違いをもたらす ― インバーゴードン蒸溜所 【後半/全2回】
良質なグレーンウイスキーを供給し続けるインバーゴードン。現在はある改革が起こっている。
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数年前、グレーン蒸溜業者の大部分がコスト面の理由で主要穀物をトウモロコシから小麦に変えたが、目下インバーゴードンはそれを元に戻している。生産マネージャーのイアン・マッキーは
「この9ヵ月、ここでは輸入トウモロコシを使っています。その主な理由は、過去5、6年の間に各種の小麦が変化し、夏に悪天候があると長い穂をつけるようになったからです。結果的に小さな穀粒の割合が多くなり、インバーゴードンのプラントではこれを効率的に処理できないため、この5年間にはかなり深刻な生産中断があってビジネスコストも大幅に増えました」と説明する。
さらに、「トウモロコシはフランス南西部産のものを使用しています。ニューメイクスピリッツは少しヘビーさが増して若干ゴムっぽく、硫黄のような香りがありますが、これは熟成によって消えますし、本物の個性があります。そのため、リチャード・パターソンはブレンダーとして、トウモロコシからつくったスピリッツを好みます」
パターソンは言う。「ここでは原酒を主に3年半〜4年半熟成させて使っています。ブレンドに加えると様々なモルトをひとつにまとめあげるだけでなく、より輝かせ、温かさをもたらします。インバーゴードンにはソフトでフローラルな蜂蜜の香りがあり、ライトボディからミディアムボディです。長期熟成ブレンド用に12〜20年熟成すると、蜂蜜とバニラの素晴らしい香りになります」
「近年は主として貯蔵庫に投資しました」とイアン・マッキーは言う。「この3年で新規に5ヵ所を追加し、さらに5ヵ所建設する予定です。現在51ヵ所ありますが、12ヵ所はパラタイズ式です」
「パラタイズ式」の便利な点は、パレット板上のカスク6個に6口の充填機から一度に充塡し、そのまま倉庫に移送できることだろう。処理上の労力削減と安全性向上になる。
「12ヵ所ほどのラック式貯蔵庫は少量用に、また頻繁に動かす必要のある長期熟成ウイスキー用にとってあります」とマッキー。「ここでは様々なウイスキーを熟成、バッティングしますし、ダルモアとジュラのためのフィニッシュ用カスクもあります」
リチャード・パターソンが付け加える。「インバーゴードンは当社の熟成モルトをたくさん貯蔵していますから、そこでブレンディングを行いますし、ホワイト&マッカイ・ブレンド用のマリッジ・バットもあります」
この原稿を書いている時点では、インバーゴードンの将来の所有者は不明だ。事実上ディアジオ社がホワイト&マッカイ社の経営権を所有している現在、この世界最大のスピリッツ会社が、これほど大きなグレーンスピリッツ生産能力を保持していたいと望む − あるいは、それが許される − 可能性は低く、蒸溜所は売却されそうだ(WMJ註:2014年5月、フィリピンのブランデー最大手メーカーであるエンペラドール社がホワイト&マッカイ社の買収を発表)。
誰が買うことになっても、老朽化の徴候があるこの蒸溜所の改良に、いくらかの投資する必要があるだろう。しかしその投資は、世界にブレンデッドスコッチウイスキーが足りなくなったようなときに、真価を発揮するはずだ。
蒸溜所インフォメーション
・年間のモルト、トウモロコシ使用量… 88,000トン
・ クッカー(仕込釜)… 容量70トン×3台 145度で10~15分間トウモロコシを加熱
・マッシュタン… 1基 1バッチ16.7トンのトウモロコシ、1.45トンのモルト、37トンの湯を使用
・ウォッシュバック…23基 容量300,000L×14基、 容量220,000L×9基
最初の24時間をカスケード(滝状)発酵槽で、その後12~24時間をバッチ式ウォッシュバックで発酵
・蒸溜機… ウォッシュが11~13%の段階で蒸溜、ニューメイクスピリッツは94.4%