ローランドを辿る旅は、東岸の商都グラスゴーやスコットランド最南部へ。スコットランド経済の中心でも、伝統と革新を織り交ぜたさまざまな生産拠点が誕生している。

文:パトリック・コンネッリ

 

グラスゴー(Glasgow)

 
エディンバラと同様に、スコットランド最大の都市グラスゴーでも新たに3軒の蒸溜所が誕生した。古くから人気の高いオーヘントッシャンに加え、ウイスキーシーンは盛り上がりを見せている。新しい3軒のなかで一番先にできたのは、グラスゴー南部の地味なヒリントン工業団地にあるグラスゴー蒸溜所。友人同士の3人が集まって、2012年に設立した蒸溜所だ。

貿易の中心地として栄えたグラスゴーのクイーンズドックで、モルトウイスキーの生産を復活させたクライドサイド蒸溜所。グラスゴーのみならずスコッチウイスキーの歴史を学べる新拠点となっている。メイン写真はパースシャーのアバラーギー蒸溜所。

蒸溜所チームは、初代グラスゴー蒸溜所(別名ダンダスヒル蒸溜所)の創業年にちなみ、自分たちがつくるウイスキーを「1770」と命名している。フレーバー至上主義を標榜し、その原則を熟成プロセスにも適用。「トリプルディスティルド」「オリジナル」「ピーテッド」という3種類のスタイルで商品を展開し始めた。さらにはルビーポート、トカイ、ソーテルヌなどの樽で後熟したカスクフィニッシュの限定品もリリースしている。

グラスゴー蒸溜所の次に創設されたクライドサイド蒸溜所は、クライド川岸のポンプハウスを改造したクイーンズドックにある。この蒸溜所は、体験型の観光施設としても高い評価を受けている。情報満載の展示と知識豊富なツアーガイドによって、グラスゴーの歴史とウイスキー業界の変遷が学べるのだ。グラスゴーでは観光業も急成長しており、優れたウイスキーをつくりながら観光客のニーズにも対応するように蒸溜所自体が設計されている。

グラスゴーで最も新顔のジャックトン蒸溜所は、グラスゴー近郊のイーストキルブライドにある。小規模なクラフト蒸溜所で、最初の樽詰めが2020年におこなわれたばかり。すでにフランスの名門シャンボール農園と提携し、特別なジンを製造している。今後も注目のスピリッツ生産者である。
 

ローランド・パースシャー(Lowland Perthshire)

 
有名なモリソン・ボウモア・ディスティラーズのブライアン・モリソンと息子のジェイミー・モリソンが、事業を拡大してモリソン・スコッチウイスキー・ディスティラーズに改組。2017年にパースシャーのアバラーギーで、モリソン家が所有する300エーカー(約37万坪)の農場に蒸溜所を建設した。最終的には「アバラーギー」の名でシングルモルトを生産する計画だが、現時点でリリース時期は未定である。

このアバラーギー蒸溜所は、「バーリー・トゥ・ボトル」(大麦栽培からボトリングまで)という運営方針を打ち出している。農場内で栽培した大麦からつくるウイスキーは、リッチで、フルーティで、ワクシーなスタイルとなる予定だ。年間の蒸溜計画には、ピーテッドモルトを使用する期間も設けられている。
 

サウス・オブ・スコットランド(South of Scotland)

 

高品質な樽熟成とシングルカスク商品にこわわるアナンデール蒸溜所。ダンフリーズ&ガロウェイ州の新しい名所として注目されている。

ボーダーズでは、1837年以来初めてとなる合法的な蒸溜所が2018年に開業した。創設者はウィリアム・グラント&サンズの取締役も務めたジョン・フォーディス、ティム・カートン、トニー・ロバーツ、故ジョージ・テイトという面々。生産地はホーイックのテビオ川にも近く、周囲の風景は絵画のように美しい。人気のジンとウォッカに加え、ノンピート麦芽を原料としたフローラルな酒質のウィスキーをつくるべくスピリッツを蒸溜している。

ダンフリーズ&ガロウェイでは、ブラッドノック蒸溜所とアナンデール蒸溜所がともにスコットランド最南端のウイスキー蒸溜所として名乗りを上げている。最初にできたのはアナンデール蒸溜所の方である。

この地域には、まもなく第3のウイスキー蒸溜所も誕生する。ニュートン・スチュワートが運営する小さなクラフティ蒸溜所だ。同蒸溜所のチームは、すでに「ヒルズ」や「ハーバージン」などの生産でも知られている。創業者の亡き父ウィリアム・ジェームズ・テイラーへの特別な思いを込め、スコットランドの国酒であるウイスキーの生産に乗り出したところだ。地元コミュニティが主導する「ビリー&カンパニー」というブランドを立ち上げ、会員にスピリッツのテイスティング、各種試験、商品開発などの機会を提供する。蒸溜チームと地域社会が力を合わせてウイスキーの歴史を作ろうと頑張っている。

ブラッドノックがマスターディスティラーに指名したのは、マッカラン前マスターディスティラーのニック・サヴェージ。新しい歴史の始まりに期待が集まる。

デービッド・トムソンとテリーザ・チャーチの夫妻は、かつてジョン・ウォーカー&サンズの傘下で運営されていたアナンデール蒸溜所の再興を目指し、2007年から1050万英ポンド(約17億円)をかけて改修に着手した。現在は蒸溜所も完成して稼働中となり、2018年にノンピートの「マノワーズ(Man O’ Words)」とピーテッドの「マノスウォード(Man O’ Sword)」を最初の商品としてリリースした。「マノスウォード」はこの地に縁の深いロバート・ザ・ブルース(ロバート1世)に敬意を表した名称である。

一方のブラッドノックも、アナンデールと似たような経緯で復活した。実業家のデービッド・プライアーが2015年に設備を買収し、2年間の修復を経て2017年に再稼働。やがてマッカランのマスターディスティラーを務めたニック・サヴェージを迎え、かつての栄光を取り戻すべくウイスキーの生産を引き継がせた。