スカイ島とタリスカーの今【後半/全2回】
文:ガヴィン・スミス
タリスカー蒸溜所の見学では、ブランドの歴史を学ぶだけでなく、独特な蒸溜システムにも注目したい。蒸溜用のスペースには、ウォッシュスチル(初溜器)2基とスピリットスチル(再溜器)3基の計5基が備え付けられている。珍しい構成だが、これは1928年以前に3回蒸溜を採用していた名残なのである。
背の高いウォッシュスチルのメインネックからは、U字型にラインパイプが伸びている。これは初溜で発生した蒸気が、外側のウォームタブに到達する前に閉じ込められるような設計だ。精溜管と呼ばれる銅製のパイプがこの還流を助け、閉じ込められた蒸気をウォッシュスティルに戻して再び蒸溜を促す。
精溜管がスピリッツにオイリーな感触を加える一方で、銅の接触は比較的低レベルなのでニューメイクスピリッツには硫黄のような香りが残る。たっぷりと還流が起こることで、発酵中に生成されたフルーティーな香味をさらに洗練させるといわれている。
ディアジオのユアン・ガン(シニアグローバルブランドアンバサダー)は、風変わりなタリスカーの蒸溜システムについて次のように説明している。
「U字型に湾曲したラインパイプと、蒸溜器への還流を促す精溜管は軽やかな酒質に寄与します。でも蛇管式のコンデンサーを採用することで、ミーティーな重厚さを兼ね添えたスタイルにもなります。このあたりは、ほとんど矛盾したアプローチでもあるのです」
タリスカーの主力商品といえば、タリスカー10年とタリスカー18年だ。タリスカー10年はスモーク香、スパイス香、海を想起させる甘み、デリケートな柑橘の香りなどを併せ持つ。それでもスモーク香は、力強さよりエレガンスに傾いているのだとガンは指摘する。
「口当たりはやさしく、10年熟成にしてはたくさんの熟成効果が感じられるウイスキーです」
そしてタリスカー18年は、10年の荒削りな味わいから角を取り除いて口当たりを滑らかにし、甘味を加えてソフトな仕上がりになっているという。
「舌先に胡椒の刺激があり、最後に唐辛子の辛味を感じるのはタリスカー全商品の共通点。でも熟成年数や樽熟成によって、さまざまな要素が加わってきます。タリスカーは伝統的にやや強めの45.8%でボトリングしていますが、これはブレンダーいわくスパイスと香味の強度を表現するのに最適な度数なのです」
豊富なラインナップでファンとビジターを魅了
タリスカーには、10年熟成と18年熟成のほかに、25年熟成や30年熟成の商品もある。また年数非表示の「スカイ」と「ストーム」、オロロソシェリー樽でフィニッシュした「ディスティラーズ・エディション」、ルビーポート樽でフィニッシュした「ポートリー」も発売済みだ。
また2022年には、ホグスヘッドのリフィル樽、ヘビーチャーを施した樽、ヨーロピアンオークのシェリー樽(パンチョン)で熟成させた蒸溜所限定の「エレメンツ」を発売。さらに当初はトラベルリテール専用として発売されていた年数非表示の「サージ」も登場した。
これに続くのが、世界中の海洋生態系保護を目指す団体「パーレイ・フォー・ジ・オーシャンズ」とのコラボレーションから生まれた44年熟成の「フォレスト・オブ・ザ・ディープ」だ。フィニッシュに使用した樽には、チャーを施す際に海藻の香味も焼き付けられた。また「タリスカー x パーレイ・ワイルダー・シーズ」は、タリスカー蒸溜所が初めてフレンチオーク材のXOコニャック樽で後熟したウイスキーである。
また2022年にはディアジオのシリーズ「プリマ&ウルティマ」に37年熟成のタリスカーが登場し、さらに11年熟成の限定商品もボトリングされた。蒸溜所を訪れる人には、自分の手でウイスキーが瓶詰めできるサービスもある。
一般的な「タリスカー蒸溜所ツアー」は、タリスカーの個性が生み出されるメカニズムについて理解できる内容だ。製造エリアの見学と、3杯の試飲が含まれる。所要1時間で、料金は20ポンドだ。
また「メイド・バイ・ザ・シー・テイスティング・エクスペリエンス」は、製造エリアの見学を希望しないビジター向けのプラン。スカイ島の環境がウイスキーづくりに及ぼす影響を理解する。没入感たっぷりのセッションが特徴で、3種類のウイスキーが試飲できる。所要30分、料金15ポンドで家族連れにも人気だ。
そしてマニア向けの「カスク・ドロー&テイスティング・エクスペリエンス」は、熟成年数9年から18年までの5種類のウイスキーを樽出しで試飲できる。ワイン樽、ラム樽、ポート樽、シェリー樽で熟成されたウイスキーの試飲は楽しみだ。製造工程の見学は含まれず、所要1時間半で料金は150ポンドのコースである。どのツアーも www.malts.com で事前に予約してから訪れよう。
タリスカーのツアー参加者は、今でも増え続けている。ウイスキーファンたちは、見学者数が年間15万人にまで倍増することを喜んでいるわけではない。それでもディアジオは、蒸溜所の人気加熱による不具合を軽減することに成功した。カーボスト村まで足を運ぶすべての人々に、ハイレベルな見学体験が提供しようと努力を続けているのだ。