目を集め、地元のコミュニティと観光客に話題を提供するための資金を調達できたことを嬉しく思っています」
ラガヴーリンの200周年記念事業の資金は、特別ボトルの販売によって調達された。蒸溜所チームとディアジオCEOのアイヴァン・メネゼスが厳選した「ラガヴーリン1991年 シングルモルトウイスキー」の樽からボトリングしたものである。販売数量はわずか522本で、そのうち521本はウイスキー・エクスチェンジの投票によって1本1,494英ポンドの値がついた。この1494という数字は、記録に残されている最古のスコッチウイスキーが蒸溜された歴史的な年も意味している。記念すべきボトル番号1番は、Whisky.Auctionの競売にかけられ、8,395英ポンドで落札された。
ラガヴーリンの記念事業全体で調達できた588,395英ポンドの資金は、アイラの地域コミュニティに還元されることになった。アイラ・ヘリテージの他に英国王立鳥類保護協会、アイラ・フェスティバル協会、アイラ・アーツ、フィンラガン・トラスト、マクタガート・サイバー・カフェ、マクタガート・レジャーセンターを運営するアイラ&ジュラ・コミュニティ・エンタープライズ株式会社の活動支援に活用されている。