冒険好きなディスティラー その3【全4回】

November 26, 2012

第3回となる今回は、ガビン・D・スミスが「マッシュビル」を考察する。

ウイスキーづくりの用語の多くは、すべての英語圏の国の間で共通だが、いくつかの用語は個々の国に固有のものである。だから、北米のディスティラーが「マッシュビル」について話していたとしても、スコットランドではその言葉が使われることはない。
この違いは主に、アメリカの蒸溜家たちが様々な穀物を色々な組合せで使うことに由来している。つくられるものがバーボン、ライウイスキー、コーンウイスキー、あるいはクラフト蒸溜所ムーブメントで好まれる革新的な蒸溜酒であろうとその傾向は同じである。

マッシュビルとは「あるウイスキーの穀物配合のレシピ」を意味する。またディスティラーが穀物の割合を考える際に従うべき決まりも意味している。例えば、バーボンの法的定義は、トウモロコシが最低51パーセント含まれていることであり、ライウイスキーの場合には同様にライ麦が少なくとも51パーセント含まれていなければならない。
主要穀物に加え、通常マッシュビルには大麦麦芽の量が指定されている。大麦麦芽は穀物の中に含まれるデンプンを発酵可能な糖に転換するものだ。そして競争力のあるバーボンまたはライウイスキーとして違いを際だたせるための第2(または「フレーバー」)穀物の指定がある。バーボンの場合、もっとも好まれる第2穀物はライ麦であるが、いくつかの製品では小麦が用いられることもある。一方、ライウイスキーの場合、第2穀物として用いられるのはほとんどトウモロコシである。

ケンタッキー州のローレンスバーグにあるフォアローゼズ蒸溜所は2種類のマッシュビルを利用している。これらと5種類の酵母が組合わされる。マスターディスティラーのジム・ラトリッジ氏がマッシュビルの中の穀物の配合割合を決定している。「私たちの”E”マッシュビルは75パーセントのトウモロコシ、20パーセントのライ麦、そして5パーセントの発芽大麦(モルト)を使っています。一方”B”マッシュビルは60パーセントのトウモロコシ、35パーセントのライ麦、そして5パーセントの発芽大麦で構成されています」とジムが説明する。「ライ麦はトウモロコシよりも蒸溜酒の生産性が低いことに注意する必要があります」
さらにラトリッジ氏が説明を続ける。「ライ麦はスパイシーなフレーバーが豊富です。フォアローゼズ蒸溜所は、他の蒸溜所よりも、ふたつのマッシュビルでより多くのライ麦を使っています。このため、フォアローゼズは他のケンタッキーバーボンよりも、ナツメグやシナモンといった、よりスパイシーなフレーバーを持っています。バーボン業界では酵母の果す役割は重要です。それぞれの菌株が独自のフレーバーを生成するからです」

メーカーズマークなどの有名なバーボンの多くが、ライ麦ではなく小麦を第2穀物として採用している。ラトリッジ氏が続ける。「小麦はスパイシーなライ麦に比べて遥かに少ないフレーバーを提供します。このため小麦をフレーバー穀物として指定したバーボンは、ライ麦を用いたものよりも味わいがより甘くなります。フルボディのスパーシーなライ麦は新しいオーク樽の中で熟成されるバーボンの中に生まれる甘いフレーバーをある程度覆い隠してしまうのです」

マッシュビルの構成要素である発芽大麦(モルト)について見てみよう。例えばケンタッキー州バーセイルズにあるウッドフォードリザーブなどライバルに比べて、フォアローゼズは比較的少ない量を用いている。ウッドフォードリザーブのマスターディスティラーのクリス・モリス氏に聞いてみた。「ウッドフォードリザーブは比較的多量のモルトを含んでいます。このため口に含んだ際に微かな『モルト』の風味が感じられるのです。また、このことにより果物や花の香りも加わります」
「『バーボン』を名乗るために必要なトウモロコシの割合は、ウッドフォードリザーブでは他に比べて比較的少ないため、香りや味の中にはあまり感じることができません。マッシュビルの中のライ麦の割合が多いほど、デンプンを発酵可能な糖に転換するための発芽大麦(モルト)もたくさん必要です。もしモルトを加えない場合は追加の酵素が必要になります。このため、ウッドフォードリザーブでは、フレーバーを加え、追加酵素の必要性を無くすために必要なモルトを加えています。こうして『自然』なレシピを実現しているのです」
ウッドフォードリザーブは、トウモロコシ、ライ麦、小麦、大麦麦芽を包含する「4種穀物」バーボンを試行するブランドのひとつである。そして蒸溜所の最初のマスターコレクションとしてウッドフォードリザーブ・フォーグレインバーボンが出荷された。
クリス・モリス氏が続ける。「フォーグレインでは、小麦がナッツの風味を加えています。小麦の付加を考慮して、トウモロコシ、ライ麦、大麦麦芽の比率を調整する必要がありました。こうして、(ライ麦を減らして)スパイスの風味を抑え、小麦の柔らかな、ナッツの特徴が加わりました。仮にライ麦を完全に小麦で置き換えてしまった場合には、最終製品の複雑さに寄与している様々なスパイスの特徴のほとんどが失われてしまうでしょう」

一方、クラフト蒸溜所の多くが従来のマッシュビルから離れることを選んでいる。例えばニューヨーク州のタットヒル・スピリッツ社は今や100パーセント発芽大麦をマッシュビルとして用いたシングルモルトウイスキー(ハドソン・シングルモルトウイスキー)をつくっているし、一方ハドソンにある有名なベイビー・バーボン社は「100パーセントニューヨーク州産トウモロコシ使用」を謳っている。

ユタ州のハイウエスト蒸溜所は、「主流」のものよりも遥かに高いライ麦の割合で蒸溜を行なっている。その製品である「OMGピュア・ライ」は80パーセントのライ麦と20パーセントの発芽ライ麦を用いているし、さらに95パーセントのライ麦と5パーセントの発芽大麦からつくられたライウイスキーを、より低いライ麦の割合のマッシュビルでつくられたライウイスキーとブレンドしたものも生産している。

実験に邁進しているのはクラフト蒸溜所だけではない。ケンタッキー州の老舗バッファロートレース蒸溜所は2011年にコメバーボンウイスキーオーツ麦バーボンウイスキーをリリースした。そして毎月のように生まれる新しいクラフト蒸溜所では、マッシュビルの「限界」はさらに広げられていくのが確実なようである。

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