人生のさまざまなシーンを彩ってくれるウイスキーは、映画の中でも象徴的な脇役や小道具として活躍してきた。思い出のシーンを3回にわたって振り返ろう。

文:デービッド・T・スミス

 

定番のウイスキーカクテルは、さまざまな名画に登場している。『お熱いのがお好き』(1959年)ではマンハッタン。『007 死ぬのは奴らだ』(1973年)と『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008年)ではサゼラック。『ナイブズ・アウト』(2019年)と『ラブ・アゲイン』(2011年)ではオールドファッションド。いずれもアメリカンウイスキーをベースにした定番のカクテルだ。

現代でも根強い人気のある定番のレシピは、映画のさまざまな場面で印象的に描かれることになる。上記の映画は、ご存じの読者も多いだろう。他にも映画に登場した印象的なウイスキーカクテルを紹介しよう。
 

ウイスキー&ソーダ

 
陸軍大佐、総理大臣、ビバリーヒルズ警察署の刑事たち。そんなハードボイルドな人々に、長年にわたって愛されているカクテルといえばウイスキーのソーダ割りだ。アメリカ映画『市民ケーン』(1941年)、『華麗なるギャッツビー』(2013年)、『イヴの総て』(1950年)などに登場している。映画の中で、ウイスキー&ソーダは一般的にハイボールと呼ばれることが多い。スコッチ以外のウイスキーをソーダで割ることもあるが、スコッチを飲めるだけ裕福な登場人物は、常にスコッチウイスキーがベースのハイボールを飲んでいた。

とはいえ誰もがソーダ割りのファンというわけではない。映画『カイロ作戦命令』(1960年)では、ウイスキー&ソーダのアンチも登場する。主演俳優のジェームズ・ロバートソン・ジャスティスがカイロのバーでウイスキー&ソーダを出され、愛想の良いバーテンダーに「まったく何度言ったらわかってくれるんだ。ウイスキーに入れるのは無炭酸の水だけと決めているんだよ」と苦情を言うシーンがある。

ウイスキー&ソーダの正式なレシピはなく、ウイスキーと水の割合は好みによって異なる。「ダッシュ・アンド・ア・スプラッシュ」と呼ばれる濃いめのレシピは、ウイスキーと水の割合を1:1や2:1にする。ソーダの量は、もちろんお好みでさらに増やせる。自分なりのベストを探してみる価値は常にあるが、水の入れすぎを恐れることはない。ウイスキーの風味は驚くほどしっかりしているからだ。

現代的なウイスキーハイボールはロングカクテルに近く(ウイスキーと水の割合は3:1や4:1)、通常はハイボール用のトールグラスに氷を入れて供される。個人的には辛口のウイスキーをソーダで割り、甘口のウイスキーを無炭酸の水で割ることが多い。いずれにしても、重要なのは水をしっかり冷やしておくこと。特に炭酸水がぬるいと台無しになる。よく冷えた炭酸水は、泡もしっかりと保持してくれる。
 

セブン&セブン

 
前の「セブン」は、シーグラム社のアメリカンブレンデッドウイスキー「セブンクラウン」のこと。後の「セブン」は、レモンライム味のソーダ「セブンアップ」を指す。この組み合わせは1970年代に人気を博し、特に安酒場でよく飲まれていた。この飲み物に敬意を表して、7月7日はアメリカで「ナショナル・ダイブ・バー・デイ」(ダイブ・バーは場末の酒場のこと)と定められている。シーグラム社の「セブンクラウン」は、熟成されたバーボンに未熟成のグレーンスピリッツをブレンドしたもの。割らずに飲むと、オーク香とバニラの風味を感じさせる軽やかで癖のない飲み心地である。

映画の世界では、『グッドフェローズ』(1990年)でトミー(ジョー・ペシ)が注文している。また1977年の『サタデー・ナイト・フィーバー』では、主役のトニー・マネロ(ジョン・トラボルタ)が注文した。このウイスキーカクテルは『ダーティハリー』(1970年)にも登場している。

さまざまな比率を試した結果、私は個人的にお気に入りのレシピを完成させた。大きめのロックグラスにクラッシュドアイスを入れ、シーグラム セブンクラウンを50ml注いでからセブンアップでグラスを満たす。ライムのくし切りとチェリーを添えれば出来上がり。
 

クロウ&ビターズ

 
ジン&ビターズ(別名ピンクジン)の方が有名ではあるが、ウイスキー版も同じくらい美味しい。冷戦を題材にしたスリラー映画『五月の七日間』(1964年)の中で、フレドリック・マーチ演じるジョーダン・ライマン大統領がこのカクテルについて言及している。

クロウ&ビターズを作るには、バーボンの「オールドクロウ」50mlとアンゴスチュラビターズ(またはお好みのビターズ)を4~5滴使う。オールドファッションドグラスを冷やし、グラスの底にビターズを敷いて、氷を入れてからバーボンを注いで 軽く混ぜ合わせる。必要に応じて、冷やした水を追加してもよい。

オールドクロウは作家マーク・トウェインのお気に入りだったが、今日ではジムビームと同じくライ麦比率がやや高めのマッシュビルが特徴だ。本質的には「ジムビーム ホワイトラベル」よりも熟成度が軽い印象だが、同様のスパイス風味や焼きリンゴのような香りがビターズの複雑な味わいとうまくマッチする。

映画『五月の七日間』には、ウイスキーがたくさん登場する。上院議員が謎の軍事基地に拘束される場面では、彼を酔わせるためにバーボン「アーリータイムズ」のボトルが毎正時に持ち込まれ、信用を失墜させる小道具として使われる。
 

バーボン&ペプトビスモル

 
映画『ケープ・フィアー』(1992年)では、私立探偵クロード・カーセクを演じるジョー・ドン・ベイカーが、バーボン「ジムビーム ホワイトラベル」にペプトビスモル(乳白色の液状胃薬)を混ぜたカクテルを飲んでいる。これはアルコール依存症の探偵が、ストレスで胃酸過多になっている状況を暗示している。また映画『魂のゆくえ』(2017年)でも、イーサン・ホーク演じる牧師が同じカクテルを飲んでいた。
アメリカから取り寄せたペプトビスモルで、このカクテルを試してみた(読者諸君にはあえて薦めない)。出来上がった飲み物は、明らかにチョークとミントの味がするミルクシェイクのような趣きだ。歯みがきの後に、バーボンをストレートで飲んだような味といってもいい。ウイスキーの個性は感じられるが、なんとも気持ち悪い。これは症状よりも治療の方が不快な病気みたいだ。という訳で、私はたった一口で降参。間違いなくバーボンの無駄遣いである。
(つづく)