眠りから目覚めたグレンアラヒー【後半/全2回】
文:ガヴィン・スミス
「グレンアラヒーは、私たちにとって見逃す訳にはいかないチャンスでした」
ベンリアックの売却益でグレンアラヒーを買収したビリー・ウォーカーが振り返る。
「素晴らしい実力を持っているのに、ほぼ無名の道を歩んできた蒸溜所です。ベンリアックで実践してきた私たちの流儀にもぴったりの存在でした。何も描かれていない、まっさらなキャンバスからビジネスを始められる機会はそんなにありません。スピリッツのバランスと、しっかりしたボディにも魅了されました」
グレンアラヒー蒸溜所はロケーションも素晴らしく、水源から重力で自然に採水できるという好条件に恵まれている。ベンリンズ山の北斜面に面したヘンシェッドとブラックスタンクバーンズが水源地だ。軽く適度なピートを含んだ水質で、ウイスキーづくりには理想的なのだという。
無名のシングルモルトブランドを手に入れて、グローバルな規模で商業的な成功を勝ち取る。そんな目標の難しさを思って怯んでしまう人もいるだろう。だがビリー・ウォーカーの心にそんな不安がよぎることはなかったという。
「ブランドをゼロから立ち上げて育てる手順についてはよく知っているんです。まずは、このブランドの真価を認めてくれるであろう特定の消費者層に届けること。彼らの居場所はわかっています。そしてそこから評判と信頼を築き上げていくのです」
展開する欧州内の市場は、英国、ドイツ、フランス、ベルギー、オランダ、ポーランド、ウクライナ。欧州外では米国、カナダ、台湾、中国、韓国、日本でも販売する予定だ。
「私たちが乗った列車はもう出発しました。この列車が急行ではないことを十分に承知しています。最初はかなり少量から市場導入を始めることになるでしょう」
ブレンデッドウイスキーの「マクネアズ」および「ホワイトヘザー」についても、ビリー・ウォーカーの構想はもう固まっている。
「ホワイトヘザーについては、まず21年もののプレミアムブレンドを発売する予定です。またマクネアズはリッチなピート香が魅力のウイスキーとして再評価し、21年熟成、ノンエイジステイトメント、12年熟成のブレンデッドモルトウイスキーを発売します。マクネアズのブレンデッドやラムの商品も検討中です」
ノンピートとヘビリーピーテッドを同時生産
ウォーカーらがオーナーとなったグレンアラヒーには、さまざまな変化がもたらされている。
「たっぷりのストックを活かして、長期熟成のグレンアラヒーをブレンド構成します。2018年6月には12年、10年(カスクストレングス)、25年のグレンアラヒーなどを発売する予定。使用原酒には、1978年に貯蔵されたウイスキーも含まれています。バレル、ホグスヘッド、バットなど形状や容量もさまざまで、樽材の品質も優秀。樽熟成に関しては、これから私たちが少しアレンジを加えます。ペドロヒメネスとオロロソのシェリー樽が活躍することになるでしょう。樽材の管理に関しては、相当な経験がありますから」
蒸溜所の設備には、樽詰めのシステムが新たに導入された。すべてのスピリッツが、蒸溜所の敷地内で熟成されるからだ。使用されていなかった貯蔵庫が、伝統的なダンネージ式の貯蔵庫に改修された。16棟ある貯蔵庫には、10万本以上の樽が保管されることになるとウォーカー氏は明かす。
「ノンピートとピーテッドの両方のスピリッツを生産する予定です。ピーテッドタイプは、ヘビリーピーテッドになります。現在のところフェノール値65ppm以上のモルトを使用する予定で、実際のスピリッツでは30〜40ppm程度のピート香が表現されるでしょう。ノンピートのスピリッツは、バーボン樽、オーク新樽、ペドロヒメネスとオロロソのシェリー樽で熟成します。ピーテッドのスピリッツはバーボン樽、オーク新樽、それにひょっとしたらライウイスキー樽にも貯蔵する予定です」
140時間に及ぶ長時間の発酵は、グレンアラヒーの習わしとなっている。ウォーカー氏によると、これは酒質にボディとフローラルな特徴を授けるためだ。グレンアラヒーにある4基のスチルには、よくある垂直型ではなく水平方向にコンデンサーが取り付けられている。
「調整が簡単なタイプなんです。温度を下げてミーティーなスピリッツを蒸溜したり、温度を上げてフルーティーなスタイルに変更できます。このような調整は、垂直ではなく水平方向に設置されたコンデンサーのほうがずっとやりやすいのです」
コンデンサーだけでなく、スチル自体にも他とは異なる特徴がある。幅の広い4つのポットは、2つのペアに分けて稼働させることができる。それぞれのペアに、別途のスピリッツセーフとスピリッツレシーバーが取り付けられているのだ。この仕様によって、異なる2種類のスタイルで同時にスピリッツが蒸留できる。
ウォッシュスチルの容量は各36,000Lで、スピリッツスチルは各25,000L。生産量は年間400万Lだ。スチルの話をしたついでに、グレンアラヒーに関する事実を訂正しておきたい。グレンアラヒー蒸溜所に関するどんな記述を読んでも、グレンアラヒー蒸溜所にはもともと1対のスチルがあって、 ペルノ・リカールが買収した1989年にもう1対が追加されたと記されている。だがこれは事実誤認だ。ザ・グレンアラヒー・コンソシアムに保管されているオリジナルの文書を見れば、グレンアラヒー蒸溜所には設立時から4基(2対)のスチルが設置されていたことがわかる。記録によると、最初の蒸溜は1968年2月9日におこなわれ、その次が16日だった。再溜は17日が最初である。この蒸溜業務は1対のスチルだけでおこなわれており、もう1対のスチルに火が入るのは8ヶ月後の10月14日のことである。
ベンリアック、グレンドロナック、グレングラッサでビリー・ウォーカーと仲間たちが成し遂げてきた業績を見れば、グレンアラヒーに素晴らしい未来が待ち受けていることは疑いようもない。グレンアラヒーの名はすぐにウイスキーファンの間でおなじみになるだろう。ウイスキー自体も、見逃せない高品質に到達するはずだ。