大西洋の離島群で生産される酒精強化ワイン「マデイラ」。熟成に使用したマデイラの樽も、ウイスキーに独特な風味を授けてくれる。

文:イアン・ウィズニウスキ

 

酒精強化ワインは、長年にわたって英国人たちのお気に入りだった。ボトルは空になるとそれっきりだが、樽はスコットランドでモルトウイスキーの熟成に再利用されてきた。ウイスキー熟成に使用される酒精強化ワインの樽で、もっとも一般的なのはシェリー樽。それよりも少ないのがポート樽で、マデイラ樽はさらに希少な存在だった。

酒精強化ワインの樽は、特有のフレーバー群をモルトウイスキーに授けてくれる。シェリー樽ならドライフルーツの風味。ポート樽ならプラムやダムソンの風味。そしてマデイラ樽なら、季節の果物を含む多彩な風味が得られる。デュワーズのマスターブレンダーを務めるステファニー・マクラウド氏は語る。

アバフェルディのフィニッシュにマデイラ樽を使っているステファニー・マクラウド氏。樽材やブドウ品種の違いによって、熟成のスタイルを使い分けている。

「マデイラ樽は、アンズや夏のチェリーなどのジューシーなフルーツ風味を加えてくれます。さらにはバニラ、クローブ、リコリス、アニシードなどの印象も伴っています。このようなスパイスが柔らかでフレッシュな風味をもたらし、全体の風味をまろやかにしてくれるのです」

マデイラ樽はメーカーであるマデイラハウスから直接購入するのではなく、樽工房経由でウイスキーメーカーの手に渡ることが多い。樽工房が取り扱う樽には、マデイラの熟成を終えた樽の在庫のほか、注文に応じてシーズニングをする新樽も含まれる。マデイラのスタイル、シーズニングの期間、樽のスペックなどをウイスキーメーカーが詳細に指定して注文できる方式だ。

マデイラ樽のサイズは、多くがバリック(225L)かバット(500L)で、アメリカンオークとヨーロピアンオークのどちらかが用いられる。ステファニー・マクラウドが説明する。

「豊富に調達できるアメリカンオーク樽は、品質も一貫しているのでよく使います。材質が緊密なアメリカンオークに対し、ヨーロピアンオークはどちらかといえば構造が粗いのが特徴、そのためヨーロピアンオークにはスピリッツがよく浸透し、アメリカンオークよりも短期間で樽の影響を得ることができます。小さなサイズのヨーロピアンオーク樽を使えば、フィニッシュで素晴らしい効果が期待できますよ。でもフルタイムの熟成になると、オーク材の種類でさほど大きな違いが見られなくなります」

樽がワインやスピリッツで満たされるたび、樽熟成の効果は変化していく。ブドウの品種でいえば、マルヴァジーア種の樽がもっとも普及しているので実験的なフィニッシュに用いやすい。

例えばロッホローモンドの「アイランズコレクション インチマリン マデイラ」は10年熟成のモルトウイスキーだが、一部の原酒をファーストフィルのマルヴァジーア ・マルムジー樽で6ヶ月フィニッシュし、別の原酒をセカンドフィルのマルヴァジーア・マルムジー樽で12ヶ月フィニッシュしている。ロッホローモンドのマスターブレンダーを務めるマイケル・ヘンリー氏がその意図を明かす。

「樽材に染み込んだマデイラのワインが、もっとも際立った影響を授けてくれます。この効果においては、やはりファーストフィルのほうがセカンドフィルよりも顕著です。ファーストフィルからはイチジク、ナツメヤシ、柑橘類の豊かな風味が得られます。セカンドフィルは、もっと穏やかなフルーツ香の他にナッツ香を主張した印象になります。これらの要素が、モモや洋ナシなどの果樹園系フルーツ香に富んだインチマリンのハウススタイルに魅力を加えてくれるのです」

 

マデイラ樽フィニッシュのいろいろ

 

マデイラ樽でフィニッシュする目的は、まさにハウススタイルとの相互作用にあると言ってもいいだろう。グレンモーレンジィの熟成部門を管轄するブレンダン・マキャロン氏は語る。

「10年熟成したグレンモーレンジィの原酒を、長くて3年間マルヴァジーア・マルムジー樽で後熟したのが『グレンモーレンジィ バカルタ』です。グレンモーレンジィの定番であるクラシックなレモン風味を、オレンジマーマレードのような風味に変質させます。軽く焦がしたトーストに、たっぷりのバターとマーマレードを塗ったような味わいですね。ホワイトチョコレート、トフィー、ミントなどの印象も、マデイラ樽の後熟によって加わるのです。クラシックなグレンモーレンジィの骨格を残しながら、バランスを変化させた商品です」

