飲み比べで広がるウイスキーの世界
7月5日、東京の三田にウイスキーバー「日比谷BAR WHISKY-S III」がオープンした。同店の最大の魅力は、手頃な値段で世界中のウイスキーを飲み比べられる「フライト」システム。ウイスキー初心者や、欲張りなウイスキーファンにぴったりのお店だ。
文:WMJ
大企業の本社が点在する東京の三田界隈。慶応義塾大学や各国大使館もあり、昼夜を問わずさまざまな人々が行き交う活気にあふれた街だ。
そんな三田の飲食店街に、落ち着いた佇まいのバーがある。木の扉を開けて店内に入ると、街の喧騒とは別世界のような安らぎ。インテリアは木で統一され、バックバーの中央には、ウイスキーの樽が3つ鎮座している。ここが7月5日にオープンしたばかりのウイスキーバー「日比谷BAR WHISKY-S III(ウイスキーズスリー)」である。
のどの渇きを癒やすため、最初の1杯はハイボール。ベースは世界5大ウイスキーから選べるが、エントリーユーザー向けにもおすすめだというカナディアンクラブをいただく。冷凍庫でキンキンに冷やしたカナディアンクラブはスムーズさを増し、マイルドな味わいにレモンピールの香りが際立っている。まさに、ウイスキーバーで味わうハイボールのクオリティー。氷はウイスキーの仕込み水にも使われる南アルプスの天然水を、3日間かけてゆっくり凍らせたもの。溶けにくく、最後の1滴まで美味しく飲めるのが店の自慢だ。
ハイボールを飲み干して、次のメニューを選ぶ。写真集のようなハードカバーのメニューを開くと、「フライト」という言葉が並んでいる。独自の飲み比べセットを「フライト」と名づけているのだ。なぜフライトなのかと聞けば、数種類のグラスが一度に運ばれてくる様子が、編隊を組んだ飛行機のように見えるからだという。
定番のセレクション「世界5大ウイスキー・フライト」をオーダーすると、専用ホルダーに乗った5つのウイスキーグラスがテーブルに届いた。ラフロイグ セレクト(スコットランド)、カネマラ(アイルランド)、響 ジャパニーズハーモニー(日本)、ジムビーム(アメリカ)、カナディアンクラブ(カナダ)がずらりと揃って980円(税別)。各グラスに10mlずつ入っているので、量でいうと通常のウイスキーのシングル(30ml)を2杯弱というところか。ウイスキーグラスの10mlは意外なほどに量が多い。テイスティングノートも添えられており、5種類のウイスキーをしっかり味わえるコストパフォーマンスは極めて高い。
フードもウイスキーとの相性を第一に考えて用意されている。世界のハーブとウッドをブレンドし、店内の自家製スモーカーでじっくり燻した「燻り惣菜」が中心で、それに各国の伝統料理も取り入れた内容だ。クリームチーズをからめたべったら漬や、調理の仕上げにスモーカーでフレーバーを加えたチキン料理などに新鮮な驚きがある。各地のウイスキーにあわせた「5大ウイスキーマリアージュ」の世界は魅力的である。
自分にぴったりの銘柄を探す旅
ウイスキー入門者にぴったりの「世界5大ウイスキー・フライト」以外にも、コアなウイスキーファンを魅了する「フライト」がある。目を引くのはザ・マッカラン12年、カネマラ、シングルモルト山崎の3種類が楽しめる豪華な「トゥーマイセルフ・フライト」。また、ジムビーム デビルズカット、知多、アルバータ ダークバッチというやや変わり種のボトルをセレクトした「チェンジマイライフ・フライト」も面白い。どちらも3杯でわずか850円(税別)である。
サントリースピリッツの推定では、日本でウイスキーを年に1回以上飲む人は過去3年で400万人も増えた。これまでサントリーは5大ウイスキーを飲み比べる期間限定のイベントをたびたび実施してきたが、今回は初めて本格的な常設のバーで飲み比べをメニューの中心に据えることができた。ウイスキー・輸入酒部の本山峰之課長が語る。
「当社でおこなった調査でも、ウイスキーの違いをもっと知りたい、色々なウイスキーを試してみたいという消費者の声がたくさん届きました。ハイボールでウイスキーの世界を知った人が、自分にあったウイスキーを手軽に探せる場を増やしたいとずっと考えていたんです」
世界で唯一5大ウイスキーの蒸溜所を所有する企業グループになったサントリーの強みを、消費者がこんなかたちで享受できるのは嬉しいかぎりである。
日比谷Barが運営する「日比谷BAR WHISKY-S」は、2003年にサントリー山崎蒸溜所をテーマにした1号店を銀座でオープン。2014年には同じ銀座でサントリー白州蒸溜所をテーマにした2号店を構えた。今回開店した3号店は、場所を三田に移してウイスキーの飲み比べを目玉にしている。これはウイスキーファン層の広がりも踏まえた決断であったと日比谷Bar最高執行責任者の松波明頼氏が語る。
「1号店を出した当時は、まだ国内のウイスキーバーも希少でした。それでも地道にウイスキーの価値や魅力を発信し続けた結果、2号店からはお客様の層も変わってきました。1号店の男女比は7:3ですが、2号店は4:6で女性客の方が多いんです。ここ三田では、さまざまな人たちを楽しませる地域密着型のお店を目指そうと考えています」
極めてオーセンティックな店内には、驚くべき仕掛けもある。それは禁酒法時代のスピークイージーを模した隠れ個室だ。部屋はすぐそこにあるらしいが、決して入り口は見つからない。秘密を知りたい方は、こっそりスタッフに訊いてみよう。
アイルランドとスコットランドで始まったウイスキーづくりは、密造酒をたまたま樽に隠しいるときに樽熟成と出会った。ウイスキーづくりはやがてアメリカ大陸へ渡り、原料の違うアメリカンウイスキーやカナディアンウイスキーが誕生。日本でも「山崎蒸溜所」で1923年からウイスキーづくりが始まった。
この店の「フライト」を楽しんでいると、そんな壮大な文明の移動が頭をよぎる。編隊を組んださまざまなウイスキーのグラスを傾けながら、時間と空間を飛び越える楽しさを体験してみよう。
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