エディンバラのカムバック【前半/全2回】
文:ガヴィン・スミス
エディンバラはウイスキーのブレンディングの本拠地として輝かしい伝統がある。特にポート・オブ・リース地区は、スコットランドを代表するウイスキーメーカーが所有するブレンディング用施設と貯蔵庫の密集地だった。そんなエディンバラが、そもそもモルトウイスキー蒸溜所の宝庫でもあった時代は約1世紀前にまでさかのぼる。
エディンバラ最後のモルトウイスキー蒸溜所は、1925年に蒸溜されたグレンサイエンズ蒸溜所である。他にもボニントン蒸溜所、キャノンミルズ蒸溜所、ディーン蒸溜所、ロッホリン蒸溜所、サンバリー蒸溜所、ヤードヘッズ蒸溜所、アビーヒル蒸溜所があった。どれも過去の施設である。
なかでも「クロフタンリー」(ゲール語で「王の畑」の意)の異名をとるアビーヒルは、ホーリールード宮殿のそばで1825年以前から1852年頃まで運営された蒸溜所だ。このアビーヒル蒸溜所跡地の南に、誕生したばかりの「ホーリールード蒸溜所」がある。ホーリールード公園の隣で、セントレナーズ通りに面した敷地だ。
新しいホーリールード蒸溜所の建物は、築180年の機関車庫である。1835年にエディンバラとダルケイスを結ぶ鉄道施設のひとつとして建てられ、歴史建造物のBカテゴリー(地域遺産)に登録されているムード満点の環境だ。
ホーリールード蒸溜所は、ウイスキー関係者数名による共同事業である。その1人はマッカランの前マスターディスティラーであり「レアウイスキー101」のパートナーも務めるデービッド・ロバートソン。そしてスコッチモルトウイスキー・ソサエティのカナダ支部を創設したロブ・カーペンターとケリー・カーペンターである。
世界中の個人出資者60人から5800万ポンドの設立資金が調達され、スコットランド企業の強い味方であるスコットランド投資銀行から1500万ポンドが拠出された。蒸溜所は今年の夏から本格的に稼働を始め、いずれ一般公開される予定だ。デービッド・ロバートソンが蒸溜所の詳細について教えてくれた。
「すべての関連設備をLHステンレス社で製造してもらいました。スペイサイドの旧トウィーモア蒸溜所で運営している設備メーカーです。スチルは関連会社のスペイサイドコッパーワークスが製造したもので、ネックが長い形状です。スピリッツのスタイルはもちろん、この建物に美しく映えるデザインも意識しました。高さが7メートルもあるので、業界でもっとも背が高くて小さいスチルだと思いますよ」
観光都市らしい革新的なカスクプログラム
ホーリールード蒸溜所の年刊生産量は、純アルコール換算で25万リッターである。原酒は主に5種類をつくり分ける。アメリカンオークのリフィル樽と新樽で熟成した「フローラル」。アメリカンオーク樽、ワイン樽、シェリー樽で熟成した「フルーティー」。アメリカンオーク樽のみで熟成した「スウィート」。ヨーロピアンオークのシェリー樽(オロロソ、アモンティジャード、ペドロヒメネス)で熟成した「スパイシー」。そしてヨーロピアンオーク樽とアメリカンオーク樽で熟成した「スモーキー」だ。デービッド・ロバートソンが説明する。
「たくさんテストしながら、他のスタイルについても学んでいます。モルトの種類を変えたり、酵母を変えたり、蒸溜の方法を変えたり、もちろん熟成樽の構成も工夫を凝らしてみる予定。独自のリッチなフレーバーを生み出すために、思いついたことは何でもやってみようと考えています」
ホーリールードの広報担当者が、ビジターセンターの計画について教えてくれた。
「ビジターセンターの目玉は、ユニークな内容の教育的なツアー。五感を使った本物のウイスキーづくり体験をご用意します。来場されたみなさんは、稼働中の蒸溜所をツアーで回りながら、フレーバーの世界を存分に探求することができるようになるでしょう」
このフレーバーの探求には、ウイスキーだけでなくジンの蒸溜も加わることになるかもしれない。ホーリールードが既存の各種ジン商品の製造を同じ場所でおこなっているからだ。
またホーリールードでは、革新的な「カスクプログラム」も実施する。これは酵母の種類、蒸溜時のカットのタイミング、熟成樽の種類やサイズといった無数の条件を参加者自身が選んでウイスキーをつくる画期的なプログラムだ。参加者は100人限定となるが、嬉しいのは全員がスピリッツづくりを実地で体験できるところ。ヘッドディスティラーのジャック・メイヨーまたはデービッド・ロバートソンが、樽詰めまで付き添ってくれる本格的な内容だ。
(つづく)