マデイラ樽を積極的に取り入れているグレンモーレンジィのブレンダン・マキャロン氏。ベースとなるのは、あくまでクラシックなグレンモーレンジィのスタイルだ。

同じマデイラでも、他の品種のマデイラ樽で熟成したのが「グレンモーレンジィ グランドビンテージ 1993」だ。まずはバーボンバレルで10年、その後からブアル種のマデイラ樽で15年熟成したウイスキーだ。ブレンダン・マキャロン氏が説明する。

「これだけ長期間のフィニッシュが可能だったのは、樽のオーク材がほどよく古かったからです。その結果、驚くほど素晴らしい落ち着きとバランスを手に入れることができました。ブアル樽の影響でモモやアンズの風味を加えつつ、クラシックなグレンモーレンジィのスタイルは堅持したウイスキーです」

このブアル樽とマルムジー樽の影響を組み合わせることで、さらなる新しい探求の道が開ける。この両方の樽が使用されてるのは「アバフェルディ16年」と「アバフェルディ21年」。ハチミツのように風味豊かなアバフェルディの酒質に、キャラメル、モモ、オレンジの皮といった風味が加わっている。

樽に入れたモルトウイスキーは、常にその風味を変化させている。マスターブレンダーたちは、いったいどのような基準で熟成の絶頂期が来たことを判断するのだろうか。ブレンダン・マキャロン氏が答える。

「直感と経験ですね。私たちはテイスティングをしながら膨大な数のテイスティングノートを書きます。過去に書いたテイスティングノートをチェックすると、ウイスキー熟成が向かうべき方向性を判断できるようになります。その変化のスピードを感じ取れば、ピークを見極めることができるのです」

そしていつもの通り、究極の目標は望ましいバランスに到達することだ。シーバスブラザーズのブレンディング・ディレクターを務めるサンディー・ヒスロップ氏が説明する。

「マデイラにはとても魅惑的な甘さや、焦がしたナッツのようなオーク香もあります。このような特徴が、ウイスキーの複雑さやニュアンスを深めてくれるのです。使用する樽の効果は、もともとのウイスキーの特性を補うべきもの。ウイスキー本来の味わいと競い合ってはいけません。主なフレーバーは、もともとのウイスキーから発せられるものを堅持すべきなのです」

このように際立った影響をもたらしてくれるマデイラ樽だが、スコットランドでの人気は今後も高まっていくのだろうか。ステファニー・マクラウド氏が答える。

「マデイラ樽で熟成したモルトウイスキーを味わって、その魅力的な効果を感じなかったことは一度もありません。ウイスキーの魅力としっかり手を取り合ったバランスのよいウイスキーばかりです。マデイラ樽熟成のウイスキーが発売されるたびに、その魅力の大きさに気づかされますね」

 

マデイラ樽熟成を成功させる秘訣

 

さまざまなスタイルのマデイラを生産するために、それぞれ特有のブドウ品種が使用されている。もっとも甘味が強くてリッチな味わいのマデイラはマルヴァジーア種。ブアル種が中甘口で、ヴェルデーリョ種が中辛口。もっともドライな辛口がセルシアル種だ。

マデイラ樽原酒は毎週欠かさず経過をチェックするサンディー・ヒスロップ氏。後熟の効果は、不断の品質のモニタリングが鍵となる。

この中から特定の品種のマデイラ樽を使用する際には、あらかじめモルトウイスキーに及ぼす潜在的な影響力が吟味されなければならない。ステファニー・マクラウド氏が、この手法について説明してくれた。

「私はまず使用する樽で熟成されたマデイラの商品を手に入れ、グラスに注いで内面に付着させます。いったんそのマデイラを捨ててから、今度はそこにモルトウイスキーを入れます。この状態で香りや味わいを確かめておくと、熟成によって目指すべき結果をあらかじめイメージすることができるのです」

モルトウイスキーを特定の樽に接触させる場合は、定期的な品質のモニタリングが欠かせない。サンディー・ヒスロップ氏が語る。

「さまざまな樽の効果を探求して30年以上になります。実験的な樽熟成ならば、必ず毎週チェックを入れて、いつでも望ましいときに樽出しできる準備を整えています。熟成の進み具合は、さまざまな条件によって変化してきます。樽が蒸溜所に届いたら、フレッシュなうちにすぐスピリッツで満たすのが肝心ですね」