スモーキーって、どんな風味?

April 1, 2016


スモーキーな風味を持つウイスキーの市場が、世界中で拡大を続けている。国内でも「ボウモア」「ラフロイグ」「カネマラ」などのスモーキーモルトが着実に売上を伸ばしている。スモーキーモルトの魅力を感じさせる「スモーキーな味わい」を、4種類の銘柄によって分析するプロ向けセミナーが都内で開催された。

文:WMJ

 

アイルランド生まれで、アイラモルトのファンだというジョン・キャシュマン氏。比較テイスティングによって、「スモーキー」の正体を解き明かしてくれた。

日本語でいうなら、さしずめ「燻香」であろうか。ある種のウイスキーにとって、煙でいぶしたようなスモーキーな香りと味わいは、風味を構成する上で欠かすことのできない要素である。だが私たちは、「スモーキー」なる風味の実体をどこまで詳しく知っているのだろう。
 
そんな疑問に答えてくれるのが、アイリッシュウイスキーとスコッチウイスキーの専門家であり、ビームサントリーでグローバルアンバサダーを務めるジョン・キャシュマン氏だ。テイスティングセミナーのテーブルには、複数のモルトウイスキーが用意されている。スモーキーモルトの一大産地であるアイラ島からは「ボウモア」と「ラフロイグ」。これにハイランドの「アードモア」とアイルランドの「カネマラ」を加えた4銘柄を、サントリーは「伝統の香味を伝えるスモーキー4」と定義している。
 
「ようこそスモーキーモルトの世界へ。今日はウイスキーを味わいながら、フレーバーの旅に出かけましょう。黎明期のモルトウイスキーは、すべてがスモーキーな味わいでした。石炭が普及する以前は、ピートの煙で燻すほかに製麦の方法がなかったからです」
 
モルトウイスキーづくりで、原料の大麦麦芽に熱を加えて発芽を止める「モルティング」(製麦)という重要な工程がある。ウイスキーが発祥したアイルランドやスコットランドで、この製麦の熱源として使用されたのが、土から掘り出して乾燥させた天然燃料であるピート(泥炭)だった。
 
ピートとは、コケ類、ワタスゲ、葦、ヒースなどの植物が枯れて堆積した腐植土である。空気に触れず何千年もかけて分解され、土の重みで炭化する。このピートを掘り出し、野ざらしで乾燥させ、焚いた煙で乾燥させた麦芽がピーテッド麦芽だ。このピートを使用した製麦時に、独特なスモーキーフレバーがつくのである。
 
「石炭が普及するにつれて、いつしかノンピーテッド麦芽のウイスキーが主流になりました。それでも近年、ウイスキーの伝統的な香味世界であるスモーキーさに魅了される人は増えているのです」
 
アイラモルトのファンなら「ラフロイグ」と「ボウモア」を体験済みの方も多いだろう。絶え間なく吹き付ける海風や波しぶきを浴びたアイラ島のピートには、海藻や潮のような匂いが染み込んでいる。一方、海に面していないハイランドやアイルランドのピートには潮気が少なく、軽快でドライなスモーク香をもたらす原因になる。
 
ピートの採掘地はもちろん、採掘の方法でもウイスキーの風味は変わる。手で掘り出したピートは機械掘りのピートよりも湿り気を含み、多くの煙を発するためいっそうスモーキーな風味を強めるのだとキャシュマン氏は語る。
 

テイスティングで分析する、それぞれのスモーキー

 
「実際のウイスキーで、ピートの影響を調べてみましょう」
 

同じアイラの「ボウモア」と「ラフロイグ」でも大きな違いがある。アイルランドの「カネマラ」とハイランドの「アードモア」にもそれぞれ独自のピート香がある。スモーキーの世界は奥深い。

まず試飲したのは、アードモア、ボウモア、ラフロイグ、以上3銘柄のニューメイク(熟成する前のスピリッツ)だ。グラスに鼻を近づけるだけでスモーキーな香りがするのは、ラフロイグのニューメイク。アードモアとボウモアのニューメイクは、他の香りの背後にスモーキーさが隠れているものの、口に含むと独特の燻香がはっきりと広がってくる。
 
次にニューメイクと比較しながら、製品化されている熟成後のウイスキーを試飲する。ラフロイグは、まさにスモーキーアイラの王と呼ぶに相応しい。専用のピートバンクから手で切り出したピートを昔ながらのフロアモルティングで製麦し、海藻、潮、ヨードなどの香りをふんだんに表現している。好き嫌いがはっきりと分かれるリッチでパワフルな味わいだ。
 
ラフロイグがアイラの王なら、アイラの女王はボウモアである。フロアモルティングで製麦されたピート香は強すぎず、弱すぎず、甘みやスパイスと相まってどこまでも優美なバランスが際立っている。
 
またハイランドモルトであるアードモアには、アイラモルトのような潮気がない代わり、しなやかでドライなスモーク感と爽やかな果実味がある。ハイランドの伝統的香味スタイルの象徴として知られるアードモアのピート香は、キーモルトとして使用されるブレンデッドウイスキーのティーチャーズでもはっきり感じられるのだとキャシュマン氏は説明する。
 
そしてカネマラは、今やアイリッシュウイスキーで唯一のピーテッドモルトという希少な存在である。スモーキーさと共にアイルランドの豊かな自然を感じさせる、スムースでフルーティーな味わいだ。3回蒸溜が慣わしのアイリッシュには珍しく、スコッチのような2回蒸溜を採用しているが、このやわらかでマイルドな風味は紛れもなく穏やかなアイルランドの気候が育んだ個性なのだという。
 
「熟成したウイスキーを、同じ銘柄のニューメイクと比べると、熟成から得られた風味の要素と識別できます。樽の内側を焦がした風味もまたスモーキーな要素として認識されますが、ニューメイクにあったピーテッド麦芽由来のスモーキーさが、いつまでも風味のなかに残っていることはおわかりいただけたはずです」
 
今回テイスティングしたウイスキーのなかで、もっとも新しい銘柄が3月29日発売の「アードモア レガシー」だ。アイラファンを自認する生粋のスモーキー派なら、ハイランド特有のドライなピート香をじっくりと味わうのに最適。ウイスキーのビギナーには、ソーダで割った「煙香るハイボール」がおすすめである。
 
大地と、水と、風と、火と、長い生命の営みから生み出された唯一無二のフレーバー。ワインでいうところのテロワールを、ピート由来の個性的な風味で味わえるのが、スモーキーモルトのロマンチックな醍醐味である。
 

アードモア レガシー

700ml  希望小売価格(税別) 3,000円  40%

 

発売日:2016年3月29日

 

※掲載価格は販売店の自主的な価格設定を拘束するものではありません。

 

WMJ PROMOTION

 

 

カテゴリ: Archive, features, TOP, 最新記事, 風味