ホワイトオークとバーボン業界の未来【前半/全2回】

世界的なウイスキーブームで、熟成樽の供給に不安が囁かれる。アメリカンホワイトオークを保護するため、バーボン業界はどんな活動と議論を進めているのだろうか。
文:マギー・キンバール
世界のウイスキー業界が、深刻な樽不足に見舞われたのは数年前のこと。当時もっとも苦労したのは、樽を小口でしか購入できない小規模なウイスキーメーカーだった。この樽不足という新しいニーズに対応するため、全米各地では新しい樽製造工場が立ち上がった。
ちょうど同じ時期に、アメリカンホワイトオーク自体の不足が迫っているとの懸念も浮上してきた。世界中でウイスキーブームが続くなか、業界関係者たちが「ホワイトオーク・イニシアチブ」を発足させた。これは組織的にアメリカホワイトオークの植樹と保護をおこなう活動の主体である。
そして樽不足という問題を奇貨として、バーボンの定義にまつわる規制を緩和する議論も始まった。アメリカ産のバーボンを名乗るには、ホワイトオーク新樽を必ず使用しなければならない。つまり一度使用された樽は、アメリカのウイスキー製造において利用価値が激減してしまう。
ホワイトオーク新樽の使用を義務付ける規制は、100年に満たない比較的新しい伝統だ。今でこそ樽の不足は落ち着いているが、アメリカンホワイトオークを植樹して育てるには時間がかかる。サステナブルな森の保全にも、依然として多くの課題がある。こんな今こそ、ホワイトオーク新樽の使用義務を見直す時期ではないかという声が挙がったのだ。
米国の表面採掘局で連邦林務官を務めるクリフォード・ドルーエは次のように説明する。
「気候、昆虫、病気、侵入植物、葉を食害する萎凋病など、オークの木にかかるストレス要因はたくさんあります。葉が破壊されると木が弱って害虫が寄生したり、干ばつで枯れてしまう可能性も高まります」
ストレス要因は地上にも地下にもあり、その数は数百種類に及ぶとドルーエは言う。
「この問題は、ホワイトオークを含むすべてのオーク種に関わるものです。そしてホワイトオークの伐採に関わる懸念は、バーボン樽だけの問題ではありません。米国南部やアパラチア山脈などの森林で、森に棲むたくさんの生物がホワイトオークのドングリを餌にしています。つまり生態系全体を維持するために極めて重要な樹種なのです」
単一樹種だけでなく生態系全体を再生する
クリフォード・ドルーエは、アパラチア地域再植林イニシアチブ(ARRI)の監督官でもある。このイニシアチブは、露天掘り鉱山に在来種の樹木を植えることで、活力のある自然林に戻すことを目的とした活動だ。ドルーエが実際の活動について説明してくれた。
「アパラチア地域全体で、かつての露天掘り鉱山をもとの自然林と同じ状態に戻す取り組みを進めています。その一方で専門の林業家が既存の森林を管理し、土地所有者にホワイトオークの健康を維持するための実践的な森林管理方法を助言しています」
健全な広葉樹林を守りながら、高品質なホワイトオーク材の安定供給を確保する。そのために元気なホワイトオークの苗木を継続的に植林し、古い露天掘り鉱山を再生しようというのだ。
「旧鉱山と自然林の両方で、集中的な森林管理技術と科学的研究を維持していくための長期的戦略です。私はこの作業を30年以上も続けています」
ウイスキー業界による「ホワイトオーク・イニシアチブ」とも協力しながら、ドルーエのARRIプログラムは集中的な森林管理を通じてホワイトオークの森が存続できるように努力している。その目的は、単一樹種の「樹木農場」を作ることではない。自然界で自然に形成される森林をモデルに、在来の植物とオークの混合植林を実施しているのだとドルーエは説明する。
「ビームサントリーは、3年以上前からこのプログラムの大きなパートナーとして大きな支援を続けてくれています。その真摯な態度には感銘を受けました。
ビームサントリーの現地担当者が「木材を購入してARRIプログラムを支援したい」と接触してきたとき、ドルーエはその意図を少し誤解していたのだという。
「ホワイトオークという単一の樹種だけを植える活動ではないのだと説明したら、彼は『わかっていますよ。百年前の原生林に戻すため、在来種の植樹も支援したいんです』と言ってくれました」
この植樹活動で、ドルーエは1エーカーあたり約680~700本の木を旧鉱山に植えている。その約30~40%がホワイトオークだという。他の樹種には、シャグバークヒッコリー、ショートリーフパイなどの在来植物も含まれる。植樹のスタイルも整然とした列状ではなく、「ショットガンブラスト」と呼ばれるランダムなパターンでもともとの自然状態に寄せていく。
このプログラムを支援する他のバーボン業界関連企業には、ヘブンヒル、ブラウンフォーマン、デンドリファンド、インディペンデント・ステイブ、サゼラック、スペイサイド・クーパレイジなどが名を連ねている。
ケンタッキー州内のメーカーズマーク蒸溜所では、ホワイトオークの遺伝子マッピングに焦点を当てた世界最大のホワイトオークのレポジトリ構築に取り組んでいる。これはケンタッキー大学およびスターヒル農場と協力して、300以上の異なる系統のホワイトオークの木を収集する活動だ。
スターヒル農場の敷地内には、ケンタッキー州で最高齢といわれるホワイトオークのひとつがある。その樹齢は300~500年と推定されるが、プロジェクトではホワイトオークの寿命を理解し、長期的なストレス要因に対抗する方法を確立することも期待されている。
メーカーズマークのレポジトリからは、十分な樹齢に達した樹木を他地域に移植することもできる。これはリジェネラティブ農業およびBコーポレーションの認証取得を目指す活動で、サステナビリティに注力するメーカーズマークの真摯な企業目標が投影されている。
(つづく)