ヨーロッパのウイスキー地図【後半/全2回】
文:ハンス・オフリンガ
写真:ザ・ウイスキー・カップル
多くのヨーロッパ諸国では、長年スコッチウイスキーの輸入国としても重要な市場だった。だが各国では志のある小規模なメーカーも個性的なウイスキーの生産に乗り出している。新しいウイスキーや蒸溜所が次々と生まれているため、完全なリストを作成するのは難しい。それでもこの特集によって、面白い俯瞰ができたら幸いだ。
ベルギー
リエージュにある「ベルジャンオウル」が、ベルギーにおけるウイスキーづくりのトップランナーだ。ジェネヴァのメーカーである「フィラーズ」は「ゴールドリーズ」という名のウイスキーをつくっている。その他にも「ラデールマッハー」や「グーデンカロルス」などの小規模メーカーも頑張っている。
フランス
フランス随一の歴史と知名度を誇る蒸溜所は、ブルターニュで1999年にジャン・ドネが設立した「グランアーモー蒸溜所」だ。フランスでは他にランニオンの「ワレンゲム」、プロムランの「デ・メニール」、オーワルトの「メイエ」、オベルネの「エルザス」、ローヌ=アルプ地域圏の「ドメーヌ・デゾート・グラス」、ラ・シャンパーニュの「ギヨン」、コニャック地方の「ブレンヌ」などのウイスキーメーカーが独自の商品を生産している。
ドイツ
ドイツでは小規模のクラフト蒸溜所が無数に点在しており、それぞれが果実や穀物を原料とした蒸溜酒を生産している。なかでもドイツ最古のメーカーといえば1818年にエルベンドルフで設立された「スクラムル」だ。ウイスキー人気が高まるなかで、ドイツでもたくさんの蒸溜所がブームにあやかろうとウイスキーを生産するようになった。
イタリア
イタリアは何十年にもわたってスコットランドから大量のモルトウイスキーを輸入してきた。カンパリ社がスペイサイドのロセス村にあるグレングラント蒸溜所を所有しているのは有名である。そのせいかイタリアでウイスキーといえばグレングラントが大人気だ。2010年以降はイタリア産のウイスキー「プーニ」が誕生。
プーニ蒸溜所は南チロル地方のグロレンツァにあり、テラコッタの色と正方形の建築で有名だ。スペイン
スペインは長らくスコッチウイスキーにとってのエルドラド(黄金郷)だった。特に多くのファンに愛されてきたのはシングルモルトのカーデュー。スペインではコーラで割るのが人気だが、近年になってカーデューの人気はやや下火になっている。スペインにはウイスキーを生産する蒸溜所が2軒ある。規模の大きいほうが1963年に創設された「デスティレリアス・イ・クリアンサ(DYC)」だ。2番めに大きいのは「エンブルホ」で、こちらのほうが歴史は古いが規模は格段に小さい。この2つのウイスキーをイベリア半島の外で見かけることはほとんどない。
スイス
スイス政府がウイスキー蒸溜の道をひらく法令を通過させたのは1999年のこと。つまりこの年以前は、ウイスキーの生産自体が禁じられていた。ここ数年は、アッぺンツェルのロッハーが、モルトウイスキーファミリーの「ゼンティス」を大々的に宣伝している。共に2002年創業のランゲンタールのランガトゥン、エルフィンゲンにあるウイスキー・キャッスルも知っておいて損はない。その他はドイツやオーストリアと大差なく、たくさんの小規模なリキュール蒸溜業者が工場の一角でウイスキーもつくっているという状態である。
オーストリア
オーストリアンウイスキーのパイオニアのと目される1人が、ロッゲンライトで1995年にウイスキーづくりを始めたヨハン・ハイダーだ。同じ年に、キルヒベルクでライゼットバウアーが創業している。ザンクト・ニコライ・イム・ザウザルで2002年に「デスティラリー・ヴィウツ」が、2004年に「オールド・レイヴン」が相次いで誕生。現在はリキュールやシュナップスをつくる十数軒の小さなメーカーが後に続き、本業の傍らで少量のウイスキーも生産している。
チェコ
チェコがウイスキーの世界に参戦してからしばらく経つが、主に国内市場向けのウイスキーであるため海外にはあまり知られていなかった。「ゴールドコック蒸溜所」は1877年以来ウイスキーを生産しており、2種類のボトルを発売している。チェコ国外で見かけることはほとんどないが、ときどき見本市などで紹介されることがある。
トルコ
トルコ語で「独占」を意味する「テケル」はトルコで唯一の蒸溜所であり、政府の完全な管理下のもとにある。名前の通り、トルコ国外では販売されていないウイスキーだ。