革新の波 ― カナディアンミスト蒸溜所【前半/全2回】

November 28, 2013

カナダの由緒ある蒸溜所を訪問し、その秘密を探る。

機会があれば、7月下旬にカナダのオンタリオ州コリングウッドを訪れてみよう。そこはビンテージカーが走り回る観光地で、エルビス・フェスティバルの日にはプレスリーの扮装をした何百人もの人々を目にすることになる。皆が楽しみに来る町 − 夏は陽射しが降り注ぐヒューロン湖の湖畔に、南にわずか2時間のトロントから多くのバカンス客が集まる。

ボートがすっかり片付けられて湖も見渡す限り氷結する冬には、別の目的で人々が訪れる − この辺りで最大のスキーリゾート、ブルー・マウンテンを目指して。そして、たまたま1月にコリングウッドに彷徨い込むと、カナディアンミスト蒸溜所の1ヶ月間にわたるフェスティバル、「ウイスキーリシャス」の真っ最中だ。

数十年にわたり、この蒸溜所はひとつのウイスキーだけをつくってきた − カナディアンミストだ。そして数年前、新しく飲みやすいウイスキーを導入し、人口2万人のこの美しい町にちなんでコリングウッドと命名した。「地元の方々から実に計り知れないほどの支援を受けました」と蒸溜所マネージャーのデイヴィッド・ドビンは言う。「ボトルに名前を刻んでもらおうと、皆が酒販店に列を作ってくれたんです」
「ウイスキーリシャス」の間、街中のレストランでは地元のシェフが腕を競い、コリングウッドウイスキーを使った料理を出す。バーではバーテンダーがコリングウッドベースのカクテルで競い合う。素晴らしい食事と飲み物のほか、ダウンタウンにはコリングウッドウイスキーボトルの巨大な氷の彫刻まで登場する。

このブランドは、ヒップフラスコのような一風変わったボトルデザインのためにウイスキーファンから若干の非難を浴びた。しかし、コリングウッドファンでアナウンサーのクリスティーン・カルドソ「ボトルの独特な形が気に入ったので夫にコリングウッドを勧めた」と公表したため、そのデザインが優れていると世間に知れ渡ることとなった。並外れたウイスキーのための特別なボトル、というわけだ。

多くのカナディアンウイスキーと同じく、コリングウッドも最初はトウモロコシとライ麦から始まる。しかしその後に、珍しいテクニックが加えられる―コリングウッドはメープルウッドでフィニッシュされる唯一のウイスキーなのだ。ウイスキーが最大1年間を過ごす熟成樽の板に、トーストしたサトウカエデ材が使われている。
カナディアンミスト蒸溜所はブラウンフォーマン社のブレンダーであるクリス・モリススティーブ・ヒューズと協力してこの革新的なアイディアを生み出した。ブラウンフォーマン社は1970年代に同蒸溜所を買収し、ブラウンフォーマン・クーパレッジがこのユニークな樽板を製造している。

1967年、ケンタッキー州のバートン・ブレンズ社はカナダでカナディアンミストをつくる蒸溜所の着工に取りかかった。アメリカ向けに企画されたこの新しいカナディアンウイスキーは確実なパイプラインを必要とし、ジョージア湾の入り江、ノタワサガ湾に面するコリングウッドは理想的な立地だった。ヒューロン湖の一部であるジョージア湾はアメリカ・カナダの五大湖のひとつに属する。五大湖は合計容積5,500立方マイルと世界最大の淡水域で、ノタワサガ湾の水は水晶のように透明だ。

1967年以降、カナディアンミスト蒸溜所は、アメリカでベストセラーになったひとつのブレンドウイスキーだけをつくり続けてきた。アメリカ市場向けに特別にブレンドされたカナディアンミストは一般的なカナダ人の好みよりやや甘く、フルーティだ。そのため、国境の南側ではどこにでもあるが、カナダではめったにお目にかかれない。

最近になって、アメリカで新たなカナディアンミスト − ブラックダイヤモンドが発表された。よりリッチでまろやか、そして力強く、カナディアンミスト愛好者が「特別なときのために」と求めそうな、慣れ親しんだ良さを失わずにスケールアップしたもの。これは成功し、新機軸の波を巻き起こしたとさえ言えるかもしれない。

皆さんがこの記事を読む頃には、ミストの名前でさらに3種類―ピーチ、シナモン、メープルのフレーバー―が出ているだろう(WMJ註:現在日本には正規輸入はされていない)。これらの新しいウイスキーはまだウイスキーを知り始めたばかりの、成長段階にある若い層「ミレニアルズ」(WMJ註:1970年代後半または1980年代〜1990年代に生まれた2000年以降に社会に出た世代を指す)のためのものだ。

※写真協力:カナダ・オンタリオ州観光局

【後半に続く】

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