ヨーロッパのウイスキー地図【前半/全2回】
文:ハンス・オフリンガ
写真:ザ・ウイスキー・カップル
穀物が栽培できて、純度の高い水が流れ、注文通りの酵母が手に入る場所なら、世界中どこでもウイスキーをつくることができる。1980年代後半以来、ウイスキーの売上は世界で着実な成長を続け、家族経営の小さなウイスキー蒸溜所やビール醸造所が波に乗ろうと起業した。シュナップス、ジン、フルーツリキュール、ウォッカ、ブランデーなどと並行して、すでに所有していたスチルで穀物の蒸溜も始めたのだ。2回特集の前半は、北欧からオランダまでを俯瞰してみよう。
アイスランド
太古よりアイスランドの気候は涼しすぎて穀物の栽培には向かないと考えられてきた。しかしここ20年の気候変動によって気温が上昇して事情が変わりつつある。この国にはジャガイモ原料の蒸溜酒があるもののウイスキーとは呼べない。だが2009年から本物のアイスランド産ウイスキーが生産された。その名は「フローキ」である。
ノルウェー
長年にわたって、ノルウェーの蒸溜酒生産は国営事業だった。これが大きく変わったのは、アクアビットとウォッカを生産していた「アルキュス」が民営化された2009年である。ハーガンにあるアルキュス社の蒸溜所はすぐに生産品の幅を広げ、「ギョーライト」という名のウイスキーをさまざまなバリエーションで生産している。アルキュス社は、蒸溜所内に樽工房もあるのが自慢だ。近年は他の蒸溜所もウイスキー生産に乗り出している。「アウロラ」、「ブラーン」、「デ・ノーシュケ・ブレネリ」、「ミケン」、「オスクラフト」などの蒸溜所が有名である。スウェーデン
国際的なウイスキー市場において、スウェーデン人は「成熟した消費者」であると認識されている。そのためウイスキーブランドの新商品はまずスウェーデンで発売され、その反響を参考にしながら他の市場への投入を決めることが多い。例えば数年前、フェイマスグラウスにピートを効かせた「ブラックグラウス」もスウェーデンで先行発売された。
フィンランド
フィンランドでウイスキーづくりが始まったのは1950年代だが、商品としてボトリングされ始めたのは1980年代である。だが事業が成功したとはいえず、1995年には生産中止となった。その7年後、ラフティのレストランに併設されたビール醸造所の一角で「テーレンペリ」が誕生。2014年にはイソキュロにある「キュロ」がウイスキーづくりを始めた。
他にも「ヘルシンキ・ディスティリング」、「パニモラヴィントラコウル」、「ヴァラモ修道院蒸溜所」などがウイスキー生産に乗り出している。デンマーク
デンマークを代表するウイスキーメーカーといえば、「ブラウンスタイン」(コペンハーゲン)、「ファリーロカン」(ギーべ)、「スタウニング」(スケアン)が3大ブランドだ。2015年に飲料業界の巨人ディアジオが1000万英ポンドをスタウニングに投資したことから、近いうちにデンマーク産のウイスキーが市場を賑わすときが来ると予想されている。ブラウンスタインはビール醸造所から派生したブランドだが、じわじわと輸出市場に浸透しつつある。英国のニューカッスルとオランダを結ぶDFDSシーウェイズの客船内でも販売していた(ただしDFDSがデンマークの会社なので驚くべきことでもない)。他にも「オーフス」、「エーア」、「サール」などの新興メーカーもウイスキーづくりに参入を果たしている。
オランダ
オランダには民営の蒸溜所が2軒ある。ひとつはフリジア語で「我らの父」を意味する「ウス・ハイト」。オランダ北部の歴史あるボルスヴァルトの町にある。2004年以来、シングルモルト商品の「フリスク・ヒンダー」(フリジア語で「サラブレッド」の意)を生産してきた。もうひとつはベルギーの飛び地が入り乱れたオランダ南部の町バールレ=ナッサウにある「ズイダム」だ。ズイダムは1970年代にジェネヴァ(ジン)の蒸溜所として創設され、すぐにフルーツリキュールやウォッカにも手を広げた。1999年よりウイスキーづくりを開始し、現在は「ミルストーン」のブランド名でシングルモルトとライウイスキーを生産している。オランダでは、他にも約10軒の小規模蒸溜所が点在している。西ヨーロッパ(おそらく世界でも)唯一の女性オーナー兼マスターディスティラーであるリザーヌ・べーヌスが創設した「カルクウェイク・ディスティラーズ」もそのひとつ。自社所有の畑で栽培した大麦、コーン、ライ麦、小麦を蒸溜してさまざまなスタイルのウイスキーや各種蒸溜酒を生産している。他の蒸溜所には「ストーケレイ・スキュルテ」、「カンペン・ディスティラーズ」、「アイスヴォーゲル」などがある。オランダ人ジャーナリストのウィーガー・ファヴィエルはベルギーを含む同地域の蒸溜所を取材し、30軒以上のウイスキー蒸溜所も発見して本を著した。タイトルは『低地のウイスキー』である。