マッカランの新しい蒸溜所が完成【後半/全2回】
文:ガヴィン・スミス
新しいマッカラン蒸溜所のビジター体験は、先端テクノロジーを駆使した刺激的なものだ。だが喜ばしいことに、やはり最終的な本物のスターと呼ぶべき存在は、依然としてマッカラン特有のスチルである。
蒸溜所には連結されたスチルの「サークル」が3系統ある。それぞれのサークルでは、ウォッシュスチル4基とスピリットスチル3基が稼働している。合計36基のスチルで世界のザ・マッカランに対する需要を満たせない場合は、新しいスチルをさらに追加できるだけのスペースも蒸溜所内にはある。
ザ・マッカランは、長期間にわたって樽材への大規模投資をおこなってきた。理想の樽を得るため、スペインでシェリーのシーズニングを自社管理しているのもこの一環である。そんな訳で、次の展示は樽熟成の解説だ。オークと樽材がもたらす特別な効果を学び、樽工房内部のバーチャル体験もできる。
カクテルバーの真下にはプライベートセラーがあり、壁にいくつものシェリー樽がはめ込まれている。一般客が購入したり、樽詰めしたりできる原酒が入った樽である。ここは蒸溜所のちょうど中心部にあり、感動的な蒸溜所ツアーのクライマックスにぴったりの場所だ。
旧マッカラン蒸溜所は今年の5月に閉鎖され、将来的に再利用される計画もない。マスターディスティラーのニック・サヴェージが語ってくれた。
「最後の数年間は、旧蒸溜所を完全にコピーしようと苦心してきました。まるで指紋を採取して再現するような細かい作業です。ワートやウォッシュの成分を厳密に調べ、たくさんの基準を採取することで、あらゆる要素を完璧な同水準で再現できるようにしてきたのです。スチルに関していえば、フォーサイスは計り知れないほど価値の高い仕事をしてくれました」
旧蒸留所では、発酵にオレゴンパイン材のウォッシュバックとステンレス製のウォッシュバックを併用していた。だが旧蒸溜所でテストを繰り返してみても両者に違いがないとわかったので、新しい蒸留所ではすべてステンレス製にする決断をしたのだとサヴェージは説明する。
「新しい蒸溜所を期待通りに稼働させるまで、ほとんど時間はかかりませんでした。望ましいスピリッツの特性も、すでに再現できていました。旧蒸溜所のローワインや蒸溜時のテールを使ってテストを繰り返し、全体の流れも完成に近づけておいたのです」
発酵時間はこれまでと同様に平均55時間。スピリッツのカットも、従来どおり厳密に狭くとるという。
「実際に変更を加えた工程は、マッシング時のお湯の投入を3回から4回に増やしたことぐらい。これはモルトから最大限の糖分を引き出すための新しい措置です」
熟成中の原酒についても、そのまま切れ目なく保持していくとサヴェージは断言した。
「新しい蒸溜所だけでつくられた製品を発売したり、意図的に新旧のスピリッツをミックスしたマッカラン製品をつくったりする計画はありません。何といっても、新しい蒸溜所のスピリッツは、旧蒸溜所のスピリッツと完全に同じ品質なのですから。既存の原酒の隣に新しい原酒を並べても、違いに気づく人はいないでしょう」
壮大なスケールアップから生まれる恩恵
総工費1億4千万ポンド(約200億円)をかけた蒸溜所建設も、全体としてみれば予算5億ポンド(約700億円)に及ぶ驚異的なブランド強化計画の一部に過ぎない。12年がかりの計画を推進しているのは、グラスゴーにあるオーナー会社のエドリントンだ。蒸溜所の新築に加え、新しい排水施設の建設にも500万ポンド(約7億円)が投じられた。その他、貯蔵庫、最先端のボトリング施設、 輸送前の排出設備、樽工房などの建設や、これから樽の調達に必要となる多額の予算は別にとってある。
すべてのマッカラン製品は、蒸溜所の敷地内で熟成される。現在の貯蔵庫は全部で54棟。蒸溜所のそばには伝統的なダンネージ式貯蔵庫が何棟かあり、さらに上へ登った丘のそばにモダンな「ダブル式」貯蔵庫が8棟ある。最終的にはすべてラック式にして、14棟の新しい貯蔵庫に収める予定だ。貯蔵庫の収容力は1棟あたり25,000本である。それに加えてT字型をしたボデガスタイルの貯蔵庫も設置され、80,000本の樽を収容する。約40人の貯蔵庫チームが、週あたり800本の樽にスピリッツを詰め、年間40,000本の樽を新たに熟成させる。新しい蒸溜所を稼働させたザ・マッカランは、製品ラインにも変更を加える。マネージングディレクターのスコット・マクロスキーが説明してくれた。
「ストックを最善の状態で各製品のために配置する戦いは、これまで同様に続きます。ウイスキーの需要は、ここにあるストックをはるかに上回っています」
熟成年数を表示しないノンエイジステートメント製品の売れ行きは好調だった。だがマッカランファンの多くは、年数表示を好むことがわかったのだという。
「ノンエイジステートメント製品は、ナチュラルなウイスキーの色を愛でるのが目的のひとつでした。ゴールド、アンバー、シエナ、ルビーなどの名は、すべて色を表現したもの。素晴らしい製品だったのですが、私たちの目標はコア製品を全世界で展開することであり、その準備がようやく整ったところなのです」
世界一幸運な男を自認するマクロスキーは、マッカランへの愛を包み隠さずに語ってくれた。
「ザ・マッカランが大好きです。他メーカーに務めていた頃から、こっそり隠れて飲み続けてきました。ドライフルーツとスパイスを感じさせるシェリー熟成の風味が素晴らしい。ザ・マッカランの評判は極めて高く、商業的にも成功を収めています。昨年度はほとんどすべての国で売上増を達成しました。将来が楽しみな中国市場は、まだ動き始めたばかりですが手応えを感じます。いずれはインド市場にも本格的に力を入れたいと考えています」
新しい蒸溜所の建築で、未来的なイメージを大胆に提示したザ・マッカラン。だがスコット・マクロスキー率いいるチームは、夢のような現実を本当に手に入れようとしている。
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