ウイスキーの殿堂「ホール・オブ・フェイム」2018年度表彰者発表
ウイスキーマガジンアワードの一環として2004年にスタートし、今回で15回目を迎える「ホール・オブ・フェイム」。2018年度はスコットランドと台湾から3名がウイスキーの殿堂入りを果たした。その素晴らしい功績をプロフィールとともにご紹介。
ニコラス・モーガン
(ディアジオ)
ディアジオのウイスキー・アウトリーチ部門を率いるニコラス・モーガン博士は、スコッチ業界を代表する世界的な権威。スコッチウイスキーのグローバルなマーケティング活動に携わり、卓越したブレンドと個性の伝統を象徴する存在だ。
ディアジオ入社以前にはグラスゴー大学のスコットランド史学科でスコットランド近代史を教えていたこともあり、1993年に博士論文「ランカシャー州におけるクエーカー教の成立(1660〜1730年)」を発表している。ユナイテッド・ディスティラーズ(現在のディアジオ)に入社した1990年より、同社の記録保管システム構築を主導。この業務を通して、スコッチウイスキー業界の歴史に深く精通することになる。
新設されたウイスキー・アウトリーチ部門を率いる以前には、スコッチ・ヘリテージ・ディレクターとしてスコットランドにおけるディアジオの有名ウイスキーブランドを管轄。それ以前には、ディアジオのグローバル・モルトウイスキー・マーケティングのチームでマーケティング部長を長年にわたって務めている。
マーケティング部長時代より、ニコラス・モーガン博士はフレーバーの専門家や蒸溜所長たちと緊密に連携してきた。タリスカーをはじめとする主要銘柄で数々のイノベーションを主導し、スペシャルリリースのプログラムを導入。「ザ シングルトン グレンオード」の開発も実現させた。日々の業務ではスコットランド各地の蒸溜所を足繁く行き来し、既存の市場や新興の海外モルト市場も頻繁に訪問。研修プログラムの作成にも力を入れ、マーケティング担当者や社外のウイスキー解説者がウイスキーの蒸溜、熟成、フレーバーについてより深く理解できるように尽力してきた。また他に先駆けてフードペアリングの分野も開拓し、現在の世界的なブーム醸成に寄与している。
スコッチウイスキー業界における経験は20年以上。スコッチウイスキーやディアジオのインフルエンサー層に情報を提供し、その博識を共有しながらウイスキーへの関心を盛り上げるのが大切な役割だ。このような活動を通して、ジョニーウォーカーのマスターブレンダーであるジム・ビバレッジ氏やスコットランドの専門家チームとも密接に協力しあう毎日。かねてより執筆活動も続け、スコットランドのシングルモルトウイスキーやブレンデッドウイスキーに関するさまざまなテーマを題材としている。
李添財/李玉鼎
(金車集団)
台湾ウイスキーの父として知られる金車集団会長の李添財氏は、幾度となくビジネスの常識を塗り替えてきた起業家である。第2次世界大戦後の混乱期に事業を起こし、1959年より始めた家庭用品の製造を足がかりに板金工場が成長。さらに数十年にわたって瓶入り飲料、バイオテクノロジー、水産養殖などの分野でグループを発展に導いた。大きな成功を手にしたのは、その勤勉、誠実、謙虚な人柄の賜物である。
そんな李添財会長にも、長年の見果てぬ野望があった。それは正真正銘の台湾産ウイスキーを生産すること。チャンスは2002年に訪れる。台湾がWTOに加盟したことで、政府の煙草酒類公売局による専売体制が終焉。ビール、ワイン、高粱酒のみの生産に限られていたアルコール飲料業界が自由化したことで、ウイスキーの生産も可能になったのである。40年越しの夢を実現するため、李添財氏は息子の李玉鼎氏とともに誰も挑戦したことのない台湾産ウイスキーの生産に乗り出した。
李添財氏の長男として生まれた金車集団社長の李玉鼎氏は、ビジネスにおける洞察力に長けていた。ウイスキー界のアインシュタインと呼ばれた故ジム・スワン氏を招聘し、才能あふれるマスターブレンダーの張郁嵐(イアン・チャン)氏を育成。さまざまな課題を克服しながらワールドクラスのウイスキーをつくるため、彼らの力が必要であると決断したのが李玉鼎氏だった。
生まれ育った台湾で新しいウイスキーをつくる際に、李玉鼎氏が何よりもこだわったのは最高品質である。一定水準に達していないと判断されたウイスキーは、どんなときでも発売が中止になった。まだカバランを飲んだことのない潜在的な顧客を相手にしても、李添財氏は事を急いだりしない。なぜならカバランはこれからも間違いなく品質を向上させていくからだ。想定する基準は、もちろん世界最高品質である。
李添財氏と李玉鼎氏は、前人未到の分野を情熱と革新で切り拓いた。世界のウイスキー業界を変容させ、いまや「ニューワールドウイスキー」の代表格となったカバラン。人生に大いなる喜びをもたらすウイスキーの世界で、新しく自由な選択肢を提示している。
2004年に創設されたウイスキーの殿堂「ホール・オブ・フェイム」の全表彰者はこちらから。