スコッチウイスキーの条件を定義する地理的表示の条項が改定され、使用可能な熟成樽の種別がより明確かつ広範になった。気になる変更点をチェックしよう。

文:Whisky Magazine

 

スコッチウイスキーの法定表示に関する規則が改正された。具体的には、ウイスキーメーカーがスコッチウイスキーの熟成に使用できるオーク樽の種別と、使用できないオーク樽の種別を明瞭にすることを目的とした改定である。

今回の変更は、「スコッチウイスキーの熟成に使用可能なオーク樽の種別は何か?」という問い合わせが増加していることを受けたものであるという。 英国の環境・食糧・農村地域省(DEFRA)による公開協議を経て、欧州委員会が管轄するスコッチウイスキーの地理的表示(GI)の条項が改定された。スコッチウイスキー協会(SWA)によると、改定条項はすでに発効している。

SWAの事務総長を務めるカレン・ベッツは次のようにコメントした。

「今回の改定によって、条項の内容がより明瞭になり、スコッチウイスキーの熟成に使用できる樽の種類がさらに柔軟になりました。この変更はスコッチウイスキーの伝統や慣習に則った内容で、将来の発展に向けてスコッチウイスキーの土台を強化するものとなります」

またSWAの法務部長を務めるアラン・パークは次のように述べています。

「スコッチウイスキーの品質とオリジナリティに対する世界的な名声は、強力な法的保護のもとで何十年もの年月をかけて積み上げられてきたものです。スコッチウイスキーは世界中で何百万人もの人々に愛されていますが、その評判とプレミアムスピリッツと呼ぶに相応しい品質を守るために、法的な規制は必要不可欠なものとなっています」

主な変更点は、ビール(エール)やスピリッツを熟成した樽の使用にまつわるものである。新しい条文には、ビールやスピリッツを伝統的な工程で生産したことが認められる場合に限って、その工程に使用した樽が使用できるとはっきりと明記されている。

アラン・パークの説明が続く。

「幅広いワイン樽、ビール樽、スピリッツ樽が、長年にわたってスコッチウイスキーの熟成に使用されてきました。そのため、どのような樽が法的に許可されるのかをスコッチウイスキーの技術条項にはっきりと明記しておく必要が生じていました。今回の改正は、伝統的に樽を使用してきたと認められる酒造業界から入手した樽について、一貫して使用可能とするものです。特にスピリッツ樽の分野については、スコッチウイスキーの評判を守るいくつかの保障条件を満たしていれば、より柔軟に許容できる範囲が増えています」

 

果実原料の蒸溜酒樽を許容しながら例外を明記

 

これらの変更点が意味するのは、これまでスコッチウイスキー許容されていた樽の種別に加え、伝統的にスコッチウイスキーの熟成に使用されてこなかった樽の種別にも門戸が開かれるということだ。スコッチウイスキーの熟成樽としては伝統的といえないテキーラ、メスカル、果実原料の蒸溜酒(カルバドスなど)といった酒類の熟成に使用された樽も明確に許可されることになった。

しかしながら、これらの変更点にはいくつかの但し書きがついている。それは風味や甘味を加えることを目的として、発酵後や蒸溜後に核果を使用した酒類の熟成に使用された樽は認められないというものである。

重要なのは、熟成に使用された樽の種別に関わらず、最終的な製品となるスピリッツが依然として伝統的なスコッチウイスキー色、味、アロマを維持していることが必要となる。これは伝統的な製品の評判を守るために定められたスコッチウイスキーの地理的表示の目的に資するものである。

改正後の主要なスコッチウイスキーの定義は、以下のようになっている。

スピリッツは、オークの新樽や、ワイン(無発泡性ワインおよび酒精強化ワイン)、ビール(エール)、スピリッツ類などの熟成に使用したオーク樽に入れて熟成されるものとする。ただし下記の酒類を熟成したオーク樽は除外する。

• 原料に核果が含まれるワイン、ビール(エール)、スピリッツ
• 発酵後に果実、フレーバー、甘味が加えられたビール(エール)
• 蒸溜後に果実、フレーバー、甘味が加えられたスピリッツ
• 上記の製法を伝統的に採用しているワイン、ビール(エール)、スピリッツ

使用する樽の種別に関わらず、完成された製品はスコッチウイスキーの伝統的な色、味、アロマの特徴を示していなければならない。これらの条件は、以下で説明する後熟工程においても同様である。樽に入っていた内容物は、スコッチウイスキーまたはスコッチウイスキーとなる予定のスピリッツを容れる前に完全に排出されなければならない。(※スコットランドの飲料に関する検証機構:技術指導書(スコッチウイスキーの検証)2019年6月改定)

明確化された定義から、今後どのようなスコッチウイスキーが生まれてくるのだろうか。また、日本を始めとする諸外国の規制に影響を与えることはあるのだろうか。いずれにせよ、これからも伝統に根ざしたイノベーションの登場が楽しみである。