Runner’s View ― ニッカ 森 弥ブレンダーインタビュー【前半/全2回】
ニッカウヰスキーの次世代を担う、森 弥(もり わたる)主席ブレンダーの独占インタビュー。前半では森さんの経歴とこれまでに手がけた製品について伺う。
ウイスキーメーカーであれば必ず、ブレンダーはウイスキー品質の中核となる。
国際的評価もさらに高まり、販売量も目覚ましい増加を続けるニッカウヰスキー。そのブレンダー陣の中で若くして主席ブレンダーとして頭角を現す、森さんへのインタビューの機会をいただいた。ニッカウヰスキー柏工場内にある、ブレンダー室にお邪魔した。
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ウイスキーマガジン・ジャパン(以下WMJ) 本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。早速ですが、まず森さんのご経歴をお聞かせください。
森 弥主席ブレンダー(以下森氏) 2000年にニッカウヰスキーに入社し、最初は仙台工場(宮城峡蒸溜所)の品質管理部に配属されました。その後製造部に移り、仙台工場内での原酒開発にも携わっていました。
2004年にニッカウヰスキーの子会社であるスコットランドのベンネヴィス蒸溜所で勤務する機会を頂き、1年間、そちらで品質管理と技術開発を行ってきました。2005年に仙台工場に戻りまして、2010年の4月からブレンダー室勤務となり商品の開発を行っています。
WMJ もともと、ご入社前からウイスキーがお好きだったのですか?
森氏 ええ、学生時代からお酒の中ではウイスキーが一番好きだったということと…就職活動中に竹鶴政孝さんのストーリーを知り、「こういう仕事をしてみたい」と思い、入社に至りました。
WMJ なるほど。2010年にブレンダー室に配属されたというのは、それまでのご経験を踏まえてということでしょうか?
森氏 そうですね、製造の現場を理解しているということが大きかったでしょうか。ブレンダーという仕事は原酒を評価してブレンドするだけではなく、物事を俯瞰できることと工場ときちんと連携して良いものをつくっていくということも非常に重要ですので。
WMJ ブレンダーになられて、最初のお気持ちはいかがでしたか?
森氏 工場にいたときからブレンダーの方々との接点があり、どういう仕事かということは理解していましたが、やはり、ニッカの中枢を担う仕事ですので、責任重大だなという気持ちは正直ありました。
WMJ 実際に始められてからは?
森氏 考え方や仕事の進め方は聞いていた通りだったのですが、改めて知ったのは在庫管理や商品の中味の構成、処方管理ですね。常に新しいことを学んでいるという感じです。
WMJ 官能評価でも、工場とブレンダー室では全く違う内容になるのですよね。
森氏 工場で行う官能評価というのは「工場でつくった製品に問題がないかどうか」という視点です。例えばサンプルに嫌な香りがあり、それが製造工程に起因するのであればそれは直ちに改善しなければなりません。「通常つくっているものと違うものがないか」、そういう点を中心にチェックします。ブレンダー室では製品開発のための官能評価が主になりますが、ブレンダーとしても、まずそれぞれの原酒の特徴を掴むことが第一ですので、工場で経験したことがダイレクトに繋がっていると思います。
WMJ なるほど、工場で鍛えられたノージング力が今さらに進化されているのですね。
以前佐久間チーフブレンダーにお伺いしたのですが、製品の開発は一人のブレンダーが担当して行うそうですね。森さんが手がけられた製品にはどのようなものがありますか?
森氏 最初に手がけたのは、「ブラックニッカ クリア」ですね。もともと「ブラックニッカ クリアブレンド」という商品があったのですが、2011年に行ったリニューアルを担当しました。その後もいくつか手がけていますが、大きなものは2013年に発売した「竹鶴ピュアモルト」、昨年の80周年記念の限定品として出した「竹鶴21年 ノンチルフィルタード」と「アップルブランデー リタ30年」。それから「竹鶴ハイボール」ですね。
WMJ では、それぞれの製品についてお伺いさせてください。「ブラックニッカ クリア」は、「よりクリアに」というコンセプトでリニューアルされたかと思いますが、どんな工夫をされたのでしょう?
森氏 「クリアな華やかさ」のためには、比較的若い原酒の個性が必要になりますが、ただ若い原酒を中心にすれば良いというわけではなく…やはりバランスが重要ですので、とにかくブレンドを重ねての調整でしたね。どの商品でもそうですが、ある程度のところまでは頭で考えた通りにいくのですが、最終的な微調整は「トライ&エラー」で繰り返していくしかない。90%ぐらいはすんなり固まったとしても、残りの10%のほうがその何倍も、何十倍も時間がかかる…そういう感じですね。
WMJ 「竹鶴ピュアモルト」もノンエイジですが、「竹鶴」という重要なブランドであり、ピュアモルト―モルトだけのブレンディングということで、また違うご苦労があったのではないでしょうか。
森氏 「竹鶴12年」という商品が最初にあり、それをノンエイジにしたことのメリットをしっかりと出していきたいと思い、さらに華やかで飲みやすいウイスキーを目指しました。ノンエイジでは使用できる樽のバラエティも広がり、その分開発できる製品も多様化します。最終的にどこに着地すべきか、というところも難しかったですね。もちろんただ華やかにするだけでなく、「竹鶴」らしいモルティさや樽由来の甘さ、なめらかさを残しながらというバランスの取り方も非常に苦労しました。
WMJ 「アップルブランデー リタ30年」は全く違う商品ですね。
森氏 これはもう名前が先にありますから…リタさんのイメージと中味が一致しなければ、つくり手もお客様も納得しない。そこで自分なりの、リタさんの優しさ、可憐さ、上品さといったイメージを、中味に落とし込んでいく。それが非常に難しかったです。
WMJ 特に30年以上という制約もありましたから。
森氏 そうなんです。30年以上のアップルブランデー原酒のストックもそれほど多くないですし。
WMJ でもその苦心の甲斐あって、お客様の評価もとても高かったと思います。
森氏 はい、「ウイスキーライヴ パリ」に出展した際に試飲で提供しましたが、非常に好評で。カルヴァドスのような華やかさと熟成感があり、美味しいというお言葉をいただきました。
WMJ 本場フランスでも、日本に30年もののアップルブランデーがあるとは思わなかったでしょうね。
森氏 驚いていましたね。カルヴァドスのようだと評価をしてくれていましたが、やはり似て非なるところがあり…カルヴァドスは蜜のような濃厚さがありますが、当社のアップルブランデーは熟成感とともにリンゴの華やかさがしっかりあって。飲みやすさもありつつリンゴ本来の味わいが楽しめると思います。
【後半に続く】