冒険好きなディスティラー その4【全4回】
最終回となる今回は、ニール・ウィルソンが大麦栽培を考察する。
寒い4月のある日、私は大麦農家がスコッチウイスキー会社に対して大麦を提供する前に、実際何を行っているかを知るために、ダフトミルへと向かった。私はフランシス・カスバートのランドローバーに飛び乗って、種を蒔いたばかりの350エーカーの春大麦の畑へと向かった。フランシスはこの畑を大体3等分して、病気に強く高品質なモルト用大麦を育てようとしている。それらはコンチェルト、ベルグレイヴィアそしてミンストレルの3種である。「売れるものしか蒔かないからね、だから何を収穫するかはお客さんが決めるのさ」
ダフトミルの場合、高い糖化力(DP)を持つベルグレイヴィアがグレーンウイスキーの蒸溜に用いられる。高糖化力は小麦やトウモロコシのマッシュの中でデンプンを糖化させるために重要である。コンチェルトとミンストレルはモルトウイスキーの蒸溜に用いられる。前者の一部はそのままダフトミル・シングルモルトの生産に用いられ、後者はすべてマッカランのために用いられる。
最後のふたつの品種はモルトウイスキーディスティラーが必要とする発芽大麦1トンあたり420リットルのアルコール生産を実現してくれる高タンパク、低窒素型のものである。これらのタイプの窒素量はおよそ1.4パーセント。一方、高DPの系統のものだと1.8から2.2パーセントになる。現在フランシスはベリックのシンプソンズ社と3年契約を結んでおり、今年が最終年である。価格は1トンあたり150ポンド。
私が訪れた日の相場は180ポンドだったが、豊作の2010年秋の時点の相場は90ポンドであった。よってこの契約は一種の安定をもたらしてくれたのだ。
さてコストの内訳を考えてみよう。最初彼が12月と1月に注文した種は1トンあたり495ポンドだった。それぞれの品種におよそ115エーカーずつ割り当て、1エーカーあたり75から100キロの種が必要なため、結局1エーカー当たりの種だけのコストは40ポンド程になった。1エーカー当たりの種まきコストは21ポンドかかり、その後も水撒きによって作物を維持しなければならない。肥料費はここ数年で急激に上昇し、今や1トン当たり300ポンド程である。フランシスの肥料レシピは20%の窒素、10%のリン酸、そして14%のカリウムを中心とした混合肥料である。これでエーカー当たり60ポンドが必要となる。それに加えて、実際の水撒きにエーカー当たり50ポンドがかかる。こうして1エーカー当たり 171ポンド。すなわち6万ポンド程度が収穫以前に必要なのである。
もしフランシスのように、自前の収穫機を所持していたなら、人を頼んで収穫を行った場合に比べてエーカーあたり30ポンドを節約することができる。ただし、もし新しい収穫機を買うことになったら28万ポンドかかるという事をお忘れなく。フランシスは、抜け目なく4万ポンド程で中古の収穫機を手に入れた。しかし、保守は必要だし、1年のうち11ヵ月は何もせずに減価償却だけが進む金のかかる代物である。ということでエーカーあたり30ポンドが積み上がる。これでエーカーあたり201ポンド。すなわちトータル合計70,350ポンドである。
8月下旬から9月上旬に収穫した後、大麦の水分含有量がチェックされる
8月下旬から9月上旬に収穫した後、大麦の水分含有量がチェックされる。収穫した穀物は水分含有量15パーセントで業者へ引き渡す。もしこれ以上であったならば、穀物乾燥機を用いて水分含有量を15パーセントまで減らさなければならない。穀物1トン当たり1パーセント水分含有量を下げるためには2ポンドが必要である。よってもし穀物が水分含有量20パーセントで収穫されたなら、15パーセントへ下げるために1トンあたり10ポンドが必要になる。仮に業者に渡された大麦の水分含有量が15パーセント以上であることが分かった場合には、可変超過金が引かれることになる。例えばもし大麦が16パーセントで出荷されたなら価格に1.2パーセントの「水分控除」が適用される。これがもし19.1パーセントを上回ると、水分控除は6.3パーセントとなり、さらに別口で「乾燥料金」が1トン当たり3.50ポンド上乗せされる。これら全てを足し上げた金額を、ベリックに送り出す前に支払わなければならないのである。
業者は2.5ミリのメッシュを使って大麦をふるいにかけ小石を取り除き、さらに磁石を用いて金属片を取り除く。ここでときどき農家の携帯電話が見つかるのだ! 乾燥した大麦は巨大なサイロに格納されるが、一般的には栽培場所に最も近い場所が選ばれる。フランシスの言葉を借りれば「大麦より、麦芽を運ぶ方が軽いので安上がり」だからである。モルト業者(モルトスター)への輸送は陸上よりも海上の方が経済的であるため、港には巨大なサイロがある。モルトスターは、各ディスティラーの詳細な指示に従って発芽を行いながら、大麦の水分含有量を12パーセントまで落としていく。さて、ここで全てフランシスの手を離れただろうか。彼の350エーカーの農場はエーカー当たり2.2トンの大麦を生み出した。合計770トンで売上は115,500ポンドである。ここまでの様々なコストは71,000ポンド、これには650ポンドと見積もった乾燥コストも含まれている。よって利益は約44,500ポンドである。ああしかし、実はこれはエーカーあたりの固定費を考慮する前の事だったのだ…。