日本洋酒酒造組合は、約100年におよぶ日本のウイスキー製造の歴史で初めてジャパニーズウイスキーの表示基準について定めた。この歴史的な再出発を様々な視点から検証する2回シリーズ。

文:ジェイソン・トムソン

 

過去20年間にわたって、ジャパニーズウイスキーは欧州と北米の主要市場で急激に人気を増大させてきた。ほとんど独壇場といえるほど注目が高まったことで、日本のウイスキー業界は新しい次元へと飛躍することになった。その一方で、長期間にわたる品不足の問題にも悩まされ始めている。

国内の有名な蒸溜所では、熟成原酒への需要が供給可能量を超えてしまった。その一方で、たくさんの新規事業者にとって市場参入のチャンスを生み出している。ほぼ1世紀の歴史がある日本のウイスキー業界だが、海外で人気の的になる以前は、求めやすい価格のブレンデッドウイスキーを国内市場だけに供給する時代が長かった。そんな時代も終わって、今は変化の時を迎えているのである。

日本国外でジャパニーズウイスキーの人気が増大の一途をたどり、品薄が常態化するようになると、小売店でもオークションでも価格が高騰するようになった。このような状況から、ジャパニーズウイスキー全体に対しても、かつてないほど厳しい精査が求められるようになる。

ジャパニーズウイスキーの消費者は、さまざまな混乱に直面していた。ジャパニーズウイスキーの定義や規制が明確でなく、他のウイスキー産出国とは異なった歴史や文化的背景を持っていることが、ジャパニーズウイスキーの実態をわかりにくいものにしていたのである。

まず最初に混乱するのは、ジャパニーズウイスキー業界が外国産のウイスキーを輸入してブレンドしてきたことだ。これは国内の自社蒸溜所だけでは得られないフレーバーのプロフィールを加え、理想的な品質のブレンデッドウイスキーをつくるためである。

消費者を欺く意図がなかったとはいえ、この風習は長期間にわたって実践されてきた。そのため消費者には、「このウイスキーの原酒はどこから来たのだろう」という疑問がつきまとっていた。さらに紛らわしいことには、海外(主にスコットランドとカナダ)から大量に原酒を輸入し、ジャパニーズウイスキーとしてボトリングされる事例まであった。

 

曖昧だったジャパニーズウイスキーの定義

 

抜け目のない輸出業者が、海外市場のルールを独善的に解釈して、ジャパニーズウイスキーの知名度を利用するケースもあった。これは主に米国市場で見られた例であるが、木樽で熟成した焼酎(米、そば、甘藷、大麦)が、商品知識のない消費者にジャパニーズウイスキーとして販売されてきたのである。日本と欧州の基準では焼酎をウイスキーと呼ぶことができないため、焼酎がウイスキーとして販売できたのは米国だけだ。

ニッカウヰスキー仙台工場(宮城峡蒸溜所)。シングルモルト「宮城峡」、ブレンデッドモルト「竹鶴」、カフェモルト、カフェグレーンなどは、今後も正規のジャパニーズウイスキーとして定義される。

このような外国産のウイスキーや熟成焼酎をジャパニーズウイスキーと呼んでも、現在は法に触れることがない。だがもちろん、このような逸脱は日本でもウイスキーづくりの精神に反すると考えられている。消費者にとって紛らわしい状況は、日本産のウイスキーに対する評判や信頼性を失墜させるのではないかという懸念が広がってきた。そして、ジャパニーズウイスキー全体が取り返しのつかない打撃を受ける前に、何らかの法規制が必要だという声も高まってきたのである。

生産者と業界内の主要な勢力が、この問題を解決するために動き出した。そしてラベル表示の基準を明確化するため、一連の条件を定めた「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」を発表したのである。日本洋酒酒造組合のメンバー企業は、2021年4月1日から、この新しい表示基準を遵守することとなった。

この基準の大枠は、世界中のウイスキー関連法の内容にも沿った内容となっている。だが中には、日本らしい新しいルールが盛り込まれているのも興味深い。オーク樽よりも語義の広い「木樽」を許容していることで、ジャパニーズウイスキーのメーカーはスコッチウイスキーやアメリカンウイスキーの蒸溜所よりも多彩な樽で熟成を試みる余地が生まれる。

この基準は日本洋酒酒造組合のメンバー企業にのみ遵守を求めるもので、組合に所属していない企業への強制力はない。それでも消費者がジャパニーズウイスキーを購入するときに、品質面での安心感が得られるようにするための第一歩となることが期待されている。

 

ジャパニーズウイスキーの表示に関する基準

 

日本洋酒酒造組合によると、ラベルに「ジャパニーズウイスキー」または「Japanese whisky (whiskey)」と表示する商品は、以下の品質基準を満たす必要がある。

• 原材料には麦芽などの穀類を使用すること。
• 麦芽は必ず使用すること。
• 日本国内で採取された水のみ使用すること。
• 糖化、発酵、蒸溜は日本国内の蒸溜所で行うこと。
• 蒸溜溜出時のアルコール分は95度未満であること。
• 内容量700リットル以下の木樽に詰め、日本国内で3年以上貯蔵すること。
• 日本国内で容器詰めし、充填時のアルコール分は40度以上であること。
• 色調の微調整のためにカラメル(E150a)の使用を認める。

次回はこの新しい表示基準について、日本国内外の識者の意見から論点を整理する。
(つづく)