ウイスキーの殿堂「ホール・オブ・フェイム」2025年度表彰者発表
ウイスキーマガジンアワードの一環として2004年にスタートし、今回で22回目を迎える「ホール・オブ・フェイム」。このたび3人の功労者が新たに殿堂入りを果たした。その素晴らしい功績をプロフィールとともにご紹介。
ジョン・キャッシュマン
(パワーズコート蒸溜所)
アイルランドのパワーズコート蒸溜所で、ブランディングと新製品開発の責任者を務めるジョン・キャッシュマン。新卒者採用制度「ジェムソン・グラジュエート・スキーム」を利用してアイルランド・ディスティラーズに入社し、過去27年にわたってウイスキー業界で活躍してきた。
業界内の経験を積んでいくなかで、2006年にはクーリー蒸溜所に入社してアイルランドのカントリーマネージャーに就任。ほどなくグローバルブランドアンバサダーに昇進した。クーリーがビームサントリー(現サントリーグローバルスピリッツ)に買収されると、ビームサントリーにおけるアイリッシュウイスキー部門の「グローバル・グラデュエート・スキーム」を主導。プログラム実施期間中に30人以上の大卒者を指導し、多くの対象者が現在も世界のスピリッツ業界で活躍している。
ビームサントリーではアンバサダーとして活動しながら、アイリッシュウイスキーのポートフォリオを担当。スコッチ、バーボン、カナディアンウイスキー、ジャパニーズウイスキーの銘柄も幅広く手掛けた。クーリー蒸溜所のマスターディスティラーであるノエル・スウィーニー氏と緊密に協力し、リキュールの開発でも重要な役割を果たしている。
そして2022年1月よりパワーズコート蒸溜所で現職を任され、新製品の開発を続けている。これまでにファーカレンのポートフォリオやブランドポジショニングを見直し、将来を見据えた製品構成のリフレッシュにも着手してきた。
ウィックロー州ラスダム郊外にある農場(実家)で、妻ララと3人の子供たち(レイラ、ジョニー、トム)とともに暮らす。ウィックローの飲食料品ネットワーク「ウィックロー・ナチュラリー」の副会長として、地元の生産者を支援しながら地域の豊かな伝統を守っている。アイルランドウイスキー協会では、貿易販促委員長という要職も務めた。
アンシ・ピューシン
(テーレンペリ醸造所&蒸溜所)
フィンランドでテーレンペリ醸造所&蒸溜所を創設したアンシ・ピューシンは、フィンランド国内だけでなくおよび北欧のノルディックウイスキー業界全体を象徴する存在である。高品質な酒類製造を志し、フィンランド市場で独自の製品を生み出したいという情熱からビール醸造とスピリッツ蒸溜に乗り出した。
フィンランドのラハティに、最初のテーレンペリ・バーをオープンしたのは1994年のこと。翌年にはクラフトビールの醸造に重点を置いてテーレンペリ醸造所を設立した。この醸造所の成功がウイスキーづくりへの探求心をさらに後押し、2002年にはテーレンペリ蒸溜所も設立する。この蒸溜所は順調に稼働し、2015年には近郊のロティラに2軒目の施設を開設。現在は年間約10万リットルのスピリッツを生産している。
アンシのウイスキーづくりは、地元の素材と伝統技術の重用に根ざしている。サルパウセルカ尾根でろ過された清らかな地下水と地元栽培の大麦が、テーレンペリのウイスキーの基盤となる。このような原料へのこだわりが、ウイスキーにフィンランド独特の個性を与えている。
ノルディックウイスキー全体の隆盛に力を入れるアンシは、北欧のウイスキーメーカーとの協力関係を強化しながら相互にイノベーションを推進している。ノルディックウイスキーの地位を高め、世界のスピリッツ市場における認知度と評価の向上を目指してきた。
テーレンペリでの酒造事業に加え、サステナブルな慣行を通して地域社会の支援にも力を注いでいる。醸造所と蒸溜所で使用する原材料は地元で調達し、自社で木質ペレットによるバイオマス発電を実践。環境にやさしい生産スタイルを確立し、海上輸送のコンテナを再利用した貯蔵庫でウイスキーを熟成している。いずれもウイスキーづくりの先端を走るサステナブルな取り組みだ。
デイヴ・ブルーム
(ウイスキーライター)
グラスゴー出身のデイヴ・ブルームは、ウイスキーファンからプロフェッショナルに至るまで幅広いウイスキー関係者に信頼されるスピリッツの専門家だ。これまで20年以上にわたって蒸溜酒の研究を続け、ウイスキーだけでなく最近はジンにも対象分野を広げている。
専門メディアでの活躍は目覚ましく、これまでにウイスキーマガジン、ウイスキーアドボケート、スコッチウイスキー・ドットコムなどのウイスキー専門メディアに寄稿編集者として執筆していきた。さらには2020年にザ・ウイスキー・マニュアル・ドットUKを開設し、ジャンシス・ロビンソンのウイスキー特派員も務めている。
多作な作家としても知られるデイヴの主著は、世界中の500以上の蒸溜所を調査してウイスキーの香味を記録した『ザ・ワールド・アトラス・オブ・ウイスキー』である。初版の出版は2010年で、その後も世界のウイスキー業界の変化にあわせて書き直された。最新版は、2024年に出版された第3版である。その他の著書には『ウイスキー:ザ・マニュアル』『ジン:ザ・マニュアル』『ラム:ザ・マニュアル』『ザ・ウェイズ・オブ・ウイスキー』『センス・オブ・プレイス』などがある。
執筆活動に加え、『キューバ・イン・ア・ボトル』『アンバー・ライト』などのドキュメンタリー映画も制作している。特に『アンバー・ライト』はウイスキーとスコットランド文化を紹介する作品で受賞歴もある。近年はスピリッツ教育に取り組み、プロとアマの両方を対象にした研修や講義のために世界各国を歴訪。ウイスキー製品のテイスティングやコンサルタントも幅広く務め、業界の発展に尽力を続けている。
2004年に創設されたウイスキーの殿堂「ホール・オブ・フェイム」の全表彰者はこちらから。