蒸溜所設計の第一人者、ウィリアム・デルメ=エヴァンズが手がけた最後の蒸留所。スペイサイドの中心で良質なモルトウイスキーを生産するグレンアラヒー蒸留所が、颯爽と表舞台にデビューする。仕掛け人は、元ベンリアックのビリー・ウォーカーだ。

文:ガヴィン・スミス

 

グレンアラヒー蒸溜所は、アベラワー村から2キロほど南の場所にある。ウイスキー王国として知られるスペイサイドの中心部だが、近所のアベラワーやグレンファークラスに比べると目立たない存在だった。だがそんな印象も、すでに過去の話になりつつある。

2017年7月、ペルノ・リカールはグレンアラヒーを売却した。買収の合意書に署名したのは、ザ・グレンアラヒー・コンソシアムという名の新会社である。買収内容には、シングルモルトブランド「グレンアラヒー」と、ブレンデッドスコッチウイスキーブランドの「マクネアズ」および「ホワイトヘザー」も含まれている。

中央の「A」を大文字にしたグレンアラヒーのロゴを見て、ピンときた人もいただろう。ザ・グレンアラヒー・コンソシアムの筆頭株主は、元ベンリアック・ディスティラリー・カンパニーのビリー・ウォーカーだ。スコッチウイスキー業界で40年以上の経験がある彼が、2016年にベンリアックのビジネスを売却したのはまだ記憶に新しい。米国のブラウン・フォーマン社が支払った2億8,500万ポンドが、ウォーカー率いるコンソーシアムに十分な資金をもたらしたのである。

ウイスキー業界を引退して、晴れの日が多い南国で余生を送ることもできただろう。だがウォーカーはそうしなかった。代わりにザ・グレンアラヒー・コンソシアムを設立し、バーン・スチュアート・ディスティラーズで苦楽をともにしたトリシャ・サベージも新会社に招き入れた。サベージはベンリアック・ディスティラリー・カンパニーの創設と事業拡大を担った立役者である。もう一人のメンバーは、インバーハウス・ディスティラーズで社長を務めていたグレアム・スティーブンソンだ。

ザ・グレンアラヒー・コンソシアムの会社綱領には、次のような宣言が謳われている。

「スコットランド人の所有による、スコットランドに根ざした真の独立系スコッチウイスキー会社として、卓越したウイスキーをお手頃なプレミアム価格で市場に提供します」

激動の半世紀を越えて

2018年2月9日に50週年を祝って記念ボトルを発売したグレンアラヒー。ブレンデッドウイスキーへの原酒供給が主体だったため、その歴史や実力とは裏腹にほとんど無名の存在だった。

2018年2月9日は、グレンアラヒー蒸溜所にとって重要な記念日だった。ここで最初にスピリッツを蒸溜した日から、ちょうど50年を数える節目の日だったのである。
グレンアラヒーの創業当時は、主に米国でスコッチブレンデッドウイスキーの売り上げが増大していた。そんな需要に応えようと設立された蒸溜所のひとつがグレンアラヒーだった。1960年代といえばクライヌリッシュ、ロッホローモンド、タムナヴーリン、トミントールなどいくつもの新しい蒸溜所が誕生し、既存の蒸溜所でも大規模な設備の拡張がおこなわれた時期である。

グレンアラヒーは、ゲール語で「岩の谷」を意味する。蒸溜所はウイスキー生産をおこなうマッキンレイ・マクファーソン社(スコティッシュ&ニューカッスル・ブリュワリー社の子会社)の依頼によって1967~1968年に建設された。蒸溜所の設計はアイル・オブ・ジュラ蒸溜所、タリバーディン蒸溜所、マクダフ蒸溜所などを手掛けたウィリアム・デルメ=エヴァンズによるもので、グレンアラヒーが彼の最後の仕事になった。

ウィリアム・デルメ=エヴァンズは、2004年のインタビューで次のように答えている。
「マッキンレイ・マクファーソン社から、スペイサイドで蒸溜所を建設したいという依頼があった。この計画は、建設地探しに始まって、蒸溜所の設計と建設が後に続いた。ウイスキー生産に適した水源探しには苦労したが、アベラワー蒸溜所の近所で購入した建設予定地まで、ベンリネス山から水道管でなんとか引いてくることができた。この計画は、自分がこれまでに経験から学んできた知識を総動員する大きなチャンスだった。建築設計はロシアン・バークレーが担当した」

グレンアラヒーとジュラは、1985年にスコティッシュ&ニューカッスル・ブリュワリー社からインバーゴードン・ディスティラーズ・グループの手に渡っている。その2年後には、グレンアラヒーの生産が中止された。1989年にペルノ・リカール系列のキャンベル・ディスティラーズがグレンアラヒー蒸溜所を3,500ポンドで買収したのは、主に「クランキャンベル」のブレンディング用となるモルトスピリッツを生産するためだった。

2017年、ペルノ・リカールが傘下の蒸溜所について見直しをおこなうことになった。ここでグレンアラヒーを余剰資産と結論づけ、ザ・グレンアラヒー・コンソシアムに売却を決定したのである。やや奇妙なことに、2017 年にはペルノ・リカールからグレンアラヒーのディスティラリー・エディションがノンエイジステートメントで発売されている。一部の小売店にはまだ在庫があるようだ。

ザ・グレンアラヒー・コンソシアムを新オーナーに迎えた蒸溜所は、50周年の節目を6つのシングルカスク商品(1978~1991年ヴィンテージ)の発売によって祝った。ビリー・ウォーカーが再出発への思いを語っている。

「グレンアラヒーを買収したのは、スコッチウイスキー業界でまだやり残した仕事があると感じたから。グレンアラヒーには、まだまだ成長できる余地もあります。トリシャとグレアムも新しいことを始めたがっていたし、私の情熱は何といってもウイスキーですから」

(つづく)