スコッチを世界的な蒸溜酒に成長させた原酒交換や独立系ボトラーのビジネスが、英国の旧植民地であるオーストラリアとニュージーランドで始まっている。

文:クリスティアン・シェリー

 

アルゼンチンと同じ南半球に、オーストラリアとニュージーランドがある。どちらも英国の旧植民地であるが、特にオーストラリアは植民地時代の法律がウイスキー生産の隆盛を阻んでいた。小規模なメーカーにとって、国内でのスピリッツ生産が現実的な選択肢となったのは1990年以降のこと。旧宗主国の英国に有利な植民地特有の法律が、部分的に撤廃されたのだ。

しかし今日のオーストラリアとニュージーランドは、世界屈指のダイナミックなウイスキー産地として成長している。この2カ国は、ウイスキーの新しい香味を生み出す注目の生産地だ。だがその中心はシングルモルトウイスキーであり、ブレンデッドウイスキーの生産はまだあまり活発といえない。

そんな例外のひとつが、ディガーズ&ディッチだ。オーストラリア産のモルト原酒とニュージーランド産のモルト原酒をブレンドしたウイスキーで、このブランドを販売するNZウイスキーコレクション社はニュージーランド南部のオタゴにある。ディガーズ&ディッチは2つの国のつながりを称えたウイスキーで、熟成には地元のワイン樽も使用している。

このようなウイスキーが、まだまだ珍しい理由は何だろう。NZウイスキーコレクション社のCEOを務めるグレッグ・ラムジーが答える。

「ウイスキーメーカーは、かなり以前から中核となる蒸溜所で自社ブランドに必要な原酒をつくるのに精一杯でした。需要を満たすのに必死で、実験的な試みをするための在庫が不足していたのです。ブレンデッドウイスキーはモルトウイスキーよりも格下の製品であるという誤解も根強く、それがシングルモルトの高騰という現象につながっています。このような状況も手伝って、新進の生産者はみなモルトウイスキーをつくりたがっているのです」

それでもディガーズ&ディッチ用のモルトは、大した苦労もなく調達できたととラムジーは言う。

「タスマニアのウイスキー業界と関わって20年になりますが、ずっと素晴らしい協力関係を維持できています。ダニーデンの旧ウィローバンク蒸溜所から、最後の原酒を8万リットル購入したこともありました。その原酒の品質を見極めるのに、タスマニアウイスキーを代表するビル・ラークがみずから手伝ってくれましたよ」

オーストラリアとニュージーランドには、このような協力体制によってブレンディングの文化を発展させる素地が整っている。ラムジーは独立系ボトラーとして状況の変化を実感しているのだ。

「ブレンディング用のスピリッツの調達価格を下げるため、各社がグレーンスピリッツを蒸溜する複式蒸溜機(コラムスチル)に巨額を投じています。スターワードの『トゥーフォールド』はそのパイオニア。全国レベルでブレンデッドウイスキーを発売しているメーカーに、アーチー・ローズとマンリー・スピリッツがあります」
 

ニューワールドウイスキーを売り出す英国の独立系ボトラー

 
世界のウイスキーを調達し、原産地以外の市場でブレンドしようとする英国のボトラーもこの流れに注目している。ブティック・ウイスキーの「ワールド・ウイスキー・ブレンド」を手掛け、アトム・ブランズのウイスキー部門を統括するサム・シモンズもその一人だ。ニューワールドウイスキーの生産地では、外国のボトラーが信用されるまでに時間がかかることをシモンズは承知している。メーカーの警戒心は当然のことなのだと説明してくれた。

「法律事務所を辞めて、ウイスキーづくりの夢を叶えた人がいるとしましょう。貯金を全部はたいて、ウイスキー蒸溜所を建てました。するとある日、見知らぬ人が突然あなたの家のドアをノックして、スピリッツを売って欲しいと言う。原酒をブレンドして、ブティックウイスキーなるブランドでボトリングしたいのだと説明されて不安になるのも無理はありません。アメリカでも同じような経験があるので、不信感を抱かれるのには慣れています」

ニューワールドウイスキーを積極的に紹介する英国のボトラーのひとつがブティックウイスキーだ。メイン写真は、ニュージーランドを拠点にオセアニアのさまざまなウイスキーをボトリングするNZウイスキーコレクション社の「ディガーズ&ディッチ」シリーズ。

それでも状況は変わりつつある。シモンズによれば、オーストラリアは大きくメーカーの意識が変わりつつある場所のひとつだという。理由のひとつは、1990年の法改正によってメーカーが対等な立場に置かれたこと。つまり歴史的に優位に立っていた宗主国の特権がなくなって自由な競争が始まったのだ。

「スタートの号砲は、ウイスキーづくりを志す人々を勇気づけました。本当に誰でもウイスキーがつくれる時代が始まったのです。困難な時代も経験してきたオーストラリアのウイスキー業界は、横のつながりも強くて協力的。みんなオーストラリアンウイスキーというカテゴリーを成長させるために一致団結しています」

オーストラリアだけでなく、スウェーデン、カナダ、英国の生産者もワールドブレンデッドウイスキーに興味を示しているとシモンズは言う。同業のボトラーたちから聞いた話では、北欧やフランスのメーカーも協力的になってきたようだ。

シモンズは、原酒交換によるブレンドの文化がより広く発展することを切望している。

「ブレンディングの文化や技術がなければ、単調なウイスキーしかつくられなくなる危惧もあります。原酒交換であれ、独立系ボトラーへの販売であれ、樽単位での原酒取引によって品質への評価が鋭くなります。これはウイスキー業界の質を上げていくことにもつながるのです」

ウイスキーの原酒交換が進むことで、さまざまな人が恩恵を受けることは明らかだ。しかし多くの市場では、原酒交換の慣習が根付くことを阻む高いハードルもある。歴史的な理由、経済的な理由、政治や文化の壁、消費者のニーズなどが構造的な障壁を作っているのだ。

それでもウイスキーの世界でもっと活発に原酒が交換され、さまざまな原酒をブレンドした面白いウイスキーが生まれる未来には期待したい。比較的歴史の浅いニューワールドウイスキーには、特にそんな潜在力があるはずだ。たくさんの新進メーカーが協業することで、世界のウイスキー業界をさらに活性化してくれることにもつながるだろう。