アイリッシュウイスキー激動の1年を振り返る【第2回/全4回】

文:マーク・ジェニングス
ボアン蒸溜所
ボアン蒸溜所の過去1年間は、国際的な評価の高まりによって支えられてきた。バランスのとれた伝統技法の復活、自社蒸溜による革新、外部から調達したシングルモルトの品質などで独自の地位を確立している。
ミース州にある家族経営の蒸溜所として、ボアン蒸溜所は初めて「穀物からグラスまで」を体現したシングルポットスチルウイスキーの3本セット(マルサラ樽熟成、マデイラ樽熟成、ペドロヒメネス樽熟成)を発売した。アルコール度数47%でボトリングされたこのセットが、自社生産におけるボアンの大きな進化を印象付けた。
その一方で、外部から原酒を調達してボトリングするウイスキーのブランド「ザ・ホイッスラー」も注目すべき拡大を見せた。シングルモルト(21年熟成)とマデイラワインのセットは、コレクターが喜ぶ珍しい組み合わせ。また「フィッシャー・イン・ザ・ライ」は、ライ原料のウイスキーをライリバーブルーイングが提供するビール樽で追熟した遊び心あふれるウイスキーだ。新商品の「ホイッスラー・トリプルオーク」は、環境に配慮した軽量なボトルに入っている。ポットスチル、シングルモルト、グレーン原酒をブレンドし、ボアンが自社で蒸溜したスピリッツと他社の原酒をブレンドした初めてのウイスキーである。
ボアンの「ソルスティス」シリーズも、さらに深みを増した。今年に入って2025年の冬と夏の特別ボトルを発売したが、これらは歴史ある伝統のマッシュビルとフレンチオーク樽やオロロソシェリー樽などによる熟成を組み合わせたものだ。自社蒸溜のスピリッツを使用した「ソルスティス」シリーズは、アイルランド屈指の特徴的な季節限定リリースとして注目されている。
独自の特徴を押し出したボアン蒸溜所は、最近も数々のアワードに輝いている。2025年度の「アイコンズ・オブ・ウイスキー」では、アイルランドの最優秀蒸溜所と最優秀生産チームに選出。また「ワールド・ドリンクス・アワード」では国内部門で3冠を獲得した。
ブッシュミルズ蒸溜所
ブッシュミルズは、引き続き長期熟成のシングルモルトに注力し、その長い歴史と長期的な視野を印象付ける素晴らしい商品をこの1年でリリースした。その動きを象徴する2つのボトリングは、「ブッシュミルズ 26年 クリスタルモルト」と「ブッシュミルズ 46年 シークレッツ・オブ・ザ・リバー・ブッシュ」である。
クリスタルモルトとは、ブッシュミルズが1997年に初めて蒸溜したモルト原料のスピリッツのこと。大麦の糖分を蒸溜前に結晶化させるという珍しい手法を採用している。そのクリスタルモルトが、20年以上の熟成を経てキャラメル風味やクリーミーなチョコレート風味のシングルモルトに結実した。
また46年熟成の商品は、ブッシュミルズ史上最長酒齢のアイリッシュシングルモルトウイスキーとしてボトリングされた記念すべき商品だ。商品名に謳われた「リバー・ブッシュ」は、ブッシュミルズが4世紀以上にわたって水源とするブッシュ川に因んでいる。その熟成年数と希少性によって世界的な注目を集めた。
マスターブレンダーのアレックス・トーマスは、最近のブッシュミルズの勢いについて次のように語ってくれた。
「ウイスキーメーカーにとっては、極めてエキサイティングな時代です。特にアイルランド市場では、創造性と革新性が前面に出てきているのを感じています。伝統を尊重しつつ、大胆に新しい表現を先駆けていくのが、ブッシュミルズの大事な目標。このような立場から、さまざまな新しい試みも続けています」
クロナキルティ蒸溜所
クロナキルティにとって、2025年は画期的な年となった。これまで原産地とテロワールにこだわってきた蒸溜所にとって、マイルストーンとなる初のシングルポットスチルをリリース。ポットスチルとグレーンをブレンドしてバーボン樽で熟成させたウイスキー(アルコール度数40%)を「ギャレーヘッド」シリーズに加えた。変化する消費者の嗜好に合わせ、シリーズの幅も広がっている。
他社と同じように、クロナキルティも米国市場ではさらなる苦戦を強いられた。創業者のマイケル・スカリーは、次のように述べている。
「依然として最大の課題であり、売上減少が見られた唯一の市場がアメリカです」
ボトル1本が50ドル以上になると、米国の消費者に割高感を与えてしまうのではないかというのがマイケルの分析だ。このような懸念に対応し、チームは手頃な価格帯の製品ラインを新たに導入した。
クロナキルティは、新たにプレミアム・スピリッツ・ソリューションズ事業部を創設したばかりだ。保税倉庫、ボトリング、包装などの設備を強化し、第4貯蔵庫の建設も進行中である。またローソンとの協業により、日本では炭酸で割ったクロナキルティのウイスキーとジン(缶入り)が全国のコンビニエンスストア14,000店舗で商品展開された。
(つづく)