前回のカクテルに続いて、今回はさまざまな映画に登場するウイスキー銘柄をご紹介。祝いの席や敗北の場面などで、ウイスキーは登場人物の心情や社会的地位などを物語っている。

文:デービッド・T・スミス

 

映画に登場するウイスキー銘柄について紹介する前に、まずはこの簡単な調査が主に英語圏の映画に焦点を当てたものであることを断っておきたい。そのため、紹介するほとんどの映画は米国または英国で制作されたものだ。

英国の映画では、1970年代までは通常スコッチウイスキーが選ばれていた。米国映画ではバーボンである。だが1970年代から、この傾向に変化が現れ始めた。

映画に最もよく登場するスコッチウイスキーは「ジョニーウォーカー レッドラベル」だ。その上位ブランドである「ジョニーウォーカー ブラックラベル」は『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021年)、『ブレードランナー』(1982年)、『ブレードランナー 2049』(2017年)にも登場している。特に『ブレードランナー 2049』では、オリジナル映画に登場した奇抜なボトルデザインをヒントにした特別ボトルがジョニーウォーカーによって製造された。

その他にも、「ブラック&ホワイト」「ホワイトホース」「ヘイグ ゴールド」「ヘイグ ディンプル」といった昔ながらのスコッチブレンデッドウイスキーも映画の作中でよく見かける。

だがこれらの伝統ブランドは、他の新しいブランドの隆盛によって英国のバーやショップでも相対的に存在感が薄れつつある。そのような傾向はスクリーンに映る頻度にも反映され、そもそも若い世代では定番のウイスキーブランドという概念自体がアップデートされている。

太平洋をはさんだアメリカ大陸の映画となれば、最もよく登場するウイスキーは「ジャックダニエル」(通常は黒ラベルの定番「No.7」)だ。登場する映画のジャンルもさまざまである。ショットやオンザロックで飲まれることもあれば、映画『チョコレート』(2001年)でハル・ベリーが演じたように、ミニボトルからストレートで一気に飲み干すこともある。

「ジムビーム ホワイトラベル」「ワイルドターキー」「オールドグランダッド」などのバーボンもよく登場する。思いがけないシーンで、逸品を目にするのは嬉しい。映画『スパイダーマン』(2002年)では、ウィレム・デフォー演じるノーマン・オズボーン(グリーン・ゴブリン)が所有する邸宅に「メーカーズマーク」が置かれている。

バーボン「ブラントン」は1980年代から売り出されたブランドだが、21世紀には贅沢、富、そして良識の象徴としても知られるようになった。映画では、大富豪、政治家、国際的な殺し屋、あるいは誰にでも一目置かれるような人物が好んで飲むウイスキーとして登場する(TVシリーズ『JUSTIFIED 俺の正義』など)。

その他にも、ウィスキーが登場する映画はたくさんある。ガイ・リッチー監督の映画『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998年)では「オーバン」。映画『スナッチ』(2000年)では「フェイマスグラウス」。そしてジェームズ・ボンドの『007 スカイフォール』(2012年)では「ラガヴーリン 16年」といったスコッチウイスキーが出演している。

また『ナイブズ・アウト: グラス・オニオン』(2022年)ではバーボンの「アーリータイムズ」が登場した。さらには『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』(1989年)では、ダンスパーティー用のフルーツポンチがバーボン「アーリータイムズ」をベースにしている。
 

実話を題材にした名画の裏話

 
このようなテーマの記事を書く時に、避けて通れない作品が『ウイスキーと2人の花嫁』(1949年と2016年)だ。オリジナル版もリメイク版も、第2次世界大戦中にウイスキーが底をついたヘブリディーズ諸島の実話をベースにしている。

島民たちの祈りが通じたのか、輸出用のスコッチウイスキー5万ケース満載した貨物船が沖合で座礁。島民たちは見事な連携で船から乗組員とウイスキーを救出し、島内のあちこちに隠して税吏の目を欺く日々が始まった。スコットランド人の反骨心とユーモアが描かれた傑作コメディである。

オリジナルの1949年版では「ヘイグ&ヘイグ」「ジョニーウォーカー」「バランタイン」「マッキンレー」「ブラック&ホワイト」「ホワイトホース」「カティサーク」「マッキントッシュ」「アイラミスト」などのさまざまな銘柄が登場した。残念なことに、2016年のリメイク版では架空の銘柄が使用されている。
(つづく)