進撃のLaddie ― ブルックラディ蒸溜所【後半/全2回】
時代は変わりつつある。オーナー交代から2年、快進撃を続けるブルックラディ蒸溜所の今をお届けする。
劇的な買収からわずか1年余り後、ブルックラディ蒸溜所はどうなったか?
まず、生産は倍増され、今のところほぼ生産能力一杯で稼働している。現在のままの設備でも、もう少し増産できるだろう。重要な点は、「蒸溜所を近代化して効率を高める」といった、かたくなに守り続けたこだわりが犠牲になるような計画が全くないことだ。
ブルックラディ蒸溜所は、本来の能力を発揮しているだけ、ただ「長い間できなかったことをしている」だけに過ぎない。
二番目に、増産により新たに6つの勤め口が生まれたことが挙げられる。CEOのサイモン・コフリン(古参のチームメンバーで去ったのはマーク・レイニエのみ)によると、近い将来さらに増える予定だ。
チームは拡大しつつあるため、全員がアイラ島からということにはならないだろうが、若者に開かれている道がごくわずかしかない、島のコミュニティにとっては非常に重要なことだ。そして、将来性有望な蒸溜所でしっかりとしたキャリアを築くこともでき、国際的なビジネスの場に出ていくチャンスでもある。貴重な雇用の場を提供し続けているのだ。
蒸溜所が拡張されれば、周囲の貯蔵庫もそれにならう。増産分を全て貯えるために新しい貯蔵庫が続々と建設されており、全ての原酒がアイラ島で熟成される。これは以前と変わらぬポリシーだ。サイモン・コフリンは私に断言した 。「熟成のためにウイスキーを島の外に動かすことはありません」
ビジネスの発展はオフィスでも明らかだった。かつては狭苦しかったが、今では新しいカンファレンスルーム、ミーティング ルーム、テイスティングルームがあり、ビジターセンターには新しい立派なドアがついた。
それでもヴァリンチ・ボトリング(WMJ註:ビジターセンターでお土産用に販売する、蛇口のついた樽。樽からそのままの状態で購入できる)はまだ健在で、私が訪れたときはポート樽熟成のものだった。以前と変わらず温かくて細やかな歓迎ぶり。ここに足を踏み入れるだけで、蒸溜所が「良い状態」であることは伝わってくる。
ブルックラディはウイスキーだけをつくっているのではない。カーターヘッドスタイルのバスケットにアイラ島の香料植物(ボタニカル)を入れ、独特なローモンドスチルでつくる「ザ・ボタニスト」ジンだ。新しいボトルになって専用のボトリングラインができるほど強化される予定だ。
これについても、サイモン・コフリンは説明する。
「買収の交渉をしている間、RC社はずっと『このジンをつくり続けることになるだろう』と言っていました。実際、その通りになっています」
そこで私は、フラグシップ製品の10 年もの 「The Laddie」(WMJ註:日本では未発売)が生産中止になるという噂についてたずねた。これには断固とした否定が返ってきた。
どうやら問題は、成功に伴うもののようだ。単に現在の需要に見合うほど初期の頃に生産しなかったため、「The Laddie」は必然的に、振り分け制にならざるを得ないのだ。その意味は明らかだろう …ボトルを見かけて、欲しいと思ったら、ためらわずに買うこと。十分に行き渡るだけの量はない。 ブルックラディもRC社も他の誰も、それをどうにかすることはできないのだ。
限定版のボトリングも少なくなるだろう。特別なエクスプレッションが減り、ブルックラディ(アンピーテッド)、ポートシャーロット(ピーテッド)、オクトモア(ヘビリー・ピーテッド)の3つの中核製品に集中することになる。
これではまるで向こうの宣伝部から言われたとおりに書いているように見える。それは強く自覚しているが、事実はそうではない。私は何の制限もなく自由に取材した。話したい人とは誰とでも話せたし、面白そうなところは全て覗いてみた。秘密は何もなかった。
ブルックラディ蒸溜所に変化はあるだろうか? ある、もちろん。しかし、それは良い意味での「変化」であり、私たち皆がそれを温かく受け入れ、楽しむべきだと思う。多分、The Laddie…若者たち(WMJ註:ブルックラディの愛称でもあり、スコットランドの方言では若者・息子たちという意味を持つ)は少し成熟したのだろう。